ロックダウンの解除が進む、イタリア・アルバの現状
新型コロナウィルスの感染拡大により、2020年3月9日から7週間施行されていた都市封鎖も、段階的な解除の最中にある現在のイタリア。5月18日からはレストランや小売店も営業可能になり、友人に会いに行くという理由でも外出できるようになりました。
家族や気のおけない友人と一緒に食卓を囲んで、会話を楽しみながら大勢でご飯を食べるのが大好きなイタリア人。賑やかな雰囲気のなかで頂くお料理は、私たち旅行で訪れる者にとっても楽しみのひとつですね。
本記事では、UNESCO食文化創造都市、ピエモンテ州・アルバ在住の齋藤由佳子さんにお話を伺います。
ロックダウンが段階的に解除される中で、刻一刻と変わるアルバの街の様子や、心境の変化、外食産業の今後の展望、日本の皆さんへのメッセージについてお話を伺いました。
Q1:現在のアルバの街の様子を教えてください。
●5月15日時点の様子
「まだまだ油断は大敵という状況です。新たなルールで、市場の入り口にはセキュリティが立ち、衛生指導。消毒液スタンドも設置されています。娘も一緒に、ちょっと歩いてみるだけでもなんだか新鮮でした」
●5月18日時点の様子
「今日から小売店の営業が再開されましたが、買い物客はちらほら。大手ファッションチェーンも入り口を開け放して、どのお店も消毒液を設置しています」
●5月23日時点の様子
「水曜日(5月20日)までは、どのお店もこわごわと短い時間開店して試運転、と行った状況でしたが、お天気もよかったので大勢の人が街に出ていました。
週末の夜にはご近所さんが数週間ぶりに楽しそうに会食する賑やかな声が、随分遅くまで聞こえました。
久しぶりに子どもの服を買わねばならず街へ出てみましたが、水着やバカンス用のドレスなどを見ている方が多く、イタリア人のどんな状況でも人生を謳歌する気質を感じずにはいられませんでした。
夏に向け、このまま気が緩まないよう気をつけないと…と、第二波の到来が心配になりました」
Q2:解除前と後で、変わったことと変わらないことを教えてください。
【変わったこと】
「同じ州内なら(今までは不携帯だと罰金だった)申告書を持たずに出歩けるようになったのは、心理的に大きく、以前に比べて多少は気軽に外に出られるようになりました。
ちょっとした近所の散歩の際には、マスクなしで歩いている人もちらほら見かけるようになりました。街の活気が少し戻りつつある感じです。イタリア人も靴を脱ぐようになり、マスクを着用している様子は、まるでイタリアが日本化しているような感じもあります(笑)」
【変わらないこと】
「とにかくウィルスを家に持ち込まないことに気を配っています。外出時にはガレージでマスクや手袋を付け、カーディガンなどでなるべく肌が出ないようにし、帰って来たら全部ガレージで脱いで、ガレージ横に置いた洗濯機に入れてから家にあがるようにしています」
Q3:飲食店は、今後どう変化していくと思われますか?
「元々イタリアでは日本に比べて、一回の外食に使う平均価格が高いと感じます。惣菜なども高いので、家で料理して家庭で食事をするのが一番という文化が残っていたように思います。
1000円以下で立派な定食が気軽にいつでも食べられる日本では、外食産業の行き過ぎた価格競争と供給過多、無理のある労働環境によるしわ寄せが既に来ていたのではないでしょうか。
今回のコロナで店舗の数は淘汰されると思います。ある意味、外食することが、早く安く食にありつくためのものではなく、より豊かな食事を提供するサスティナブルな仕組みに変わる好機ではないかと思います。
レストランのロケーションやインテリアも、リラックスして自然を感じながら無理なくソーシャルディスタンスが取れるものに移っていくのではないかと思います。
アルバのレストランのクオリティは高く、星付きも沢山あります。幸い都市部よりこちらのリストランテは、庭や屋外テラスが多いので、そこがメインになるかもしれませんね。
語源を見ると、レストランはレストゥーレという人を癒すという意味です。本質的にそのような『癒し』の場所として、価値を向上する方向に向かっていくのではないでしょうか」
●BEFORE コロナ禍前のアルバのレストランの様子
「イタリアでは、どんなに大人数でレストランに行っても、同じグループの席がバラバラになることを嫌がります(笑)。とにかくみんな一緒に、ひとつのテーブルにぎゅうぎゅうになって座ろうとします。特別な日には3世代くらいの家族全員が、勢ぞろいして賑やかに楽しんでいる様子をよく見かけました」
●AFTER 5月18日時点のレストラン街の様子
「異常に厳しいニュールールの中でお店を開けるところはほぼ皆無。やっているのはテイクアウトか配達です。100平米のお店だとしても数組しか入れられない状況なので、多分店を開けても採算が取れないですし、再開すると補償も得られなくなります。まだ観光客もいないので、6月まではテイクアウトでいくところが多いのかと思います」
Q4:身近な方の訃報などがありましたか?
イタリアでも和食店で活躍しておられる、米国出身NY在住のRodelioAglibotシェフの訃報が届き、胸が締め付けられました。日本文化に造詣が深く、私が主催する和食文化研究のプログラムで三重県にも来て下さりました。
フードブッダと呼ばれ、チャーミングな笑顔と柔和な人柄で世界中にファンがいた方なので本当に悔やまれます。
日本のみなさんへのメッセージ
「イタリアはまだ、コロナで大変化した日常を取り戻すべく、少しずつ踏み出したところです。世界中でゆっくりとコロナの寛解がはじまっていますが、一気にコロナの影響が消えることはないのでまだまだ試行錯誤が続いていくのだと思います。
国や文化が違っても、コロナの対策にはお互いのベストプラクティスを学びあい、人類として共通して思いやり協力することが大切であると確信しています。キリスト教の博愛の精神のおかげなのでしょうか。イタリアではこのような過酷な状況下でも、私たちのような外国人の家庭が切り捨てられず、安心して暮らせることにとても感謝しています。
日本もコロナによって色々な社会的なストレスは高まっていると思いますが、こんなときこそより寛容に、誰も排除せず、優しい社会であり続けることを願っています」
インタビューを重ねている間にも刻々と日々変化していく街の様子は、想像以上のスピード感でした。コロナの影響下で試行錯誤しながらも、誰も排除しない寛容で優しい社会を実現する。そのために自分なりの対策をとることの大切さを、齋藤さんの言葉の端々から感じました。
- TEXT :
- 土橋陽子さん インテリアエディター
公式サイト:YOKODOBASHI.COM