現在、洋菓子業界唯一の宮内省御用達で、創業96年にもなる老舗洋菓子店「コロンバン」。
創業者の門倉國輝氏は、1915年に宮内省大膳寮員を拝命され、天皇のご盛儀のお菓子や、皇族方の日々のお菓子、アイスクリームなど時代の最先端の菓子をつくっていた人物です。
創業当時から本格フランス菓子を提供していたコロンバンは、今では日本国民の定番ケーキである「ショートケーキ」発祥の店でもあります。本場フランスで洋菓子を学んだ創業者が、日本人の舌に合うケーキをということで開発したのが、真っ白な生クリームに赤いいちごを配したショートケーキだったのです。
今回は、コロンバンの広報担当者に伺った、コロンバンの成り立ちや商品にまつわる、知られざるエピソードについてご紹介します。
老舗洋菓子店「コロンバン」の秘密5選
■1:日本初のオープンテラス喫茶など常に時代の最先端をゆく取り組み
日本に初めて本格フランス菓子を提供したとされるコロンバン。日本人好みのケーキとして生み出したショートケーキはもちろんですが、日本に初めて導入したものは、実はそれだけではないんです。
1931年(昭和6年)、東京・銀座にオープンテラス喫茶のパイオニアといえる路傍風の店舗「テラスコロンバン」を開店しています。今でこそオープンテラススタイルのカフェは珍しくないですが、当時の日本にはそういった喫茶店はありませんでした。
西洋風のオープンテラスカフェは、きっと当時の日本人の目には、最高に粋でおしゃれなものに思われたのではないでしょうか?
また、1951年(昭和26年)には、東京・渋谷にオープンした東横のれん街の中に、日本初の洋生菓子実演室付き店舗を設置しました。こちらも、今ではよく見かけるものですが、当時は大変珍しかったもので、子どもたちが物珍しそうに見ている風景が写真に残っています。
■2:職人の手仕事で4日間かけてつくる「ロワイヤルボンボン」
ヨーロッパで古くから愛され続ける伝統菓子「ボンボン」。コロンバンのつくる「ロワイヤルボンボン」は、オレンジのほのかな香りがただようコアントローリキュールを、砂糖のベールにとじこめた繊細な仕上がりです。噛むと、とろけ出てきた甘いリキュールが口の中に広がって、なんとも幸せな気持ちになります。
こちらはなんと、すべての行程が手作業で行われており、商品づくりに4日かかるという実に手の込んだ繊細なお菓子。ひとつひとつ微妙に形や大きさが違うのは、手づくりだからこそなんですね。
ロワイヤルボンボンをつくりあげる技術を持った職人は、コロンバン内にも10人たらず。そのため、つくれる数にも限りがあるそう。見かけたら、ぜひチェックしてみてください。
■3:「プレミアムアップルパイ」は上皇陛下がお忍びで食べた味
青森県産紅玉リンゴを贅沢に使用したプレミアムアップルパイは通年販売している人気商品。こちらのアップルパイには、ある逸話があります。
「上皇陛下が皇太子時代に、侍従の目を盗んでお忍びで銀座のお店にいらした際、召し上がったことがあります」(担当者)
上皇陛下が学習院高等科3年のとき(昭和27年)、仲のいい学友ふたりとこっそり「銀ブラ」した際に、コロンバンでプレミアムアップルパイと紅茶を楽しんだ、というエピソードが書籍『図説 皇室のすべて』(学研)で紹介されています。
もちろん、この後警察が出動するほどの大騒ぎとなったそうですが、なんともほほえましいエピソードですよね。
■4:戦後の日本を明るくした「ホットケーキ」
昔ながらのレシピで懐かしい味のホットケーキは、コロンバン原宿本店(現在、一時閉店中)で人気のメニューでした。
こちらは、1950年(昭和25年)発行の家庭向け生活総合誌『美しい暮らしの手帖』(現在の『暮らしの手帖』)で、創設者の大橋鎭子さんが「戦後みんなの気持ちを明るくする料理」として、図解写真付きのレシピを紹介したというエピソードがあるそう。
戦後、食糧事情も落ち着いてきて、「おいしいものを食べて気持ちを明るくしたい」という人々の気持ちが高まってきたころなのかもしれませんね。コロンバンは他にも、プディングやビスケットといったスイーツのレシピが『美しい暮らしの手帖』で紹介されました。
ホットケーキは、原宿本店の一時閉店に伴い提供がなくなってしまいましたが、原宿本店が再開する折には、再び提供する予定があるそうです。今こそ昔ながらのホットケーキを食べて、ほっとひと息つきたいですね。
■5:約40万匹ものミツバチが原宿を飛び回る!養蜂事業への想い
植物や農作物の花粉交配などに大きな役割を担うミツバチを増やす(守る)ことが環境保護につながるだろう、という想いから、自然環境に貢献する目的で始めたのがコロンバンの養蜂事業。コロンバンでつくっているスイーツにもはちみつは使うので、決して関係ない話ではないのです。
副産物として採れる「原宿はちみつ」は、明治神宮、代々木公園、赤坂御所、新宿御苑など、近隣の草花や樹木の花から、ミツバチたちが花粉や蜜をあつめてつくった香り高いはちみつ。季節によって咲く花々が違うので、とれるはちみつも色が変わってくるそうですよ。
1匹のミツバチが一生のうちに集められるハチミツは、ティースプーン1杯足らずだそうですが、取材時の4月末時点で養蜂場にいるミツバチは約40万匹。とれたはちみつは、「原宿はちみつプリン」などのスイーツに使用しているほか、年に一度はちみつそのものを限定数で販売もしています。
【関連記事:年に一度だけとれたてはちみつを限定販売している!?老舗洋菓子店「コロンバン」の知られざる商品・サービスとは】
原宿本店屋上で始めた養蜂事業ですが、現在は原宿本店の一時閉店に伴い閉鎖、渋谷コロンバンビルの屋上にある第2養蜂場に一時的に引っ越ししているそう。
「こんな時ですが、
無農薬野菜づくり、米粉専用工場の稼働…目指すのは「どんな人にもおいしいお菓子を提供する」こと
また、コロンバンでは、2011年1月より神奈川・海老名で農薬を使用せずに野菜を栽培する「アグリ事業」を開始。同社が展開する都内サロンのフードとして、こちらでとれた無農薬野菜を使用したメニューを提供しています。
さらに、コロンバンが今後強化していきたい取り組みとして、グルテンフリーのスイーツづくりがあります。小麦等に含まれるたんぱく質であるグルテンへのアレルギーを持つことで、食事が制限される人が増えてきている背景から、どんな人にもおいしいお菓子を提供したいという思いで、米粉専用工場を稼働したそう。
第1弾商品として2018年1月より発売された小麦粉、卵不使用の「グルテンフリークッキー」は、「グルテンフリーってなんかイマイチおいしくない……」という今までのイメージをくつがえすおいしさに仕上がっています。
コロンバンは現在創業96年。創業100年を目前に、さらなる新たな取り組みも予定しているそうなので、今後も注目です。
その長い歴史ゆえに、多くの貴重な逸話を持つコロンバン。ですが、歴史に甘んじず常に新しいことに挑戦していくお店でもあります。これからも、老舗が培ってきた技術と、先進的な取り組みで、私たちに新しい驚きと喜びを提供してくれるに違いありません。
※価格はすべて税抜です。
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- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 小林麻美