デザイナー、髙田賢三さんの「好きなものに囲まれた家」を訪問
白、黒、グレー。シックなモノトーンの世界に、生花やファブリックを使った鮮やかな差し色が映える…。まるで美術館のような美しい住まいを見せてくださったのは、デザイナーの髙田賢三さん。
髙田さんがパリへ渡ったのは1965年。以来55年間、パリ暮らし。引越しが好きで、現在の住まいに暮らすまでに、なんと20回ほど引越しをしているとか。
髙田さんのHouse DATA
間取り…6LLDK+上階にパリを一望できる小さな部屋
家族構成…ひとり暮らし
住んで何年?…10年目
「自分の感性を信じて、好きなものを少しずつ。家は、時間をかけてつくり上げていくものです」(髙田さん)
「初めて『自分の家』といえる場所をもったのは、47歳のとき、バスティーユに構えた家でした。
パリに住み始めた当初から、パリ左岸のサンジェルマンに住みたいという思いはあったものの、当時はバスティーユやマレ地区、ヴィクトワール広場周辺など右岸が活気づいていた時代。
そのころは、茶室や庭のある、広い日本家屋のような家をつくりたくて、コストパフォーマンスのよいバスティーユに決めたんです」
「パリにいても、ルーツである『和』の世界は、つねに感じていたい」(髙田さん)
バスティーユの家には、20年間暮らしたという髙田さん。
「和の空間は、建築家の川端憲二氏と相談しながら、日本間と茶室は竹中工務店、庭園はイワキ造園にお願いして、京都から石を運び、宮大工の方をお呼びするなど、かなり本格的な日本家屋。パリに居ながら『ジャポニズム』をふんだんに取り入れた住まいでした。
やっぱり、自分のルーツは日本、和の世界を感じたいという想いがあったんだと思います。家具はもちろん、器や美術品など、東洋のものを集め始めたのは、そのころから。本格的に伊万里焼や漆など、和食器をコレクションし始めました。それまではあまりモノを所有せずに暮らしていたんです」
2000年、デザイナーとしての仕事を退いたとき、ひとつの区切りとして、東京をベースにすることも考えたといいます。
「東京でも物件を探したのですが、結局パリに住み続けることに。ただ、場所は、長らく住んだ右岸ではなく、もともと憧れがあった左岸です。セーヌ河が近く、パリらしい景色が一望できる趣のある家を探していたときに出合ったのが、このアパルトマン。エッフェル塔が夕陽に映える点が決め手でした。
落ち着いた雰囲気で買い物も便利、時代とともに変化していくパリのなかでも、この辺りは変わらない魅力が残っている点も気に入っています」
引越しを決めてから、バスティーユの家にあった膨大なモノを整理するのもひと苦労だったとか。バスキアの絵画3点をはじめ、家具や食器などの多くをオークションで売却。
「また出合いがあるときに買えばいい。あまりモノに執着しないんです」
「一日の終わりを告げる美しい太陽を、静かに眺める時間が至福のとき」(髙田さん)
「私にとって家は、心からくつろげる場所。ホスピタリティが行き届いたホテルや宿も素晴らしいですが、やっぱり自宅は格別です。
仕事脳をリセットしてリラックスできる。旅から帰って、窓からのパリの変わらぬ空にほっとし、テレビを見ながらベッドでくつろぐ時間は至福です。
何より、寝室の窓から見る夕陽が最高。一日の終わりを告げる美しい太陽を静かに眺める時間に幸せを感じます」
夜寝る前や、朝、ベッドでお茶を飲みながらカード(トランプ)遊びをするときなど、寝室で過ごすゆるやかな時間に、アイディアやインスピレーションが湧くという髙田さん。
「今後は、畳の部屋など、小さくてもいいから『和』を感じる空間をつくって禅のムードを取り入れたいなと思っています。家はリラックスできることがいちばん大切です。自分の感性を信じて、時間をかけてゆっくりとつくり上げていくものだと思います。
僕も最初、インテリアは何がいいのかなんて全然わからなかった。好きなものを見つけて少しずつ集めていくうちに、だんだんと形になってきました。
だから、焦らずにまずは自分が好きだと思う趣向を知ること。好きなものに囲まれた空間は心からくつろげるし、なにより、自分自身に帰ることができると思うのです」
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- PHOTO :
- 篠 あゆみ
- EDIT&WRITING :
- 田中美保、古里典子(Precious)
- 取材 :
- 鈴木ひろこ
- 取材協力 :
- 萩原輝美