世界中を一瞬で非常事態へと追いやった「COVID-19(新型コロナウイルス)」。目に見えないこの大敵と戦う今、一刻も早く日常に戻れるよう、巨額の資金援助やハンドクレンジングジェルの無料提供など、さまざまな支援活動へいち早く踏み切ったのが、ヨーロッパ被害の震源地ともされるイタリアに本拠地を置くハイジュエラー、BVLGARI(ブルガリ)でした。
今回は、称賛すべき取り組みを行われているブルガリ・グループ CEOのJean-Christophe Babin(ジャン-クリストフ・ババン)さんに、Precious.jp編集部が特別にzoomインタビューを実施。
支援活動への思いや、これからのジュエリー・ファッション業界のあり方。そして、非常事態を乗り越えるコツなどをお聞きしました。
自分たちにできる支援を、スピーディーかつ最大限行う。それこそがブルガリのDNA
Q. 今回、いち早く新型コロナウイルス対策支援を開始されたとのことですが、そのアイディアはどこからきたのでしょうか?
ババンさん:ブルガリは10年ほど前から公益社団法人セーブ・ザ・チルドレンとチャリティーパートナーシップを締結するなど、子供教育への寄付や、ネパール地震災害をはじめとして多くの災害支援に力を入れてきました。
ですので、今回の新型コロナウイルス対策支援に関しましても、支援をすることが私たちの倫理的ミッションだと感じましたし、自然の流れで進行することになりました。
私たちは大きな財団ではありませんが、ブルガリのDNAにある「寛大さをもつ」という側面から「私たちにできる何かで、私たちのコミュニティー(世の中)に返していく」という発想が生まれ、今回も「私たちにできることは何か?」を、もっとも実用的な視点で考えました。
Q. 支援されている国や機関、支援内容を、具体的に教えてください。
ババンさん:現状、大きくは4か国への支援を実施しています。まず、イタリアのローマ市にあるラザロ・スパランツァーニ病院の研究部門へ寄付を行うとともに、国立感染症研究所であるデル・ヴェッキオ・パビリオンのセミナールームに最先端の3D顕微鏡を納品しました。
今回は長引くことが予想されましたので、これらの医学会への支援を継続的に行いながら、ICR(Industrie Cosmetiche Riunite S.p.A)社製の消毒剤を用いたハンドクレンジングジェルを生産し、イタリアとスイス、そしてイギリスの医療関係施設へ寄付(4月末日までに約60万本)を行っています。
そして、日本の医療機関へは、「イル・リストランテ ルカ・ファンティン」のエグゼクティブシェフであるLuca Fantin(ルカ・ファンティン)が、栄養バランスを考慮したスペシャルなお弁当の配布を、無償で実施しています。
4月22日には東京都立駒込病院の医療従事者へ180食、23日には国立国際医療研究センター病院へ200食提供しました。24時間体制のハードワークのなかで、ひとときの喜びを感じていただけるよう、東京都内の感染症指定医療機関を対象に翌週も実施。尚、5月中の配布に関しては、現在検討中です。
Q. 支援先はどのように選定されましたか?
ババンさん:蔓延を防ぐことが重要だと考えましたので、被害が大きい国や地域、緊急性が高い場所から支援すべきだと思ったのが率直なところです。
イタリアはブルガリの本拠地であるとともに、ヨーロッパ被害が拡大したスタート地点でもありますし、スイスは世界のなかでも被害者数の多い国のひとつです。そして、イギリスはヨーロッパのなかでも今だに感染者数が増えていますし、日本はダイヤモンドプリンセス号で感染者が発見されてから、長らくこのウイルスと戦っている医療従事者の方々が多数いらっしゃいます。
この現状がいち早く収束へと進むよう考え、決定しました。引き続き支援を続けていく予定です。
Q. ハンドクレンジングジェルの提供を、早急にスタートさせた理由を教えてください。
ババンさん:ハンドクレンジングジェルの生産は、私たちの商品である香水からアイディアを得たのですが、「私たちのネットワークやノウハウを使って最も迅速に動けることは何か?」と考えたときに実現しやすかったという点と、医療従事者に対してダイレクトにサポートできると思ったからです。蔓延を防ぐためには、スピードと実用的であることが最も重要だと感じていました。
マネードネーション(金銭的支援)はとても単純で明確なことではありますが、「私たちが生きている上で何を幸せに感じるのか?」と考えると、勇気や希望を与えられるヒューマンドネーション(人的支援)は、何にも代えがたいパワーになると思います。私たちの平穏な日常を取り戻すために、命がけで戦ってくれている方々の心のサポートになる。それこそが、私たちブルガリのスタイルであるといえます。
Q. ハンドクレンジングジェルは、実際にどのようにして生産されているのでしょうか?
ババンさん:我々のスタッフが、ボランティアベースで毎日作業をしてくれています。
実は、イタリア国内での新型コロナウイルスの被害が大きく、何千人もの命が失われてしまった場所でもあるロンバルディア州ベルガモのクレマ市に製造工場があるのですが、彼らは自主的に毎日工場へ出向き、作業を行ってくれています。
20人の勇敢なスタッフからスタートし、日に日に賛同者が増え、今では60人もの勇気あるスタッフに恵まれ、1日に20,000本ものハンドクレンジングジェルを生産できるまでになりました。
日本で実施しているお弁当プロジェクトももちろんのこと、皆、リスクを覚悟の上で、真摯に向き合ってくれていますよ。
Q. ババン氏から見て、称賛すべき取り組みをされている企業があれば教えてください。
ババンさん:私ちが属するLVMHグループはもちろんのこと、新型コロナウイルス対策支援の基金を立ち上げたフェラーリの取り組みも素晴らしいと思います。救急車を寄付したり、呼吸器バルブと防護マスク部品の生産に乗り出し、完成後にはイタリア各地の病院へ輸送すると発表されていますが、彼らの取り組みは私たちが日常を取り戻すための、的確なサポートに繋がっていると思います。
ピンチをチャンスに変える、そのコツとは?
Q. イタリアはロックダウンされましたが、それによって、いちばん大きく変化したと感じることは何ですか。
ババンさん:自由に買い物に行くことも、遊びに行くこともできなくなったわけですが、そのように規制が厳しい状況のなかでも、人生を楽しむことを忘れない、イタリアンスピリットを改めて感じました。
バルコニーから互いに勇気付けたり、24時間働く医療従事者への称賛の意を込めて歌を歌ったり、音楽を奏でる姿をSNSを通じて配信するなど、新しいアペリティーボムーブメントが巻き起こりました。
私たちにとってはとても自然なことではありますが、辛いときこそ明るく楽しめるよう振る舞う、そのポジティブな考え方に助けられることがたくさんありますね。
Q. これからのジュエリー・ファッション業界は低迷する可能性も高いように感じますが、それに対する施策は、どのように考えられていますか。
ババンさん:これまでは、巨大な規模でのファッションショーや展示会を中心に行ってきましたけれど、もしかしたら、プライベートイベントのように、お客さま一人一人に寄り添ったご提案をさせていただくようなスタイルが、新しいフォーマットになり得るかもしれません。これらは、お客さまとの距離を縮められる、より良い機会になる可能性もあります。
これまでの道理は通用しなくなるかもしれませんが、逆にこれまでやろうとしてもできなかったことを実現させるいいチャンスになるかもしれませんので、悲観しないで、視点を変えて前進して行くことが大切なのではないでしょうか。それこそが、新たなビジネスモデルを確立していくと、私は信じています。
今回は、ブルガリのCEOであるジャン-クリストフ・ババンさんに、新型コロナウイルス対策支援を行っている理由や、この非常事態を乗り越えていくために必要なことは何か?を、オンラインビデオでお聞きしました。
ポジティブシンキングなババン氏の一語一句は、色鮮やかなブルガリのジェムストーンのようにキラキラと輝き、私たちに希望という光を与えてくれました。
これからの世の中がどのように変化していくのかは予測不能です。このような状況の中でも物事が好転するよう、自分にできることを考えて行動に移してみることが、とても大切なのではないでしょうか。
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- TEXT :
- Precious.jp編集部
- EDIT&WRITING :
- 石原あや乃