大人の幸せを感じられる瞬間のひとつとして、シャンパンを嗜んでいる皆様。そのおいしさを感覚だけでなく、さらに深く理解してみませんか?

前編ではモエ・エ・シャンドンの醸造最高責任者のブノワ・ゴエズさんにシャンパンと料理のペアリングにおいて“守るべき4つの原則”などを伺いました。大好きなシャンパンをもっと楽しむためにさらに教えていただきます。

【前編:「最高のペアリング」とは?モエ・エ・シャンドン醸造最高責任者が教える4つの原則】

今回、ブノワさんを囲んで行われた長野県の温泉旅館「扉温泉 明神館」では、フランス生まれのシャンパンと日本料理をペアリングしたディナーの席が設けられました。シャンパンを食中酒として楽しむことは増えていますが、和食のコース料理のすべての品をシャンパンとペアリングさせるのですから、かなり挑戦的です。

モエ・エ・シャンドンの醸造最高責任者のブノワ・ゴエズさん
扉温泉 明神館は山間の隠れ宿ですが、この日も海外からのゲストが宿泊するなど、訪れる価値がある宿として注目されています。

苦い=毒の味?ヨーロッパにはなかった「苦み」の味わいとのペアリング

日本語の「うま味」は、いまや世界にその言葉のままで使われるなど、食の世界のボーダーレス化は深まっています。私たちはその発展をただぼんやりと受け止めるだけでいいのでしょうか? せっかくならば、その背景や理屈を理解したうえで楽しんでみたいもの。

黄金の国・日本を“発見”し、欧州に伝えたのはマルコ・ポーロでしたが、味覚の世界における発見は、「苦み」。日本では鮑や鮎などの、「苦み」を持つ食材を料理に使っていますが、実はヨーロッパでは「苦み」を持つ食材は毒と認識され料理に使うことは避けられてきました。

「私からすると“苦み”は、毒などのマイナスのイメージがあるのに、わざわざ求めてそれをおいしいと思うのは、より洗練され、成熟された味覚の発露だと思っています。人間が元々持っている本能的な恐怖を乗り超えて、苦みのなかにおいしさといったものを求めているのですから」とブノワさん。

ヨーロッパでは高貴な方々が使う食器には銀製品が使われてきました。これも、硫黄やヒ素などの毒物が銀と反応し、黒ずむことで毒の有無を確認するためでもありました。恐れを超えた先に発見したおいしさの“苦み”を早々に楽しんでいた日本人は、食への探求心は強めなのかもしれません。

ワサビに黒胡椒など、食材に添えられた薬味などで味の段階を食中に変えられるのも和食の特徴のひとつ。この日は、奈川そばを岩塩と山椒オイルに浸し、芳醇なロゼ アンペリアルとペアリング。

ヴィンテージのシャンパンが、より「苦み」に合う理由

日本に訪問されるまで“苦み”と触れることのなかったフランス人のブノワさん。今や新しい経験を経て、自身の味覚の幅が広がるなかで、苦みとシャンパンのペアリングがうまくいくポイントがあるといいます。

「私の味蕾(舌にある食べ物の味を感じる小さな器官)もどんどん変化してきたと思うのですが、やはり鮎のように強い苦みだと、どのワインを持ってきても難しいと思います。ただ、ほかの味わいもあるなかに一部苦みがあって、それがほかの味わいと一緒に関係性をもって出されているものに関しては、ペアリングは可能だと思います。

シャンパンというものは、もともと自然な形で“苦み”と合わせる能力を持っていると思います。というのは、シャンパン自体にも苦みがあるからです。

モエ・エ・シャンドンのシグネチャーでもある『モエ アンぺリアル』で使われているブドウの3分の1は、赤い皮の黒ぶどう、ピノ・ノワール。赤い皮というのはタンニンが全体的に完熟していないので、そこにちょっと苦みがある。それが元々の要素として意図的に入れてある。

それをきちんとアサンブラージュ(ブレンド)を通して、ブレンディング、そして熟成を通して最後にドザージュ(瓶詰されたシャンパンに加糖をすること)を通して完璧な形にする。つまり苦みをひとつのコンポーネントとしてもってバランスをとるので、苦みと対応することができるのです」

今年リリースされた最新のヴィンテージシャンパン「モエ・エ・シャンドン グラン ヴィンテージ ロゼ 2009」。

「もちろん毒には解毒が必要となります。苦みに対しての解毒となると、うま味。そして、シャンパンのなかでその役割をとっているのは熟成香、熟成味であり、それは酵母からできています。特にヴィンテージ シャンパンで顕著です。本当に苦みが特徴のお料理と合わせようと思ったら、シャンパンのなかでも熟成していて非常にうま味が深く出ているものがふさわしいでしょう」

「先を見通す目」を支える実り豊かなブドウ畑

ブノワさんはモエ・エ・シャンドンに携わる前には、フランス国内だけでなく、アメリカ・カリフォルニア、ニュージーランド、オーストラリアのワイナリーでも経験を積んでいます。

「まずモエ・エ・シャンドンに入って一番贅沢だなと考えたのが、これだけの多種多様のすばらしいブドウを自分たちで選ぶことができること。その畑にしても、収穫年にしても、あらゆるものが贅沢にそろっている。その多種多様なものから厳選してつくることができる贅沢さですね。

そしてほかのワイナリーで働いてきたのですが、シャンパンをつくる工程の難しいことのひとつが、最終製品がわかっていない状態でブレンドしなくてはならないこと。そこから瓶のなかでの二次発酵、どんな熟成があるのがわからない状態でブレンドしなくてはならない。そのため、先の味わいを予測する“先見の明”を持っていなくてはなりません。それを長い歴史で培って持っていること。それが私がモエ・エ・シャンドンに入って感動したところです」

今年モエ・エ・シャンドンの醸造家としてのキャリアが20周年というブノワさんへの扉温泉明神館の枝木料理長からのサプライズ。

苦みのある食材とシャンパンのペアリング。次のディナーの席では意識してみませんか?

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この記事の執筆者
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WRITING :
北本祐子