名品は、いつの時代にも変わらない「存在感」がある。言うなれば、名品に備わるエピソードや名品を愛用する人の物語が、時を超えて語り継がれ圧倒的な「存在感」となる。ここではスタイルや旅にもふさわしい数々の名品をふたつのストーリーに分け紹介する。ひとつのストーリーは「人生が変わる」という視点に立ち、現在のスタイルに変化を及ぼす新しい傑作。もうひとつは「人生を変えた」という観点から、ファッションプロの生き方や考え方の転機となった逸品を取材した。
「人生が変わる」名品リスト
- トーキョーハットのパナマ帽
- サルトリア イプシロンのジャケット
- ジョンロブのサンダル
- グッチの扇子
- エルメスのレザーブレスレット
- ボッテガ・ヴェネタのトートバッグ
- トム フォードのサングラス
- ロロ・ピアーナのリネンシャツ
- ファーバー カステルの水彩色鉛筆
ファッションプロの「人生を変えた」名品リスト
- 足にピッタリとなじむ、自らデザインしたフルブローグの靴―靴職人・福田洋平さん
- 印象に残り続けた時計『ヒストリーク・アメリカン 1921』―ホワイトマウンテニアリングデザイナー・相澤陽介さん
- ロンドン・ポートベローで見つけた古着のシャツ―シップス メンズクリエイティブアドバイザー・鈴木晴生さん
- 400パーツの端切れを縫い合わせたパッチワークのショーツ―アンリアレイジデザイナー・森永邦彦さん
- 大人にしかできないドレスダウンのための、ダンスシューズ―ユナイテッドアローズ クリエイティブアドバイザー・鴨志田康人さん
- リゾートで必ず携えるカメラが、10年使い続ける『M9』―ヨシオ クボデザイナー・久保嘉男さん
ため息の出るレースの編み込み、まぶしい夏の「巧みな清涼感」
■1:トーキョーハットのパナマ帽
太陽が燦々と降り注ぐ夏。パナマ帽によって、いかにダンディな男になりうるかを幾度となく見てきた。都会でもリゾートでも、大人の着こなしに磨きをかけるアイテムがパナマ帽である。リネンのスーツ、コットンのジャケット、カプリシャツといったアイテムとの相性は抜群。
トーキョーハットの帽子は、パナマ帽の聖地エクアドル産。なかでも、熟練の職人がそろうモンテクリスティ地域でつくられた極上品だ。4~6か月もの時間を経て完成したパナマ帽は、洒落たスタイルに変えるだけではなく、人生さえも変える。
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この一着にそでを通してこそ体感できる、極上仕立ての軽さ!
■2:サルトリア イプシロンのジャケット
軽い着心地を謳ったジャケットがメンズの世界に登場してから、もうかなりの時間が流れている。芯地を薄くする、あるいはなくす。肩パッドを取り去る。シャツそでのようなやわらかい縫製にする……。
技術が進化するなかで、究極の仕立て法を取り入れたジャケットがサルトリア イプシロンの一着だ。オーナー兼サルトの船橋幸彦氏が考案した、前後左右の採寸バランスから導き出した「やじろべえ理論」により、信じられないほど軽い着用感を成し遂げた。フィッティングの感覚は、ジャケットと肩の間に薄い空気の層が入り、浮いているようである。
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傑作『ウィリアム』の意匠を残し、爽快感を堪能できる一足
■3:ジョンロブのサンダル
時代を超えて継承されるモデルは、語り継がれるストーリーがある。紳士靴の世界で、最高峰のブランドに君臨するジョンロブには、稀代の伊達男、ウィンザー公の要望から誕生した『ウィリアム』があり、その表情を残したのがこのサンダルだ。
1945年、アビエーターブーツから着想を得たダブルモンクストラップの進化形を、足入れがスムースなスライダータイプのサンダルの、しなやかなグレインレザーに溶け込ませた。
紳士が選ぶ夏のサンダルは、軽いだけでは物足りない。伝統に裏打ちされたデザインをモダンに変える卓越した表現力が必要だ。
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優しい手仕事の味わい、粋なファンで涼しく
■4:グッチの扇子
ハイブランドはときおり、既存のイメージを覆すような、ユニークなアイテムを展開し好事家をも驚かせる。
クリエイティブディレクターのアレッサンドロ・ミケーレ氏が率いるグッチは今、大人を巻き込む華麗なコレクションから、ストリートカルチャーまでも表現する一方で、アクセサリー類のデザインも際立つ。まさか、扇子をクリエイトするとは思わなかった。ワールドワイドで創作を俯瞰し、時代の感性をオリエントにも見出したのだろうか。これほどまで素晴しい東洋の美につながるモダンな扇子は、洒落者も脱帽である。
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ほとばしる波のイメージが源泉、軽快なスタイルに画竜点睛
■5:エルメスのレザーブレスレット
シャツにショーツ、Tシャツにイージーパンツといった、軽快なスタイルが楽しめる夏。軽やかな着こなしには、紳士の品格をかもし出す洒落たアクセサリーが不可欠だ。
エルメスの新作は、夏にぴったりのストーリーを紡ぐ。レザーを編み込んだブレスレットと、有機的なフォルムのステンレスを組み合わせたデザインは、波の動きからインスピレーションを得て生まれたものだ。たとえば、コスタ・デル・ソル、コート・ダジュール、コスティエラ・アマルフィターナ……、紺碧の地中海リゾートでさりげなくつければ、人生が豊かになる。
関連記事:波の動きからインスピレーションを得て生まれたエルメスのレザーブレスレット
キャンバス素材がもたらす、清々しいイントレチャートの技
■6:ボッテガ・ヴェネタのトートバッグ
レザーで編んだ巧みなイントレチャートに比べて、サラサラとした清涼感のあるキャンバスで編んだトートバッグは、今の季節にぴったりの表情を演出する。
リゾートで、街中で、紳士のカジュアルスタイルに風格を生み出す新作である。本体の爽やかなオフホワイトとブラックのレザーハンドルとの対比が、洗練された色の組み合わせとなり、落ち着いた雰囲気もかもし出している。キャンバス素材のトートは、ミラノ、ハワイ、日本でしか手に入らない限定販売という希少品。今年の思い出をたっぷりと詰め込もうではないか。
関連記事:ミラノ、ハワイ、日本でしか手に入らないボッテガ・ヴェネタのトートバッグ
まぶしい日差しを味方にするリアルホーンの優雅なリフレックス
■7:トム フォードのサングラス
大人の夏のスタイルで、個性を発揮するアイテムがサングラスである。強い光を遮る機能だけではなく、爽やかなリネンスーツでも、ビーチスタイルでも、サングラスのデザインひとつで、目利きぶりを演出する。
このサングラスは、天才デザイナーのトム・フォード氏が、普段からかけているアイウエア・コレクションのひとつ。美しいマーブル模様のリアルホーンをフレームに使った、クリップ式のサングラスである。丁番のT型のデザインは、今や知らぬ者はいない、クールなアイコンだ。
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この爽やかなリネンの肌触りにもう一度目覚める!
■8:ロロ・ピアーナのリネンシャツ
南イタリアのカプリ島で、セルジオ・ロロ・ピアーナさんが着ていたリネンシャツの、エレガントな姿が今も忘れられない。
ゆったりとしたサイズは、あまりにも優雅で、鮮やかなグリーンのパンツとのコントラストは、大人の着こなしの品格が漂っていた。このリネンシャツは、そのとき、セルジオさんが着用していたデザインと同じものではないだろうか。
しなやかなワンピースカラー、ほどよい身幅のシルエットなど、イタリアらしい伝統的なシャツのデザインとラインが完璧。ホワイトもライトブルーも、美しい。
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少年時代にもあってほしかった、絵描き仕様の色鉛筆フルセット
■9:ファーバー カステルの水彩色鉛筆
綺麗な風景や気になるシーンをデジタルカメラに収めるのは、日常的になった。かつて、洋の東西を問わず、詩人や哲学者はノートに絵筆を走らせ、視覚を留めた。記憶に残るのはどちらか……。
かといって、いつも画材を持ち歩くわけではない。ただ、時間が許すなら、画材を携えて避暑地の描写や、頭に浮かんだ抽象的な形を描くのも、知的で贅沢なひとときだ。
水彩色鉛筆は、まず色鉛筆でモチーフを形取り、水を含ませた筆で絵をなぞれば、水彩画のようなぼかしが楽しめる。ウィリアム・ターナーの世界にも近づけそうだ。
ファッションプロの「人生を変えた」名品リスト
ビスポーク靴づくりを決断した、思い出のデザインです― 靴職人・福田洋平さん
2002年6月、トレシャム・インスティテュートという靴の専門学校の1年生を終了後、ノーサンプトンのジョンロブで運よくアルバイトができることになりました。靴にクリームを塗り、磨き、ひもを通す仕事でした。
しばらく働くと、当時、クリエイティブディレクターを務めていたアンドレス・ヘルナンデスさんが、「靴をつくってみなさい」と言ってくれたんです。自分だけの靴を足にピッタリとなじむ木型でつくりたかったので、パターン・メイキングから教えてもらいました。パターン・メイキングは、全体的なプロポーションの大切さを学び、製作過程では、どんな材料が必要不可欠なのか、さらに革の見極め方までも習いました。
デザインは好きなアデレードに決めました。パターンを引き、革の裁断までは自分で行い、製造はジョンロブの工場にお任せしました。そして、完成したのがこの靴です。ちょうど真夏の出来事。本当にうれしかったですね。
ジョンロブで学んだことのひとつは、既製靴特有の左右非対称のパターンです。今、手がけている既製靴の展開に大いに役立っていますし、そもそも、アルバイトができなければ、ビスポーク靴の道を選んでいなかったと思います。
この靴を見れば見るほど、当時の懐かしい記憶が浮かびます。思い出が強すぎて、実は、まったくはいていません。はくのは、まだまだ先になりそうです。(談)
イタリア人がつけたヴィンテージ時計がずっと印象に残っていました―ホワイトマウンテニアリングデザイナー・相澤陽介さん
ヨーロッパやアメリカなどの海外出張で仕事が順調に進んだとき、いいモノやいいコトに出合う機会が多いですね。それは買い物にも表れ、このヴァシュロン・コンスタンタンの『ヒストリーク・アメリカン 1921』を手に入れました。
仕事でイタリアに初めて行ったのが約10年前。その頃お世話になっていた方が、ヴィンテージの『ヒストリーク・アメリカン』をつけていたんです。年の頃は60歳。お洒落な人で、乗っていた古いフェラーリに合わせて時計を選んでいました。僕は30代前半、時計を見て「大人の風格」を感じ、印象に残っていました。
3年前の夏、憧れていた『ヒストリーク・アメリカン 1921』の復刻版を遂にミラノで購入しました。ショートパンツの夏の軽快な着こなしで、品よく主張できるアクセサリーとして、時計を愛用しています。時計を手に入れたことで、クルマも少し前の1990年代の空冷ポルシェに替えました。本来は、自分のブランド、ホワイトマウンテニアリングが進化するように、「新しい形」が好きですが、この時計は新しいクルマとはあまりなじまないんです。
アリゲーターのベルトがダークブラウンのため、服の色選びも変わりました。これまでの黒一辺倒から、ネイビーのシャツやベージュのショーツなど、サングラスのフレームの色も替えました。
時計は夏以外にはつけないため、冬の時期、金庫に仕舞っています。(談)
フォーマルな香りを残しつつ、あえてカジュアルな雰囲気で着ています―シップス メンズクリエイティブアドバイザー・鈴木晴生さん
ファッションの仕事や人生を通して、自分のスタイルの変化をお話しします。
まずスタイルは、1960年代からの映画の影響が絶大でした。ファッションモデルとは違う、スーパースターの俳優たちが演じる、完成度の高いストーリーから引き出された強烈なイメージに感化されました。服の形やディテールも大切ですが、一流の俳優たちの着ている服に魅せられ、その世界に自分が引き込まれていくような感覚。それが、スタイルを磨き上げるスタートになりました。
ヴァンに就職し、その後テイジンメンズショップに転職。1976年にエーボンハウスに移りました。この間は、アイビースタイルを徹底し、それを土台にしてヨーロッパ(コンチネンタル)の新しいエッセンス、エレガントな世界をバランスよく吸収していきました。仕事でパリ、ロンドン、ミラノなど、ヨーロッパを飛び回っていた頃でもあり、現地に赴くと必ずアンティーク市を見て回りました。
1980年の夏だったと思います。ロンドンのポートベロー・マーケットで探し出したのが、このシャツです。ちょうどいい厚みのコットン生地で、スラブ織のような質感が気に入りました。出合ったときにはすでに古着でしたが、あれから約40年経った今でも、クリーニングを繰り返して着用しています。
売っていそうで売っていないアイテムに出合えるのは、いつの時代も、服選びの何よりの楽しみです。(談)
服づくりの原動力。パリコレの初参加。忘れてはならない記憶が詰まっています―アンリアレイジデザイナー・森永邦彦さん
学生の頃、最初につくった服が、細かい生地をつなぎ合わせたパッチワークのものです。パッチワークをはじめた理由は、こんな考えからでした。
テキスタイル店でバイトしていたとき、裁断して売り物にならない端切れを全部もらっていました。「通常、捨てられてしまう大小の生地を、多くの時間をかけてつなぎ合わせれば価値あるものに変えられる」と考えたんです。僕が手がけるアンリアレイジは、建築家ミース・ファン・デル・ローエの「神は細部に宿る」が創作の信念。見過ごされ、忘れられてしまうものに価値を見出す、という考え方で、あたりまえになった存在を揺るがしたい、という思いです。従来のパッチワークはほのぼのとした雰囲気ですが、3cmぐらいの大きさで、すべての生地の形を変える「攻撃的なパッチワーク」にすることで、イメージを裏切りました。
このパッチワークによるショーツには、2014年のパリ・コレクションに初めて参加したときの思い出がそのままに残っています。意を決して勝負に出たパリコレの経験、そのときの熱や感情をこれから先も持っておくべきと、コレクションで発表した春夏のテキスタイルの端切れを使い、自分用につくりました。
12種類の黒い生地を、すべて形の違う400パーツに裁断し仕立てたショーツ。夏にはくたびに、初めて服をつくったときの原動力や、忘れてはならない大切なものがよみがえります。(談)
アステアの「抜けた感じ」が、今になって自然にできる気がします―ユナイテッドアローズ クリエイティブアドバイザー・鴨志田康人さん
このダンスシューズは、福岡のデザインホテル内にあるショップで見つけ、3年ぐらい前から、トラウザーズに合わせる靴として愛用し始めました。
僕らの世代にとって、ダンスシューズは、やはりセルジュ・ゲンズブールやフレッド・アステアが格好よくはいていたイメージですね。ゲンズブールなら、ストライプスーツにレペットを合わせる。ただ、20~30代の頃は、「あの格好は、分不相応でできないな」と……。当時、白の靴といえば、アメリカントラッドのホワイトバックスをはいていましたが、最近になって、いよいよダンスシューズを自然体ではけるような気がしてきました。アステアのスタイルのように抜けた感覚は、洒脱で、余裕のある大人の遊びなんですね。
自分らしさを表現するために、タイやシャツの組み合わせで見せるVゾーンや、足元に、どこか力が抜けた雰囲気をつくります。まさにダンスシューズは、リラックスした自分のスタイルを象徴するアイテムになりました。スーツにダンスシューズを合わせるドレスダウンは、やはり大人のためのもの。もう、スニーカーではないんです。
今では、夏のスタイリングでほどよく主張できるダンスシューズは、着こなしに深みを加えています。上質なグローブをはめているように、薄くしなやかなカーフレザーが足をぴったりと包み込む感触は、抜群ですね。(談)
「ちょっと違うベクトルから見てるよ」という狙いが、ライカには伝わるんです―ヨシオ クボデザイナー・久保嘉男さん
デジタルとアナログの、それぞれの特性が一体化したカメラとは、どのように撮れるのか、と興味があったんです。
ファッションカルチャーから捉えるライカの話は、ファッションデザインの製作現場でよく出ていました。チェ・ゲバラが愛用していたこと、戦場の撮影で命とりになるシャッター音は、ほとんど聞こえないほど小さいことなど、ストーリーもたくさんそろったライカは、どんどん魅力的なカメラになっていきました。そして、「デジタルになったライカ」の2世代目に当たる『M9』を10年前に買いました。
以来、旅に出るときは必ず『M9』を携えています。とりわけ、夏のリゾートが大好きで、ニースでも、ハワイでも、ゴールドコーストでも、ほんの一瞬、太陽光がひと筋差したシーンを切り取る撮影に、このカメラは見事に応えてくれるのです。写真は、画角が1cm変わるだけでまったく異なる絵になります。「僕はちょっと違うベクトルからモノを見てるよ」という狙いが『M9』のライカには伝わっている感じがします。優しい画質が堪らないですね。10年間使ってきて、何度も落としても壊れない。一度もオーバーホールしたことはありません。繊細なコンピュータを搭載したデジカメなのに、めちゃくちゃ頑丈です。
75cmで焦点距離の合う標準レンズ1本で、撮影は通しています。自分の体の一部になった距離感が最高です。(談)
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MEN'S Precious2020夏号より
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- 撮影/戸田嘉昭(パイルドライバー/静物)、篠原宏明(取材)
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- 石川英治(tablerockstudio)
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- 矢部克已(UFFIZI MEDIA)