知られざる「叶 匠壽庵」の和菓子の裏側とは?知ればもっと「あも」が美味しくなる!
数多くの有名百貨店にも出店している創作和菓子店「叶 匠壽庵(かのうしょうじゅあん)」。滋賀県大津市に本店を構え、その歴史は60年以上に渡ります。
これまで、近江にまつわる歴史や文化を映し出した、創作和菓子を生み出してきました。
定番から季節の限定品まで、さまざまな和菓子を取り扱っており、自分へのご褒美、大切な人へのお土産としても親しまれています。
今回は「叶 匠壽庵」のことをもっとよく知るべく、広報担当者にお店の成り立ちや商品についての知られざる秘密をお伺いしました。
叶 匠壽庵の創作手法、46年続く銘菓「標野」について、そして手炊きの餡のこだわりの製法など、知ればますます「叶 匠壽庵」の和菓子を食べたくなるお話ばかりです!
■1:包装紙の裏面に「封筒の組み立て図」が印刷されている意図は?
近江にまつわる歴史や文化を映した創作和菓子で日本の風俗や慣習・美意識を表現し、残そうとしてきた創業者の芝田清次氏。
現在も使用されている包装紙は、1970年代に創業者が考案したもの。再利用のための工夫として、裏面には封筒がつくれるようにと、組み立て図が印刷されています。
当時は安くて丈夫なセメント袋に使用する紙を使用。そこに琵琶湖をはさんで額田王と大海人皇子の愛贈答歌を配し、心を込めたデザインにすることで、優雅さを備えた包装紙となっています。
「お菓子、包装紙、個包装、すべてが世にないものを生み出すという創作であり、そのこだわりは原料や材料の吟味も含まれていました」(担当者)
そして、もちろん和菓子への創造も並々ならぬものがありました。
■2:和菓子界のソニー!?タブーを打ち破り斬新な商品を生み出した創業者
創業当時は「和菓子は甘いもの」という概念があり、梅などの酸味が強い素材はタブーだったのだそう。
「どの店にもできない梅の和菓子をつくることができれば、それは紛れもなく世にない商品だ」。そんな想いのもとm新たな和菓子づくりを始めた芝田氏。まずは梅の林を手に入れ、自分が理想とする梅を育て、落ちる寸前の完熟梅を梅酒に漬け込みました。
試行錯誤の末にできあがった商品が、1974年に誕生した梅酒のゼリー「標野(しめの)」です。
炎のような赤色と、包装紙にも使用している情熱的な万葉恋歌からとった名前がマッチし、爆発的な人気を呼んだ「標野」。この商品のヒットで、「創作菓子の叶 匠壽庵」は一躍、有名となりました。
創作菓子であるという珍しさ、和菓子につけられたネーミング、包装紙を封筒として活用できるという心くばり、注文を受けてから包装するという当時では珍しい真心のこもった接客態度。そして、どこでも手に入るわけではない希少性。
加えて創業者は一代で、菓子づくりの素人であったという点から、1973年当時には「和菓子界のソニー」とも呼ばれたのだとか。
そういった菓子づくりの姿勢から、原料からの創作にも挑戦を始め、1985年には本社工場を滋賀県大津市の6万3千坪の里山「寿長生の郷(すないのさと)」に移転。
「和菓子屋の本質は農作物加工業者である、という2代目の理念のもと、3代目の現在に至るまで梅や柚子を育て続けています」(担当者)
また、水羊羹などのこし餡をつくる際に出る小豆の皮を堆肥として農業に再利用し、農工ひとつの循環する里山づくりにも取り組むなど、自然と共存する道を歩んでいます。
■3:「餡の炊き加減が同じ日はない」手炊きの餡に込められた想い
叶 匠壽庵でこだわっているのが、手炊きの餡。「機械では微妙な味が死んでしまう」という創業者の職人の味を追求する姿勢が受け継がれています。
通常は餡を炊く時、そのまま炊き上げますが、叶 匠壽庵では仕込みの段階で、1日という時間をかけているのだとか。
その過程では小豆を洗って水で炊き、小豆が膨らんだところで、一昼夜にわたり糖蜜に漬け置きます。
この作業が最適な糖の浸透を生み、じっくり時間をかけて小豆の中まで満ちていき、そうすることで深い甘みを持った美味しい餡になるのだそうです。
「炊き加減は年間を通じて同じ日はほとんどありません。小豆を収穫できるのは年1回。収穫したてのものと、10か月経ったものとでは、小豆の状態が違います。また小豆を炊き始める時の水温も季節によって異なるので、炊き時間や蒸らし、冷やす時間も変わってきます」(担当者)
職人のみなさんは、さまざまな条件に合わせて小豆の炊き加減を見極め、最良の餡を追求し続けているのですね。
■4:自社農園で育った蓬(よもぎ)を使ってつくる特別な「あも」
叶 匠壽庵の人気商品のひとつである「あも」。通年で販売される「あも」のほか、「あも(蓬)」が6月下旬までの期間限定で販売されています。
滋賀県と岐阜県の県境に位置する伊吹山。古来より「薬草の宝庫」として名高く、戦国時代には織田信長がこの地に薬草園を開いたと言われているのだそう。
そのふもとにある自社農園で採れる蓬。手摘みで芽のやわらかいところだけを摘み取り、あもの求肥に混ぜ込んだところ、香りも色もよく優しい味わいに仕上がり、毎年人気の旬あもとなったのです。
この自社農園のある地域は、耕作放棄地や高齢化、獣害などさまざまな問題を抱えていました。
「苦味のある蓬なら、柵で囲わなくとも獣害を受けず生産が可能です。同じ滋賀の企業として、共に伊吹の歴史を掘り起こしたいとの想いから、地元農家と特産品化に取り組むことになりました」(担当者)
和菓子だけではなく、地元への愛も感じられる試みですね。
おいしい和菓子をつくりたい、という想いはもちろんのこと、叶 匠壽庵の和菓子は素材や地元、そしてそれを食べる人や贈る人、贈られる人、すべてへの愛があふれています。そんな愛があるからこそ、叶 匠壽庵の和菓子は支持され、また愛され続けているのかもしれません。
今後もどのような愛と創造力にあふれた和菓子を私たちに提供してくれるのか、楽しみですね。
※価格はすべて税込です。
問い合わせ先
- 叶 匠壽庵 寿長生の郷
- 叶 匠壽庵(公式HP)
- 営業時間/10:00~17:00
- ※新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)の感染拡大防止のため、緊急事態宣言の対象が全国に拡大されたことを受け臨時休業していましたが、 5月14日(木)より一部営業を再開。詳細は公式HPをご確認ください。
- 定休日/水曜日(季節によって変動あり)
- TEL:0120-465-320(水日祝を除く9:00~16:30、お菓子についての問い合わせ先)
- 住所/滋賀県大津市大石龍門4丁目2番1号
- TEXT :
- ふくだりょうこさん ライター
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- EDIT :
- 小林麻美