世界遺産にも登録された岐阜県白川郷・富山県五箇山の合掌造り集落などに見られる茅葺き(かやぶき)屋根。「茅葺き屋根」と聞いて、昔話の童話や映画などの一場面を連想する人も多いのではないでしょうか? 

茅葺き屋根とは、茅と呼ばれるイネ科の植物を材料に使った屋根の構造のひとつ。一説によると縄文時代から家屋に取り入れられていたのだそうです。

自然由来の茅葺き屋根は、経年によって劣化していくので定期的な葺き替えや修繕が必須。かつては集落の共同作業として茅葺きが行われていましたが、現在は施工者がその役目を担っています。

そこで気になってくるのが、茅葺き屋根にかかる諸々のコスト。今回は、福岡県飯塚市を拠点に茅葺き工事などを行っている株式会社クボイの久保井伸治さんにお話を伺いました。

屋根全体の葺き替えか表面だけの修繕かで、コストは大きく変化

――「クボイ」では、普段どんな建築物の茅葺き工事を行っているんでしょうか?

「当社では、一般の家屋にはじまり、観光施設や自治体で保存している古民家などの茅葺きを工事しています。最近は、福岡県朝倉郡東峰村の古民家の茅葺きを葺き替えています。築150年近い古民家で、村には有名な窯元があり、その作品の展示・販売スペースとして活用されています。しかし、2017年7月の九州豪雨の影響で雨漏りするようになり、葺き替えが必要になりました」

実際にクボイが葺き替え工事を行った古民家

――屋根すべてを丸々葺き替えるとなるといくらかかるんでしょうか?

「屋根をすべて葺き替えると、だいたい2,000万円くらいかかります。これは茅葺き職人の人件費や民家周辺に組む足場代や材料の運搬費用や廃材の処分代などが含まれています」

――2000万円!? 決して安くはないお値段なんですね……。

「茅葺き屋根には茅が使われていますが、これはススキやヨシといったイネ科の植物のことを指します。質のいい茅を使う必要があるので、私たちの場合は熊本で刈り取られたススキなどを調達しています。

それらの手間を考えると、やはりそれ相応のコストがかかってしまうんです。より一般的な瓦屋根よりも専門的な技術を必要としますし。ただ、屋根の痛みが軽ければ、全体の葺き替えではなく表面の修繕だけで済ませる事もできます。修繕だと使える茅を再利用するなどの工夫ができるので、およそ500万円になります。お客さまには、なるべく費用が安くなるようご提案しています。葺き替えも修繕も施工期間はだいたい1か月くらいでしょう」

民家周辺に足場を組み、茅葺き職人が屋根を葺き替えていきます

メンテナンスをするだけ、耐用年数は長くなる 

――どれくらいの頻度で葺き替えを行うべきなのでしょうか?

「古民家のある地域の気候や茅の厚さ、屋根の面積などによって耐用年数は大きく変化します。一概には言えないのですが、15年から20年くらいが目安ですね。

ただ、こまめにメンテナンスを行えば耐用年数も長くなります。痛んでいる茅の部分に、新しい茅を差し込んで補修する「差し茅」も、小規模であれば家主さんでもメンテナンスできるんです。また、数年に一度、ヒノキやスギの木を燃やした煙で室内をいぶせば、ハチなどの虫が住み着くことを防げます。

逆に茅の部分を強く押したりすると、それだけ茅が痛んでしまうので取り扱いには注意が必要ですね」

――茅葺き屋根にまつわることで最近のブームや傾向はありますか?

「日本古来より伝わる茅葺き屋根は貴重な文化財としての側面も大きいので、地域の観光資源として保存・活用できるよう工夫を凝らしています。

茅の刈り取りや茅葺き作業の手伝いなど、ボランティアを募って体験ツアーを企画するなど、地域活性化の手段として活用しています。骨組みだけになった屋根に茅が葺かれていく様子を見物にくるカメラマンの方や地域住民の方もおられます。古民家を中心にコミュニティーができるんです」

古民家の骨組みだけになった屋根に茅を葺いている様子

■ 現在、ペット用の茅葺き小屋も人気

――海外にも茅葺き屋根は取り入れられているんでしょうか?

「オランダ、ドイツ、デンマークなど西ヨーロッパでも茅葺き屋根の家屋が普及しています。富裕層のステータスとして今でも新築で建てられているようです。

日本では、茅の根本を下に向けて葺いていく真葺きが主流ですが、ヨーロッパなどは根本を上にして葺いていく逆葺きを取り入れているケースが多いようです」

――新しい茅葺きのスタイルが開発されたりすることはないんですか?

「個人の導入事例として最近人気なのは、茅葺きの犬小屋です。職人がいくつかつくりましたが、茅葺き古民家の建築方式に則った犬小屋ができあがります。

費用は15万円~30万円ほど。茅葺きは遮音性に優れていて、かつ断熱効果も高い。夏は涼しく、冬は暖かく過ごせるんです。ワンちゃんにとっても快適な小屋になると思いますよ」

茅葺き屋根の犬小屋。見た人の多くが、写真を撮ってInstagramなどのSNSに投稿するそう

葺き替えに多額の費用がかかる茅葺きの家。新築で建てるのは、建築基準法に基づき確認申請も困難です。そのため、茅葺き屋根の家を手に入れたい場合は、茅葺きの空き家を見つけて改修するという手段が一般的です。

また、茅葺き屋根を体験してみたいという人には、茅の刈り取りツアーに参加したり、古民家カフェを利用したりするなどもおすすめです。「せめて、雰囲気だけでも茅葺きを生活に取り入れたい」という人は、ペット用の茅葺き小屋をオーダーするのもいいかもしれませんね。

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この記事の執筆者
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PHOTO :
株式会社クボイ
WRITING :
名嘉山直哉
EDIT :
廣瀬 翼(東京通信社)