花を通して、温かいつながりを発信する場をつくりたい!
「キャリアについて、後悔は一切ないです。後悔しないように活動してきました」──。そう語るのは、フラワーデザイナーの秋貞美際さん。その穏やかな雰囲気からは意外なほど潔い返答に、フリーランスとして働く秋貞さんの、仕事に対する信念の強さを感じました。
秋貞さんは、新卒でIT企業に入社。広告営業を経験した後、2009年に秘書室へ異動。2013年12月にワーキングホリデーで渡仏すると、パリ6区にある花屋「ROSE BUD」でインターンとして経験を積み、個人の仕事としてミシュラン一つ星レストランの装花を手がけます。
2014年12月に帰国し、フラワーデザイナーとしての活動をスタート。2018年3月に千駄ヶ谷にオープンした花屋「migiwa flower 」(2019年6月に麻布十番へ移転)を経営する一方、レストランやファッション展示会の装花、NHK「世界はほしいモノに溢れてる」や雑誌といったメディアにも多数登場するなど、活躍の幅を広げます。現在は麻布十番の店舗でのレッスンに加え、「DMM オンラインサロン」で毎月旬のお花の扱い方や束ね方を発信。さらに最近は執筆のほか、ライフスタイルグッズのプロデュースも手がけているそうです。
それでは早速、会社員とフリーランスの両方を経験し、多岐にわたって活躍されている秋貞さんに伺った、キャリアに関するエトセトラをご覧ください。
フラワーデザイナー・秋貞美際さんへ、10の質問
「2008年に新卒でサイバーエージェントのグループ会社に就職しましたが、1年目でサイバーエージェントに出向し広告営業をしていました。2年目にはグループ会社の方へ戻り、2013年まで秘書室に勤めました。
1年目は平均年齢30代の職場で、2年目からはいきなり平均年齢60代(笑) 当時は『上の人たちはなぜ今日と次の日と違うことを言うの?』と戸惑ったりしましたが、ひとりで仕事をするようになってからは、それも仕方なかったんだな、とわかるように。私もアシスタントが少しずつ増えてきましたが、組織を引っ張る際、ひとの顔色をうかがっていては進めないんですよね。当時の上司を思い出すと、旗を振ってとりあえず進む、みたいな割とパワープレイでした。ミッション遂行のために進む力の大事さを痛感しています。
とはいえ、現アシスタント達はみんな、何事にも積極的に取り組みとても頑張ってくれています。そこでさらに楽しく、よりよいチームにする為にはどうしたらいいか、日々試行錯誤しています」
「秘書室の業務のなかに、お祝い花を管理・手配する作業がありました。私が秘書をしていた会長が、お洒落でセンスのいい方だったんです。男性でしたが、お花に詳しく、イメージも明確にある方でした」
「あるとき、いつもと同じように同じお店に同じ価格で、白とグリーンのブーケを依頼したところ、作った方がいつもと違ったみたいで、だいぶイケてなかったんです。それでも時間がないので、そのまま報告用に写真を撮影し、相手に贈りました。その画像を見た会長に、私がやっているのは『仕事でなく、ただの作業だ』と言われて。『こんなのは君でなくてもできる。もっと頭を使って身になる仕事をしなさい。自分ごとにして責任を持て』と。
当初は不満でしたが、少し経つと確かに一理ある、と思い始めました。そこで『何月何日、季節限定の品を誰に贈った、反応はどうだった』というコメント入りの手土産のリストを作ったり、花についても花の名前を勉強し、他の花屋さんをチェック。私が25か26歳だったので、2010年か2011年ごろのことです。
インスタグラムもなく、情報源はブログやHPで、小売店の情報がなかなか入手できない時代。ネットで探すことができれば、そんなことはなかったんでしょうけれど、『世の中には花屋さんが少ないんだな』と勘違いしました。そして『よし、花屋になろう!』と。
当時、ノマドワーカーや副業、フリーランスという言葉がメディアに出てきたタイミングで、私はといえば『好きなこと』がない自分に焦りを感じていたころ。でも花には自分が興味を持てる要素がたくさん詰まっていたんです。例えば、色彩、香り、そして花を通した人との関わり──具体的には商店街のような気軽さでコミュニケーションの場となる花屋さんを開けたら、と。
好きなことを探すのに苦労して、実はよく内容も知らないのにPR、保険、人事など転職活動をしたこともあるんですよ(笑) 花屋になろう、と決めたのは、こういった『点』が集まって『線になった』ことを実感した瞬間でした」
「今度は贈るため、ではなく働くための花屋さんを探すことに。営業の経験を活かし、アタックリストを作るために画像検索をしていたところ、気に入った画像全部が一つの花屋さんのものだったんです。『絶対ここで働きたい!』と住所を調べたらパリの『ROSE BUD』で。こんなにピン!ときたお店だから、場所が海外だから行かない、は理由にならない。ワーキングホリデーのビザを取り、パリに渡りました」
「有難いことに、インターンとして働いている一年の間に、個人として一つ星レストランの店内装花の仕事をもらえたんです。帰国する際、ROSE BUDのオーナーは『外国にもかかわらず、自分で仕事を取れたんだから、自分の国では独立して勝負しなさい』と。尊敬している人に言われたのですごく心強くなって、帰国したらすぐ個人事業主の申請をして、現在の活動を始めました」
「温度感のあるコミュニケーション」が現職の魅力
「あきらめないこと、周りへの感謝を忘れないことです』
「やらなくて後悔したときのことを考えます。挑戦って、いつでもできる訳じゃないですし、迷うことができるのは、余裕があるということ。女性はライフステージが変わっていくので、やっておけばよかった!と思うほうが私には恐怖です。タイミングが合うのであればやるべきだし、ダメなら戻ればいい。そう思うようにしています」
「お客様だけでなく、スタッフも含めて、人の感情にリアルに触れられること、そして温度感のあるコミュニケーションが取れること。
IT業界で働いていたときはすべて数値化されて、広告を見た人の『ときめき』は伝わってこず、無機質さを感じていました。花の仕事は、お店やウェディングなどの現場で直接反応に触れられます。また、一つの現場をみんなで創り上げていく際の温度感も好きなんです」
「人とのつながりです。正直な話、お花屋さんもたくさんあるので、技術が優れている人やお店はたくさん存在します。素敵だからだけでなく、そのお店に行くのが楽しい!気分が上がる!とか、そういう花屋、花を贈る場所でありたいと思っています」
「一切ないんです。後悔しないように前に進むのをポリシーにしています。失敗はたくさんしますが、失敗と後悔は違いますよね。失敗したら、次の活動に活かすようにして、モヤモヤッとした『後悔の部屋』に入れないようにしてます。
IT企業に入り、広告営業をやりたくてやったのに辞めてしまったことがあったので、次はちゃんと成し遂げたい、というのがありました。それなので秘書のときは、3年ほどかけて、秘書検定を5級から1級まで、全部取得しました。営業だったら売上目標の達成というのがありますが、秘書室はバックオフィスなので成果が見えにくいんです。
また、花の仕事についても、自分の場所を持つところまでは絶対やる、この仕事を絶対に辞めない、と決めました。広告営業を途中で辞めたことを、秘書検定と花の仕事の継続で消化させているというか、最近それが『後悔』ではなくなった、と実感しています」
意義を見つければ、仕事がきっと楽しくなる!
「自分自身が仕事をしながらも、結婚や出産といった女性としての生き方もポジティブに受け入れていきたいと思っているので、自分の経験を活かして、これから制度や働き方を反映していけたらいいな、と思っています。
一番に思うのは、『仕事=面倒、辛い』でなく、仕事を楽しいと思える女性が増えたらいいな、ということ。私自身、働くことが嫌いだったのですが、一生懸命取り組んでいる人のなかに自分が入ると、面倒臭いと言っている自分がとても恥ずかしくなりました。自分もメンバーの一員として向き合うと楽しくなっていく、という経験をしたので、そういうマインドを持てたり、気づきを与えられる職場環境を作ることが目標です」
「ウェディングや展示会といった大きなイベントの案件が総じてストップしています。そこで得ていた予算は大きかったですが、ある意味、忙してくておろそかにしていた『自分の場所を育てる』のにいい機会だな、と思っています。花や花材を持ってどこかへ行くのではなく、自分の場所から発信するスタイルに切り替えるようになりました。
コロナが騒がれ始めたころは『どうしよう』となりましたが、やりたいことの地ならしをする期間として丁度いい、と。環境の変化は止められないので、そのなかで自分ができることを前向きに考えています」
「『好き』という、知識と経験の積み重ねの上にあるものを探してほしい。『自分の価値』や『好き』について考えることは決してネガティブなことじゃないので、色んなものに興味をもって、情報収集したり取捨択一したりする時間も大事だと思います。疑問に持つことを否定せず、自分のなかで『働くこと』の意味を模索し、位置付けていくことも重要です」
以上、フラワーデザイナーの秋貞美際さんに伺った、キャリアについての10の質問でした。明日公開の【ライフスタイル篇】では、パリでのバカンスの過ごし方やバッグの中身など、キャリア女性的プライベートについて、Precious.jpに語ってくださいます。どうぞお楽しみに!
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- TEXT :
- 神田 朝子さん ライター/ピアニスト
公式サイト:epiphany piano studio