仕事も人生も、自分らしいスタイルを少しずつ「更新」させながらライフステージの「踊り場」を果敢に乗り越えてきた40代・50代の女性たち。
現役でいられる時間が延びる人生100年時代の今、自らの心の声に耳を傾けて「生き方や働き方の軸足」自体をシフトさせる人も増えています。それまでもっていた価値観を見直して、変化させたことで人生がより味わい深く。「新しい働き方」を選んだ女性たちの深化の物語をお届けします。
今回は46歳でメーカー勤務から、人材育成会社代表にライフシフトした大村美樹子さんにお話を伺いました。
自分が残した足跡が次世代のための助けになれば
前職では「会社のため」に働く毎日でした。今は「お客様のため」の仕事ができていることがありがたいです」と語る大村さん。ストレスマネジメントやクレーム対応に特化した人材育成支援を軸に、ビジネスパーソンのメンタルヘルスを支える事業を展開しています。
3人の子供をもつ彼女のシフトのきっかけは、36歳で直面した長男出生時に起きた医療トラブルでした。
「それまでは大企業でバリバリ働いて昇進していく、いわゆるキャリアウーマンが目標でした。しかし、長男に日常的なケアが必要となり、会社員のままでは仕事中心の人生を望むことが難しくなりました。そこでこの先のキャリアプランの見直しを図ったのです。
自分のペースでは走りづらい大組織で、果たして幸せになれるのか。何かブレイクスルーするための武器が欲しいと思い、そこで仕事を続けながら、早稲田大学人間科学部で学んでみようと思い立ちました。
大学では本格的に臨床心理学を学びながら、人の脳と感情処理の関連を研究したり、認知行動療法を勉強しました。在学中に心理援助職資格を取得できたことから、思いきって会社を辞めて、46歳で今の会社の起業に踏み切ったことが大きな転機となりました」
起業後も学びを継続させようと52歳で早稲田大学大学院に入学して以降、心理学の最先端の知識吸収のため、現在も科目履修生として籍をおき、2019年にベルリンで行われた学会では、英語でポスター発表を行ったという大村さん。人の心の世界についてさまざまな探索を試みる彼女がたどり着いたのは、深く受容するスタンスでした。
「会社を飛び出し、多様な場所で異なる属性の人たちとつながりながら働くうちに、自然と長男の障害を受け入れている自分がいました。学んだ知識は、職場のストレスマネジメントやクレーム対応に特化した研修プログラム、人材育成支援の仕事などに役立てています。
『先生の研修を受けて本当によかった』と言ってもらえるのが、なによりの喜びです。この秋からは都内女子大学の非常勤講師として、キャリア開発関連の講義も始まります。これまで積み上げてきた自分の知識を若い世代に伝えて役立つことができたら、こんなにうれしいことはありません」
今の自分を自己評価するなら…?
「点数をつけるなら75点。シフト前の追いつめられていた自分と比べると今のほうが幸せで、リラックス感をもって働けていると思っています。心理学を学んだことで自己理解も進んで、何か課題に直面したときに迷ったり悩むこともなくなりました」(大村さん)
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- PHOTO :
- 眞板由起(NOSTY)
- EDIT&WRITING :
- 谷畑まゆみ