チヴィディーニ アートディレクター、ミリアム・チヴィディーニさんの「自由があふれる家」を訪問

ミラノから列車で約1時間。イタリア北部アルプス山脈の麓に位置するベルガモは、中世の街並みが残る美しい街。ここに自宅を構えるのは、ファッション誌『Precious』でもおなじみのイタリアのブランド「チヴィディーニ」のアートディレクター、ミリアム・チヴィディーニさん。

チヴィディーニといえば、代名詞のニットをはじめ、カシミア、シルク、コットンなど最高級の素材を、職人技術を生かして仕上げた、洗練のアイテムが人気のブランドです。

ミリアムさんは、夫・ピエロ・チヴィディーニ氏との共同創業者であり、ともにアートディレクターを務めています。

ミリアム・チヴィディーニさん
チヴィディーニ アートディレクター
1988年、夫・ピエロ・チヴィディーニ氏とともにチヴィディーニを創業。共同でアートディレクターを担当。ミラノ大学で建築学を学んだピエロ氏と、ヴァレンティノやアルマーニなどでキャリアを積んだミリアムさんによるデザインは、代名詞となるニットほか最高級の素材と職人技、モダンで洗練されたクリエイションが大人の女性に人気。

ミリアムさんのHouse DATA

間取り…リビング、ダイニング、キッチン、バスルーム、トイレ、寝室×2、書斎、ランドリールーム
家族構成…夫とふたり
住み始めて何年?…約1年

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リビングは、仕事を終えて帰宅後、まずリラックスする場所。読書もここで。

「家は、だれのためでもない、その人自身でいられる場所。自由と直感に満ちた、居心地のよい空間であるべきです」(ミリアムさん)

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2階の外階段から玄関へ。ホールの先にあるリビングは、リラックスする場所。日中は、窓から光が降り注ぎ、美しいチッタ・アルタ(ベルガモの旧市街)も見渡せる。ソファの上に置かれたポップなデザインのクッションは、ドイツ人アーティストの作品。35年前に友人のインテリアテキスタイル店で購入。赤いチェストは、北イタリアの家具ブランド「カッペリーニ」製で25年愛用。

「ベルガモには、今もたくさんの職人がいます。地区内で何度か引っ越しましたが、ブランド設立当初から住んでいる愛着のある場所です。この家は、30年前、広いオフィスを探していたときに出合いました。

1700年代末に建てられた、藁を貯蔵する納屋だった建物で、北向きの大きな窓がすがすがしく、リラックスできそうだと直感して。

私は精霊の存在を信じているのですが、そのとき愛犬が吠えたのも、そのポジティブな存在を感じたのでしょう。それも決め手となりました」

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40年愛用のソファは、最初は白地に細いブルーのストライプで、その後は白、エクリュ色の麻などに何度か張り替え、今はモーヴがかったライトグレーに。
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上質な麻のカーテンが印象的。床はダークトーンのウッドフローリング、壁はピンクがかった白。「ピンクの服は着ないけれど、軽やかさをもたらす色だと感じて」。ひとりがけの椅子はカッシーナのバルセロナチェア。

その後、オフィスは郊外に移転。一人娘の家として改修したものの、当人は結婚してN.Y.に移住。そこで、2019年1月、夫婦で移り住むことに。

「改修には2年半かかりました。元はオフィスだったので、住宅としてどう住み心地をよくするか、いろいろと苦心しました。素材やデザインは、まず自分の直感を信じ、そのうえで長いつきあいの建築家に相談。

「クオリティを知るプロや、好奇心あふれるビジョンをもつ友人などからのアドバイスも取り入れました。ベルガモには、職人がたくさんいるので、彼らの技を生かして内装を進められたのもありがたかったです」

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玄関エントランスホールには、色鮮やかな古いキリムカーペットが。パリのアンティークギャラリーで見つけたマッキントッシュのチェストは、大きすぎるため幅をカットし、ガラスの天板を載せて使用。
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マッキントッシュの古い家具を今の家に合うようにリサイズ。
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キッチンの壁には、黒いガラスタイルをステンレスのボルトで固定。「ルネッサンスの白×黒の床モチーフからインスピレーションを得て。このガラスタイルの製作には、ベルガモの職人技が生かされています」

「古くても、壊れていても、思い出や優しさを感じさせてくれるものに愛着を感じるのです」(ミリアムさん)

家は、だれのためでもない、その人自身であるべき場所、その人を映し出す鏡だとミリアムさんは言います。

「訪れた人は"サプライズあふれる家"だと言いますが、きっとコンセプトなど、特に意識していないからでしょう。

家具も以前の家から使っているものがほとんどで、リビングのソファは、私がヴェルサーチのアシスタントデザイナーをしていた1978年から使っているもの。決して座り心地がよいとはいえないけれど、今の時代にもマッチしているし、なにより思い出があります。

夫も私も直感的なタイプで、インテリアもハーモニーを大切にしています。大切な思い入れのあるものを中心に、調和するものを自然に配するだけ。古くても、壊れていても、優しさを感じさせるものに愛着を感じるのです」

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夫婦用の広いバスルーム。バスタブや洗面台はイタリアブランド・ボッフィ。
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「スチームバスは私のリラックス空間。夫からのプレゼントで、私のおもちゃでもあります(笑)。大好きな場所です」

公私ともにパートナーであるふたりには、ルールがあるとか。

「昔から、家では仕事についていっさい話さないことにしています。家は、待避所でもあります。心からくつろげて、自分自身に戻れる場所。そのためには、自由と直感に満ちた、居心地のよい空間でないと。家は、だれかに見せるためではなく、自分が心地よいと感じる『最後の居場所』なのですから」

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階段下には1900年初頭の絵画。チェストは東洋のもの、ゴールドのライトはイタリアの照明ブランド「カルテル」。
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「光の具合で、モーヴ、ベージュ、グレーに変化。陰影で壁の表情が変わります」というミリアムさんは、吹き抜けを生かしたフロスのライト。

「全体のインテリアと異なっても、そこだけ異次元。そんな遊び心ある展開もおもしろいのでは?」(ミリアムさん)

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娘さんと一緒に考えた自慢のトイレ。フランスの家をイメージした、ジャングルモチーフの壁紙がポイント。遊び心あふれる壁紙はトイレだからこそ生きる。

「家のインテリアとはまったく異なりますが、ドアを開けたら異次元が展開する感じが気に入っています」

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PHOTO :
Marco Bertoli
EDIT&WRITING :
田中美保、古里典子(Precious)
取材 :
高橋 恵