男はいくつになっても恋をする。時に楽しみ、苦しみながら…。ルールや正解がないからこそ、想いは尽きないのだ。そこで参考にしたいのが、人生の大先輩たち。彼らは恋愛をどのように考え、装い、行動してきたのだろうか。本連載は、素敵に人生を重ねてきた紳士紳をバーに招き、お話をうかがいながら、我々が目指すべき道を探っていくものである。初回のゲストは、老舗セレクトショップ、シップスの顧問として、メンズクリエイティブアドバイザーを務める鈴木晴生さん。メンズファッションライターの丸山尚弓が、銀座の名店「ガスライトEVE」のカウンターを舞台にインタビューした成果を、前後編に渡ってお届けしよう。
鈴木さんって意外と受け身なんですね!
【丸山尚弓(以下、丸山)】今回は、日本のメンズファッションを長きに渡って牽引してきた鈴木晴生さんにお越しいただきました。70歳をすぎてもなお、お仕事に邁進し、毎年のトレンドカラーの制定や、各方面でファッションディレクションを精力的にこなしていらっしゃいます。それにしても、今日お召しになっているベージュのスーツ、素敵ですね!
【鈴木晴生(以下、鈴木)】今日のトピックを語るには、こういう色がいいと思ったんですよ。女性の下着の場合、白は禁欲的、黒だと反逆的なイメージですよね。そんな中で、肌色に近いベージュという色は、とても高貴なイメージ。それに、明るい色だと輪郭がソフトになり、甘くなる。それって僕はロマンティックだな、と思うんですよね。だから、僕は女性と向き合うときは、こういう明るい色を選ぶようにしています。
【丸山】輪郭が甘いとロマンティック、というのは新鮮ですね。
【鈴木】逆に、ダークでシャープな色だと「今、仕事をしているんだぞ!」という気持ちになる。女性より社会性が着こなしに強く反映されている男性社会では、明るい色を着るのが難しいシーンもあることは重々承知していますけど、最近では徐々にその垣根も取り払われつつありますよね。
【丸山】たしかに、職種によっては随分自由になった感があります。
【鈴木】僕はね、「男性は男性らしく」という質実剛健な時代のスタイルも好きだけど、70年代にレディースからメンズに本格的に進出したサンローランやディオールのスタイルも好きなんです。スタイリッシュな素材を用いて彼らが作り出した服には、女性が並んで歩きたくなるようなエレガンスがありましたね。
【丸山】カチッとしたイメージの服をさらりと着こなしていらっしゃるようなイメージだったので、それは意外です。では逆に、鈴木さんが女性を見てはっとする瞬間は、どんな時でしょうか?
【鈴木】生命力に溢れる人を見ると、セクシーだなと思います。肌の露出といった表面的な部分ではなく、自分の世界をちゃんと生きている人です。
【丸山】それは、すぐわかるものなんですか?
【鈴木】ええ。会話をした時に、自分の言葉で話しているかどうかでわかります。言葉には、その人が経験してきたことが集約されますから。だから会話をしていて「この女性は、光るものを持っているなあ」と思うと、どんどん興味が湧いてくる。
【丸山】誰かやどこかの受け売りではなく、何事も自分の言葉に昇華させて喋ることのできる女性ですね。
【鈴木】それから、たとえば初めて食事に行った時なんかに、相手が微妙に緊張している様子を見ると嬉しくなりますね。敬ってくれているんだな、っていうのが伝わりますから。それを感じられると素敵だなと思います。
【丸山】初々しい感じ、ということでしょうか?
【鈴木】そうですね。僕のために「どんな話題がいいかな」、「こういう質問にはこう答えようかな」って考えてくれているのが伝わってきたら、最高ですね!
【丸山】それは女性側からみてもうなずけます! では、男性が女性に声をかけてコミュニケーションを深めるにあたって、どのように振る舞うのがスマートでしょうか?
【鈴木】相手に気が付かれないようにする、ことでしょうか。気があることが伝わってしまうと、一気に言動が安っぽくなってしまう。ほら、小学生の頃とか、好きな人には意地悪する男の子がいたでしょう? あそこまで大げさではないけど、あえて正反対の事をすることはあります。それに、意識してしまうと声ぶりがおかしくなってしまうから、あくまで理性を保とうとしますね。
【丸山】どうしてもここで声をかけないと、もう二度と会えないだろうな、というシチュエーションでもそうなんですか?
【鈴木】う〜ん、そんな時はやっぱり、近づきたい気持ちが出るでしょうね。自分からは行かないけど、相手が「お茶でも飲みませんか」と声をかけてくれたら「そうですか?」とニコニコして行ってしまいますね。
【丸山】鈴木さんって、意外と受け身なんですね! いつでも、どんな場所でも、スマートに声をかけていらっしゃる姿を想像していました。
はやる気持ちを抑えて「熟成させる」のが大事!
【鈴木】僕は意外と慎重派なんです。相手の気持ちを読むのって、本当に難しいですから。それに、相手を想っている時が、一番幸せだと思うんです。
【丸山】確かに、結論が出てしまう前がもどかしくもあり、楽しくもありますよね。では一歩進んで、女性と初めて一緒にお酒を飲む時に気をつけていることはありますか?
【鈴木】まずは、お酒の好みを聞きます。最近はビールが好きなんていう女性も多いですけど、こういう洒落たバーにくると、やっぱりミックスしたお酒になるでしょう。カクテルって出来上がるまでがちょっとミステリアスというか。女性に好みを聞いたら、お店の方にどんなものがあるかうかがって、僕がオーダーします。
【丸山】自分で選ぶのも楽しいですけど、そうやって男性が選んで下さると、やっぱりときめきます。でもそのためには、お店の方と男性と女性、それぞれの絶妙な距離感が必要になると思います。特にお店の方は、カウンター越しでふたりの空気を読み取って、スマートにお酒を作っていただかないと…。もちろん鈴木さんは、そういう馴染みのバーを何軒もご存知なんですよね?
【鈴木】行きつけの店はありますけど、女性をそこに誘う時は、「わぁー、そんなところがあるんだ!」って思わせるようなプレゼンをしないとね。麻布のナントカとか恵比寿の隠れ家の…、といったわかりやすい部分ではなく、もっと神秘性のあることを伝えて。
【丸山】プレゼンですか!「そこ、すごく行ってみたいです」って女性に言わせたら、もうこっちのものですね。
【鈴木】いきなり「行きましょう」っていうと、強制になってしまいますから。そこは相手から引き出さないと。相手の反応を見て、これは大丈夫だな、と思ったら、そこではじめて「じゃあ今度、一緒に行ってみましょうか」って僕は言いますね。でも、ここで手帳を出して、すぐに予定を決めたりしたら野暮ですよ。はやる気持ちを抑えて、「じゃあ、また電話します」って言うんです。大人ですからね。熟成させないと。
【丸山】熟成ですか…。結果をすぐに求められる現代社会において、まだ経験の浅い男性にはちょっと難しいかも。
【鈴木】そこを頑張って、うまく相手が船に乗ってくるようにしないと。あとで電話しますっていう風にしておけば、女性のほうも気乗りしなかった場合に断りやすいでしょう。その場で「行きましょう、いつにしますか」って即答を求めるのは、子供が駄々をこねているようなものです。
【丸山】そうですね。それに、「いつ誘ってくれるのかしら」っていうソワソワする時間は、女性にとっても楽しいものですよね。
【鈴木】そろそろお酒の準備ができたかな?じゃあ、お願いします!
(ここで、女性バーテンダーとして初の世界チャンピオンに輝いた、「ガスライトEVE」の高橋直美さんの手による、色鮮やかなカクテルが運ばれてくる)。
【鈴木】色がまたいいですね〜。丸山さんの今日の装いにもぴったりだ。
ぜひ内容を説明していただきましょうよ。
【高橋さん】こちらは「ウィステリア」になります。ラムベースに、マスカットリキュール、ドライベルモット、グランマニエと、すべてがお酒で構成されているカクテルです。
【丸山】すごく美味しそう。このグラスも素敵ですね!
【鈴木】話を聞いただけで、グッときますね。こちらのお酒は?
【高橋さん】こちらはイヴというカクテルになります。当店のオリジナルで、カルヴァドスという林檎のブランデーをベースに、グランマニエ、ザクロのシロップ、レモンジュース、そしてペルノをアクセントに加えています。ほのかに薬草の香りがしますよ。
【丸山】林檎と言えば、イヴがかじった禁断の果実ですね…。
【鈴木】ブランデーが入っているから、きっと大人の味ですよ。
【丸山】ではいただきます…。はい…確かに甘すぎず、フルーティーで。でもしっかりと深みもあって、私のすごく好みです。美味しい。さすが鈴木さんですね!
(後編に続く)
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問い合わせ先
- ガスライトEVE TEL:03-6274-639
- 東京都中央区銀座8-4-24 銀座藤井ビル3F
営業時間/月~金18時~27時、土・祝日17時~23時
定休日/日曜日
アクセス/JR・地下鉄新橋駅から徒歩4分。
- TEXT :
- 丸山尚弓 メンズファッションライター