日々の疲れを洗い流し、心身共にリフレッシュできる温泉旅。天然資源である温泉はその土地ごとの個性があり、ただ体が温まるだけでなく、全身の凝りがほぐれるのを感じられたり美肌に近づけたりなど、普段の入浴では得られないさまざまな恩恵をもたらしてくれます。

そうした温泉のポテンシャルをしっかりと実感できる中部・北陸の名宿を、温泉ジャーナリストの植竹深雪さんがピックアップ。今回ご紹介するのは、長野県・野沢温泉にある「村のホテル 住吉屋」です。

植竹深雪さん
温泉ジャーナリスト
(うえたけ みゆき)全国各地の3000スポット以上を巡っている温泉愛好家。フリーアナウンサー、温泉ジャーナリストとして、テレビ番組をはじめ、さまざまなメディアで活躍中。著書に『からだがよろこぶ! ぬる湯温泉ナビ』(辰巳出版)がある。
公式サイト

源泉かけ流しで湯が新鮮!ステンドグラスが彩る浴室で美人の湯に浸かる

長野県の北部に位置する野沢温泉は、開湯1300年以上の歴史を誇る温泉郷。村内には13の共同浴場(外湯)が点在し、地域住民と旅人が古くから湯を分かち合ってきました。その温泉街のシンボルともいえる天然記念物「麻釜(おがま)」の目の前に建つのが「野沢温泉 住吉屋」。明治2年(1869年)の創業以来150年以上にわたり、野沢の温泉文化を守り伝えてきた老舗旅館です。

外観
宿の目の前にある「麻釜」は、90度以上の源泉を湧出する源泉。地元の人々が野菜や卵を茹でるなど、日常生活に密着した場として親しまれている。高温のため観光客は立ち入り禁止で外から眺めることができる。

まず、最大の魅力は、敷地内に2本の自家源泉を持ち、それぞれ大浴場と貸切浴室に配している恵まれた環境。しかも、源泉の湯温は90度と高温ながら、温泉の成分を薄めないために加水はしません。温泉水の配管の距離を季節に応じて調整したり、独自の冷却装置で風にあてたり、さまざまな工夫により少し熱めの適温にまで冷ました源泉を湯船にかけ流しているのだそう。

そうしたこだわりの湯づかいの賜物で、温泉のポテンシャルを十二分に実感できたと植竹さんは話します。

源泉の冷却装置
90度の源泉を風の力で冷ますための装置。

「泉質は、含硫黄-ナトリウム・カルシウム-硫酸塩泉。硫酸塩泉は、ナトリウムが付くと保湿効果、カルシウムが付くと肌の弾力アップが期待でき、三大美人の湯泉質のひとつです。実際に、入浴してみると無色透明で硫黄がほのかに香るやや熱めの湯が肌にしみわたり、じんわり汗がにじんできます。

心地よい汗をかくことで湯上りはすっきり爽快感があり、新陳代謝も促されたのか、翌朝、鏡をよく見ると肌のトーンが明るくなったのを実感できました」(植竹さん)

ステンドグラスの内湯
ステンドグラスの内湯。浴室は毎晩18時半に男女入れ替えを行う。チェックインが13時、チェックアウトが11時と一泊の滞在時間が長いため、男女共にステンドグラスの内湯に入浴することが可能。

「温泉の湯力に加え、さらに旅情を盛り上げてくれるのは、メディアで取り上げられることも多い、大正ロマン調の内湯。色鮮やかなステンドグラスや丸いタイル、リンゴ型の浴槽がレトロな雰囲気を漂わせ心ときめきます。

特に晴れた日の明るい時間帯は、日差しによってステンドグラスがゆらめきながら湯面に写り込む幻想的な光景が見られて惚れ惚れ。視覚的な美しさと温泉のよさが同時に味わえるのは、こちらの宿ならではだと思います」(植竹さん)

露天風呂
露天風呂。
貸切浴室
貸切浴室。

浴室は、フォトジェニックな内湯のほか、こぢんまりとした露天風呂や貸切風呂も完備。貸切風呂は大浴場とは別のもう1本の自家源泉から湯を引いていますが、泉質はいずれも含硫黄-ナトリウム・カルシウム-硫酸塩泉です。趣の異なる浴室を巡りながら、美人の湯の恵みを余すことなく堪能することができます。

客室一例
客室一例。和の情緒とモダンな快適さが融合した居心地のよさが評判。

郷土の恵みと伝統料理「取回し鉢」を個室の食事処で味わう

ご当地ならではの食事もまた湯旅の大きな楽しみのひとつ。信州の山々や野沢の里で育まれた旬の素材を大切にした里山旬菜会席料理は、滋味深く体に優しい味わいです。

食事処
個室の食事処。

「コースの会席に加えて、江戸時代から伝わる郷土料理『取り回し鉢』が供されるのも特色です。『取り回し鉢』とは大きな鉢に盛られた煮物などを皆で取り分ける伝統的な料理です。カップルやグループでの訪問ではなくひとり旅の場合、大鉢から取り分けるのではなく、個室の食事処にかわいらしい小鉢が何種かあらかじめセッティングされます」(植竹さん)

取り回し鉢
郷土料理の「取り回し鉢」。

「素朴で家庭的な温かみを感じられる料理を少しずついただけて、地域の食文化にも触れられるというのはうれしい体験です。そして、野沢といえば、外せないのが野沢菜。本場でいただく野沢菜は美しい発色で食感もみずみずしく、忘れられない味わいでした」(植竹さん)

料理一例
信州の素材が目白押し。

以上、野沢温泉「村のホテル 住吉屋」をご紹介しました。丁寧な湯づかいによる名湯をフォトジェニックな温泉で満喫し、充実した旅時間を過ごしたい人は次の行き先候補のひとつに加えてみてはいかがでしょうか。

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WRITING :
中田綾美
EDIT :
谷 花生(Precious.jp)