栄から電車で2駅にある高級住宅地「白壁地区」とは?その成り立ち、景観を守る努力、住民の豊かな交流

「歴史ある高級住宅街は、繁華街へのアクセスは悪く少し不便」。そんなイメージがある方も少なくないのでは? しかし、今回ご紹介する名古屋の随一の高級住宅街と謳われる「白壁地区」は、そのイメージとは異なります。

白壁地区から名古屋の代表的商業エリア「栄」までは、電車で2駅。街の北側には地下鉄と同じ程度のダイヤ間隔で運行する「基幹バス」が通り、アクセスも便利。さらに、町内にはコンビニや郵便局があり、日常生活に事欠きません。

これだけ聞くと新たに開発された街のように思えますが、実は白壁地区は江戸時代から続く街。道路の両側に並ぶ白壁や武家の門構え、大正時代の建築など、いたるところに歴史と文化が薫ります。

白壁地区の近くにある、大正時代にネオ・バロック様式で建てられた裁判所。赤煉瓦と白い花崗岩の組み合わせが鮮やか。現在は市政資料館となっている/提供:名古屋観光コンベンションビューロー

生活の利便性と、閑静な環境。どのようにして両者が育まれ、今なお守られているのでしょうか? そこでお話を伺ったのは、東区役所地域力推進室。白壁地区の歴史や町並み、住民の取り組みや交流、そしてこれから白壁地区に住みたいと考えている方が気をつけるべきことなどを伺いました。

城下町としてはじまった白壁地区。名古屋の近代化を伝える街

名古屋は江戸時代に尾張徳川家のお膝元として栄え、その後も商業が発展した地。しかし、第二次世界大戦の激しい空襲で、市街地の大部分が焦土と化してしまいます。そのなかで戦禍を逃れた貴重な地域が、白壁地区。今なお名古屋の歴史を伝える貴重な建造物が残っています。

名古屋城のお膝元。尾張の大名が暮らしたのがはじまり

旧豊田家武者窓。町並みには、武家屋敷の名残が見られる/提供:名古屋観光コンベンションビューロー

名古屋城の東に位置する白壁地区のはじまりは江戸時代。1610(慶長15)年に清洲から名古屋へ尾張の中心が移されました。世にいう「清洲越し」です。そのとき、白壁地区には300石級の中級武士が移り住んだそう。

「清洲越しに際して豊田某という武士がこの地に居を構え、白壁の塀を建てました。以来、武家の住宅地として堂々たる白壁の塀が立ち並び、自然に誰いうことなく『白壁(町)』と呼ばれるようになりました」(東区役所地域力推進室・担当者)

財界人にも愛された明治・大正。豊田一族や日本の近代女優の第一号も住んだ街

明治に入ると、白壁地区一帯は武家屋敷の跡地の広大な敷地と、瀬戸への交通の便の良さから、陶磁器の輸出産業を中心に発展します。さらに明治末期から昭和にかけて、あのトヨタ自動車の豊田一族をはじめ、中京の財界を築いてきた人々も多く移り住んだそう。

日本の女優第一号であった川上貞奴と、電力王と呼ばれた福沢桃介が暮らしていた和洋折衷の二葉御殿(現在は「文化のみち二葉館」)。サロンとしての役目も果たし、多くの財界人が訪れた/提供:名古屋コンベンションビューロー

こうして集まった財界人は、広大な敷地に大邸宅を建てたといいます。従来の和風住宅のみでなく、一部を洋風にして造ることも多く、白壁地区は近代建築の優れた建物が集まる名、古屋屈指の高級住宅街となりました。現在でもその建築の数々が、料亭やレストラン、資料館として活用されています。

さらに、高級住宅街として続いているのは、市の「町並み保存地区」および「都市景観形成地区」に指定され、景観保持に取り組んでいる点も大きいのだそう。

伝統的建造物の修理には上限500万円の助成も。市が「町並み保存地区」に指定

名古屋市は「この歴史的環境を、可能な限り後世に残すよう努める」という目的のもと、白壁地区を含む「白壁・主税・橦木」約14.3ヘクタールを、市の町並み保存地区に指定。

太線で囲われた地域が「白壁・主税・橦木町並み保存地区」。保存計画が施行されたのは今から30年以上前の昭和60(1985)年/名古屋市webサイトより

新築・増改築は市へ届出を!伝統的建造物とその町並みを守る「修理・修景基準」

この計画では、細かな「修理・修景基準」が定められています。また、名古屋市では白壁地区において新たな建築や増改築などを行う場合は、事前の相談・届出を呼びかけています。

保存地区内において町並みの特性を維持している門や塀、近代建築などの古い建物は「伝統的建造物」に指定されており、それぞれの形式に従って復元・保存修理が行われます。「伝統的建造物以外の建造物」は、周囲の町並みと調和するように、主に以下のような修景基準が定められています。

建物
●原則として、2階以下とする
●道路境界には原則として塀を設置する
●塀と建物の間には道路から見えるような植栽を行う
●建物の外観・色彩は、町並みに調和するよう十分配慮し、可能な限り伝統的建造物にならう

門・塀
●和風の形式とし、保存地区内の伝統的建造物にならう

参考:「名古屋市白壁・主税・橦木町並み保存地区保存計画」より、編集)
塀と建物の間に植栽することで、自然豊かな落ち着いた景色が広がっている/提供:名古屋観光コンベンションビューロー

なかには、町並み保存地区指定前に建てられた建物や、少し背の高いマンションもありますが、その多くが基準に基づいて道路との境界に塀を設け、塀と建物の間には空間をつくり、緑を植えています。そのため、街を歩いていても、圧迫感を感じることがありません。

また、伝統的建造物の保存や、定められた様式に合わせた修景にかかる費用に対して、一定の条件を満たせば、市からの補助を受けられる場合があるそう。

「名古屋市白壁・主税・橦木町並み保存地区保存計画」より、編集

景観法に基づいた「都市景観形成地区」にも指定

さらに「白壁・主税・橦木」地区は、名古屋市景観計画において「都市景観形成地区」に平成23(2011)年に指定されました。建築物、塀や自販機などの工作物、広告物について、色や高さなど、合わせて63の基準項目が設けられています。

名古屋市景観計画は景観法に基づいています。そのため、建築物や工作物を設置する際の定められた届出の未提出や、虚偽の届出に対して、罰則が設けられているほど。

こうした市をあげた保存の取り組みが、名古屋の中心地にありながら閑静な佇まいを守ることに繋がっているのです。

交流も、子育ても。区と自治体で共に支える白壁地区の暮らし

名古屋の変遷を伝える景観の白壁地区。実際の暮らしについて、東区役所地域力推進室に伺いました。

「白壁地区のある山吹学区では、地域の町内会や自治会をはじめ、消防団やPTAなどの各種団体で構成される『山吹学区連絡協議会』を中心に、さまざまな地域活動に取り組んでいます。自主防災訓練をはじめとした防災活動、餅つき大会や運動会などの住民交流活動など、地域住民にとって暮らしやすい街となるよう、自主的で幅広い活動が展開されています」(担当者)

一例として「高齢者ふれあい給食会」があるそう。地域の一人暮らしの高齢者と、幼児や小中学生が一緒に給食を食べるイベントです。

開催の案内は、なんと連絡協議会の担当者が、対象となる高齢者の家庭を一件一件回ってしているそう。このような取り組みで交流が活発になり、地域全体が安心して生活できる環境がつくられているのです。

大正末期から昭和初期に建てられた旧井元為三郎邸(現在は「文化のみち橦木館」)の洋館の一室。庭越しに和館が見える。喫茶スペースのほか、展示会などに利用できる貸室もあり/提供:名古屋市

また、白壁地区は教育の面で優れているという特徴も。地区内には「金城学院中学校・高等学校」、近隣には「東海中学校・高等学校」、「愛知県立明和高等学校」など、市内屈指の名門校が集まっています。

そんな文化地区にあって、子育てについて東区も積極的な支援を行っているそう。

「区では、子育てサロンの開催や赤ちゃん訪問の実施などをしています。また、子ども会活動の支援や、入学式では初登校の交通誘導や声かけなどの見守り活動なども実施。子どもの成長を家庭・地域・行政が一体となって見守る仕組みづくりに力を入れています」(担当者)

ぜひ町内会へ加入を。これから白壁地区へ住まわれる方へ

最後に、これから白壁地区へ住みたいと考えている方に気をつけて欲しいことを伺いました。

「白壁地区に限った話でありませんが、転入・転居の際には各地域の町内会・自治会へのご加入をおすすめしています。町内会・自治会への加入申込みは、転入届などの手続きの際に区役所でも受け付けています。どの自治会に連絡したらいいかわからないときなど、ご利用ください。

町内会・自治会の活動は、住民の毎日の生活の『安心』と『安全』を支えます。そして、地域の一員としての『暖かさ』や『心強さ』を与えてくれるものです。住みよい街を築くうえで、欠かすことができません」(担当者)

文化のみち橦木館の外観。玄関ホールには4種類のステンドグラスや吹きガラスの窓があります/提供:名古屋市

今回は、便利な市街地近郊にありながら歴史と文化の薫る街、白壁地区についてご紹介しました。

独特の気品と穏やかな雰囲気が漂う街は、その歴史や景観を守る取り組みを知ればより奥深くなるもの。みなさんもご自身の街や気になる街について、調べたり自治会で話を聞いたりすると、街の景色が変わって見えるかもしれません。

※冒頭写真、提供:名古屋市

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EDIT&WRITING :
廣瀬 翼(東京通信社)