しみじみと「温かい気持ちになる本」
ストレスフルな環境に身をおかざるをえないこともある。不安や焦りで心が落ち着かないときもある。そんな、日ごろの疲れがたまっているときにこそ、手に取ってほしいのが今回ご紹介するこの5冊です。
ハラハラドキドキのストーリー展開や気分爽快の結末というわけではないけれど、大人の心にじんわりとしみ入るような"ぽっ"と温かい気持ちになる読後感の本ばかり。
大切なだれかを思い返したり、忘れかけていた心の機微に触れたり…。心地いい余韻を味わえるこれらの本は、ゆっくりとあなたの心をいたわり、栄養となり、幸せな気分にしてくれるはずです。
■1:三田修平さん(「BOOK TRUCK」代表)のおすすめ『月まで三キロ』
「科学という論理的なものが傷ついた人の心を癒やすという新鮮な温もりにあふれている」
地球惑星科学の元研究者である著者による、科学のきらめきによって人の想いを結びつけた短編集です。
推薦コメント:「6つの物語には月や化石、火山など自然モチーフが登場します。人間の感情という情緒的なものと、自然科学という論理的なものとの融合が不思議な味わい。
雪をモチーフにした『星六花』は、シリアスな悩みを抱える女性が雪の結晶の美しさや儚さ、その多様性に触れ、まるで雪が解けるように心がほぐされていく物語。どんな小さな変化も見逃すまいと辛抱強く目を凝らし、どんな小さな声も聞き逃すまいと耳を澄ます。
その変化や声がどのようなものであろうと謙虚にありのままを受け入れる。科学的な態度とはそういうもので、人からそのように接してもらうことで、傷ついた心も癒えていくのだと思わせてくれます」
著=伊与原 新 新潮社 ¥1,600
■2:鴻巣友季子さん(翻訳家)のおすすめ『平場の月』
「地元で出会った50代男女。愛する喜びと生きる悲しみ、両方を描く悲恋の物語です」
転職と親の介護、さらに離婚を経て、地元の埼玉で一人暮らしをする50歳の青砥。病院の売店で中学時代の同級生、葉子と再会する。葉子はかつて青砥が告白して見事フラれた相手で、離婚歴があり今は一人暮らし。
ふたりは「互助会」と称して近所で酒を飲む仲となるが、ほどなく葉子に大腸がんが発覚し…。孤独を引き受ける男女が信頼関係を育み、恋愛感情を抱いていく。大人の抑制された行動が心にじんわり響くラブストーリーです。
著=朝倉かすみ 光文社 ¥1,600
推薦コメント:「全然格好よくない50代の中年男女が主人公。どちらもバツイチ、勢いで恋をして結婚できる年齢でもない。そんなキラキラ度の低いふたりにも、譲れない矜持というものがしっかりある。"余命もの"では泣かないぞ! という方こそ、ぜひ読んでください」
■3:小池昌代さん(詩人)のおすすめ『武田百合子対談集』
「さまざまな人とのやりとりから伝わるひとりの女性の心の奥」
小説家・武田泰淳の妻で、泰淳の死後に、泰淳と過ごした富士山荘での日記『富士日記』を出版し、処女作にして高い評価を受けた武田百合子。没後から26年が経った昨年、随筆とはまた違う一面がかいま見られる、凝縮の対談集が発売されました。
夫・武田泰淳については深沢七郎と、また『好色五人女』については吉行淳之介と対話し、金井久美子・美恵子姉妹との洒脱なおしゃべりも。残された数少ない対談に加えて、NHKラジオで放送された岸田今日子との『富士日記』を巡る対談も初収録。
著=武田百合子 中央公論新社 ¥1,700
推薦コメント:「没後、実に久しぶりに刊行された、武田百合子の初となる対談集です。著者が生前親しくした人々との楽しげな対話のなかに、人間の深淵が不意にのぞくようで胸が熱くなります」
■4:林 綾野さん(キュレーター)のおすすめ『未来のだるまちゃんへ』
「常に子供のことを考え続けた絵本作家の自叙伝は大人にこそ響くメッセージがたくさん!」
『だるまちゃんとてんぐちゃん』『からすのパンやさん』などの絵本で知られる、国民的絵本作家のかこさとしが自身の人生について初めて語った自叙伝。サラリーマンとの二足のわらじ生活のこと、自身の子育て、震災と原発事故について…。希望のメッセージが詰まった一冊です。
著=かこさとし 文春文庫 ¥660
推薦コメント:「幼少期に戦線を経験した著者。もう二度と戦争を肯定するような世の中になってはいけない、そのために絵本に託したもの。それは、自分できちんと物事を見つめ、考え、判断できるようになって、明るい未来を歩んでもらいたいという、子供たちへのメッセージ。
こうしたかこさんの想いや言葉に触れることで、私たち大人も日々の生活に流されることなく、まっすぐな気持ちで生きていこうという初心を思い出させてくれるようです」
■5:間室道子さん(「代官山 蔦屋書店」文学コンシェルジュ)のおすすめ『夢見る帝国図書館』
「主人公は図書館!?文豪が実名で登場するなど本好きにはたまりません」
小説家を目指す"わたし"は、年の離れた友人・喜和子さんからの提案で、帝国図書館(現・国立国会図書館)の歴史をひもとく小説を書き始める。"わたし"と喜和子さんの人生が語られる物語の合間に、作中作で挟まれる『夢見る図書館』がまた傑作です。
著=中島京子 文藝春秋 ¥1,850
推薦コメント:「帝国図書館が心をもち、樋口夏子(のちの樋口一葉)に恋をするシーンが印象的。暑い夏の日、図書館は窓から風を入れて夏子を癒やし、彼女の閲覧証書に不備があるだの何かと難癖をつける意地悪な男性司書を廊下ですっ転ばせたりして、人間味のあること!
一葉のほかにも谷崎潤一郎、宮沢賢治らが実名で登場。本好きにとってはしみじみ胸が熱くなる一冊です」
※掲載した商品は、すべて税抜です。
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- PHOTO :
- よねくらりょう
- EDIT&WRITING :
- 樋口 澪・宮田典子・剣持亜弥(HATSU)、喜多容子(Precious)