スマホやパソコンを使って茶の湯を体験できるオンライン茶会「茶空会 sakue」をご存知ですか?
自宅から参加できるため、「茶道に興味はあってもお作法を知らなくて……」と気が引けてしまう人も周りを気にせず始められるのがうれしい、茶道の新たな試みです。とはいえ、茶室でたしなむ茶道をオンラインで行うとなると、イメージを抱きづらい人も多いのではないでしょうか。
「茶空会 sakue」のディレクションを行う世界茶会 主宰の岡田宗凱さんに、オンライン茶会をはじめられたきっかけや楽しみ方について聞きました。
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オンライン茶会「茶空会 sakue」の成り立ちと楽しみ方
千利休ならオンライン茶会をやっていた?
「茶空会 sakue」を始める前から、岡田さんは自身でオンライン茶会を開催されています。きっかけとなったのは、新型コロナウイルスの影響で3月末に予定していた茶会を中止せざるを得なかったことでした。
「当時はリアルに集まるお茶会を開催できなくなり、自問自答する機会が多かったです。“動かぬが得”という考え方もありますが、好きなものに対しては愛着も執着もありますから、何もせずに諦めることはしたくありませんでした。お茶としっかり向き合い、お茶会を開催できないことへの苦しみや憤り、悩みをしっかりと感じた上で解決策を出すべきだと思いました」(岡田さん)
これまで当たり前のようにできていたことができなくなり、終わりも見えない状況が続くなかで辿り着いた方法が、オンラインでお茶会を開催することでした。
「エンジニアをしているお弟子さんにも相談し、zoomを教えてもらい、アカウントをつくりました。そして、自宅の茶室からお点前で画面越しにでもみなさまに一服差し上げる機会をつくりました」(岡田さん)
百貨店も休業中だったため、お茶やお菓子を買えないなかで行われた初のオンライン茶会。まずはオンラインでも集うことを最優先にし、極端な話「お茶ならなんでもいい」と、それぞれが自宅にあるお茶とお菓子を用意して画面の前に集まったそうです。対面からリモートに切り替えることで、緊急事態宣言の最中でもお茶の講座を開くことができました。
写真や動画の撮影が禁止されている茶道において、オンライン茶会は革新的ともいえる取り組みです。岡田さんが決断された背景には、お茶の文化が廃れてしまうことへの懸念もあったのだとか。
「伝統を守り続ける保守的な考え方も大切ですが、そればかりにこだわりすぎてしまうと時代とはかけ離れてしてしまいます。これだけテクノロジーが発達している今、茶道にも新しいことを取り入れるのは自然なことではないでしょうか。
茶道といえば千利休でしょうが、その利休さんも実際はかなり革新的なことをしていました。もし利休さんがこの時代に生きていたら、いの一番にオンライン茶会をやってたかもしれませんね」(岡田さん)
千利休が生きた安土桃山時代は、新しいことが次々と生まれた時代といわれていたそうです。今でこそ伝統的な文化として格式高い印象のある茶道ですが、当時はどちらかというと時代の先端のようなクールなイメージだったとか。豊臣秀吉が天正15年に北野天満宮で実施した「北の大茶湯(きたのおおちゃのゆ)」は、現代に例えるとフジロックフェスティバルのような催しだといいます。
利休が茶室を開いてから400年以上の時を経た2020年、「茶の湯を茶室からWEB空間へ拡張する」を合言葉に誕生したのが「茶空会 sakue」です。
オンライン茶会をより楽しむコツは「片付けと想像力」
オンラインのメリットのひとつは、遠くからでも参加できること。他県や海外から出席する人もいるそうです。仕事や子育てなどで忙しく、お稽古の時間を取れない人が茶道を続けられるのもうれしいポイントです。
11月14日(土)に開催される「茶空会 sakue」第3回目では、「初心者席」と「プレミアム席」を時間帯で分ける配慮もされています。他の参加者も茶道初心者だと思うと、申し込みのハードルが下がります。
第3回目のテーマは「茶の正月」。初夏に摘んだ茶葉を熟成させる工程が加わるため、11月は抹茶の新茶をいただけます。風炉を閉じて炉を開くことから「炉開き」といわれる特別な季節です。
茶菓子・抹茶付きプランを申し込むと、事務局から抹茶と茶会のテーマに沿った茶菓子が送られてきます。今回は、「宇治・山政小山園」から通常の抹茶と石臼で挽く前の珍しい茶葉「甜茶」とパリのパティスリー「Ladurée ラデュレ」から京都祇園店限定和菓子をいただけます。
VR付きプランでは、器を手に取って裏側まで眺めるような感覚を体験できます。空間を把握できることもVRを利用するメリットです。庭や茶室などを360度見渡せるため、より茶の湯の世界に入り込みやすくなるのです。
通常の茶席では、お点前を見ながらお菓子をいただくそう。オンラインの場合は、いつ食べるのがいいのでしょうか。
「お好きなタイミングで召し上がっていただいて構いません。もし私がオンライン茶会に参加するとしたら、お点前の前にお菓子を食べて、映像でお点前を見てからお茶をいただきます」(岡田さん)
オンライン茶会をさらに楽しむコツもあるそうです。
「まずは、自分の半径1m付近を片付けることです。私のお弟子さんたちは、道場の掃除から稽古が始まります。私は精進の場を提供しているため、そこで『お金を払って掃除をするなんて』と思う方はいません。みんなが使う場所をきれいにするマインドが大切なのです」(岡田さん)
オンラインで参加する場合も自分の目が届く半径1m付近を片付けることで、目の前の画面に集中しやすくなります。そしてもうひとつ、大事なポイントが「想像力」です。
「釜の湯の沸く音や温度、庭で風がそよいでいる様子などを映像からどれだけ想像し、感じられるかが大事です。映像を見ただけでどのくらい想像力を膨らませられるか、見ている側が試される部分でもありますよね」(岡田さん)
茶道に学ぶ「コロナ禍の心のあり方」
知らず知らずのうちにストレスを溜め込んでいるコロナ禍で、気持ちを持て余してしまい茶室を訪れるお弟子さんもいるそう。茶道には、心がザワザワと波立った時に落ち着かせてくれるヒントがあるようです。
「みなさん何かを教わろうと思って稽古に来ますけど、基本的に先生は何も教えられません。もちろん、お点前は教えられるけど、大切なのは自分自身と向き合う作業です。
自分を磨くことであり、律することでもある。作法を覚えるよりも、それを変わらずにやり続けることが重要です。言葉では伝えられないから、繰り返し茶室に来てもらって自分を研ぎ澄まして行く必要があります。1年くらい続けると、少しは輪郭が見えるかもしれませんね」(岡田さん)
心を亡くすと書いて忙しい。情報過多の現代社会で、自分自身と静かに向き合う時間を意識的に持つことが必要なのかもしれません。
「オンライン茶会を開催してはいるものの、すべてがリモートになってしまっては面白くありません。私はクローズドな空間でしか共有できない体験も大切にしたい。オンラインはあくまでも茶道に入るための入り口だと思っています。興味を持たれたら、ぜひ実際の茶会にも足を運んでみてください」(岡田さん)
心を静かに保ち自分を見つめ直す機会を得られる茶道は、コロナ禍で心がザワついてしまいがちな現代こそ必要だと感じます。まずは、気負わず参加できるオンライン茶会を訪れてみてはいかがでしょうか。
イベント詳細
- 日時:2020年11月14日(土)
- 一席目 14:00〜15:00
- ・オンライン茶席 (茶菓子・抹茶・茶筅付) 定員10名
・オンライン茶席 (茶菓子・抹茶付) 定員10名
・オンライン視聴席 (視聴のみ) 定員40名
二席目 17:00〜18:00
・プレミアムVR茶席 (茶菓子・抹茶・VRゴーグル付) 定員10名
・プレミアム一般茶席(茶菓子・抹茶付) 定員40名
・プレミアム視聴席 (視聴のみ) 定員50名 - ※申込締切は11月9日(月)
- TEXT :
- 畑菜穂子さん ライター
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- EDIT :
- 小林麻美