世界的にも関心が集まる、2020年のアメリカ大統領選挙。8月17日(火)に開催された民主党大会の初日に行われたMichelle Obama(ミシェル・オバマ)のスピーチが、大きな話題を呼んだ。18分間に及ぶスピーチが始まってすぐにGoogleの検索エンジンには猛スピードで「ミシェル・オバマ ネックレス」の検索数が上がってきたのである。

ネックレスで投票を呼びかけた「ミシェル・オバマ」のスピーチがネットで話題に!

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「V・O・T・E」の文字で投票を呼びかけた、話題のネックレス

きれいに巻かれた肩までの髪に、上品なボルドー色の「Nanushka(ナヌーシュカ)」のサテンブラウスで登場。こちらは、サステナブル を支柱とする若いブランドだ。そして、アクセサリーはゴールドの大きなフープ型イヤリングと、ブラウスから覗く同色のチェーンネックレス。気品と洗練と知性で見せた、ある意味究極のコンサバティブなシンプルさであった。

スピーチの主旨は「投票(vote)へ行こう」。

投票率を上げることがどれほど民意を表し、大切であるかを、丁寧に具体的な例を挙げながら、民主党の正副大統領候補への投票を呼びかけたのである。

そして、スピーチを聞いた人々の関心をさらに高めたのが、さりげなく身につけたネックレスだった。チェーンの間に、「V・O・T・E」の文字が間隔を置いてつけられ、ミシェルのメッセージを体現していた。

あっという間にトレンド入りしたこのネックレスは、米ロサンゼルスに拠点を置く宝石店「バイチャリ(BYCHARI)」が手がけたもの。黒人のジュエリーデザイナーのチャリ・カスバートのブランドであった。

メッセージを真正面から伝えながら、こうやって、無名のブランドへの注目も引き起こすのは、ミシェル流のやり方である。ハンドメイドの「VOTE」ネックレスは14K、身につけていたのは、295ドルというのも、ミシェルが愛される理由だろう。

ミシェル・オバマは、史上最強のインフルエンサー!?

ミシェル・オバマはファッションが持つ力を知っている。自分が身につけるだけでどれだけのニュースバリューになるかも熟知している。8年間にわたるファーストレディー時代には、アメリカのダイバシティーを体現し、社会の主流から取り残された力のあるデザイナーたちの存在を誇りを持って知らしめるために、どのファーストレディーよりも、見事に選択し、数千着の服を身につけたと言われる。

「ジェイ・クルー」や「ターゲット」など庶民的なアメリカンブランドで、テレビ出演することも多かったが、公式の場では、若い移民のデザイナーを勇気付ける選択をしていた。

ネパール移民のPRABAL GURUNG(プラバル・グルン)の真紅のドレスをホワイトハウス記者会主催夕食会で、中国の国家主席を招いた夕食会には中国系の3.1 フィリップリム(3.1 PHILLIP LIM)の特注ドレスを、そして、DEREK LAM(デレク ラム)のドレスを北京訪問の際に着用したというエピソードも。

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オバマ米大統領就任式 祝賀舞踏会では、ジェイソン ウーのドレス姿を披露。

エレガントなイブニングを提供したJASON WU(ジェイソン ウー)は、瞬く間に成功の階段を上がっていった。

インドの公式晩餐会には、インド系のナイーム・カーンなど、起用されたデザイナーは数知れず。有名も無名も肌の色も「なるべく多くのデザイナーを着なければ」と語っていたという。ミシェルが身につけたことで、知名度も、売り上げも伸び、アメリカンドリームを体現したデザイナーも多い。

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左から、オバマ大統領が訪英された際の宮中晩餐会ではトム フォードを着用。

もちろんTOM FORD(トム フォード)からCALVIN KLEIN(カルバン・クライン)まで、ゴージャスなアメリカンエレガンスも身につけている。この公平さが共感を呼ぶのである。

自身の回顧録『BECOMING(邦題:マイ ストーリー)』が、全世界で1000万部を突破!

2020年の大統領候補とも下馬評は高かったが、あえて政治的な発言を避け、移民やマイノリティーなど弱者に寄り添う発言や行動が、性別、人種を問わず今も人気を呼んでいる。「最も尊敬する女性(ギャラップ調査)」に「元」ファーストレディーにもかかわらず、2年連続1位に選ばれ、2018年に発刊された生い立ちからホワイトハウス時代までを綴った回顧録『BECOMING(邦題:マイ ストーリー)』は、北米では発売後二週間で200万部突破。世界45言語に翻訳され、2020年3月で出版元のペンギン・ランダムハウスは、全世界で1000万部を超えたと発表された。回顧録としては、史上最高の売り上げを、いまだに記録し続けている。

共感力やコミュニケーション能力の高さは、ミシェル・オバマの最高の魅力。新たな世界に求められる順応力にあふれた最強のインフルエンサーと言えよう。

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この記事の執筆者
1987年、ザ・ウールマーク・カンパニー婦人服ディレクターとしてジャパンウールコレクションをプロデュース。退任後パリ、ミラノ、ロンドン、マドリードなど世界のコレクションを取材開始。朝日、毎日、日経など新聞でコレクション情報を掲載。女性誌にもソーシャライツやブランドストーリーなどを連載。毎シーズン2回開催するコレクショントレンドセミナーは、日本最大の来場者数を誇る。好きなもの:ワンピースドレス、タイトスカート、映画『男と女』のアナーク・エーメ、映画『ワイルドバンチ』のウォーレン・オーツ、村上春樹、須賀敦子、山田詠美、トム・フォード、沢木耕太郎の映画評論、アーネスト・ヘミングウエイの『エデンの園』、フランソワーズ ・サガン、キース・リチャーズ、ミウッチャ・プラダ、シャンパン、ワインは“ジンファンデル”、福島屋、自転車、海沿いの家、犬、パリ、ロンドンのウェイトローズ(スーパー)
PHOTO :
Getty Images
WRITING :
藤岡篤子
EDIT :
石原あや乃