女性弁護士に聞く「少し楽に生きる」ということ

日本で最難関の国家資格、それが「司法試験」ですが、政府が男女平等が声高く推進しているものの、女性弁護士の割合は20%以下にとどまっています。同じ女性として、「より女性が輝くお手伝いをしたい」という信念で、法律家としてだけでなく何足ものわらじを履いて活躍する女性に、「今を生きるヒント」をお伺いしました。

弁護士・中川彩子さん
中川彩子さん 早稲田大学卒業後、2005年に弁護士登録。離婚・相続案件から企業案件まで幅広い事件を取り扱う。2014年から2018年まで家庭裁判所非常勤裁判官としても勤務、関与した離婚案件は延べ500件以上。メディア出演、講演活動なども活発に行っており、2020年にはファンションコンサルタントとして起業。弁護士法人柴田・中川法律特許事務所所属。

企業案件、個人案件、社外監査役など、業務内容は多岐にわたる

――中川さんの現在の業務内容を教えてください。

弁護士としては、企業案件と個人案件の両方を半々くらい行っています。企業案件の8割くらいが地元の企業さんです。製造業、飲食、例えば工作機械メーカーさんや、室町時代から続く麹屋さんとかですね。

残りの半分が個人案件で、その半分以上が離婚のご相談、相続、交通事故、お金のトラブルとか、みなさんが普通に生活していて身近に起こりやすいトラブルが多いです。

また、上場企業の社外監査役も務めています。

10年くらい前から、女性の士業の方々、司法書士さんや税理士さんと女性だけで相続の手続きを全部できるグループを作って活動もしています。

――テレビドラマなどで、弁護士の仕事は裁判所で裁判をしているイメージなのですが、実際そうなのでしょうか?

仕事で一番長く時間を割くのは、パソコンの前に座って書面を作る作業です。実際、裁判は、事前に作成した書類を提出して陳述するということを行います。

普段はお客様のご相談にのったり、顧問先の方から相談を受けたりという事も多いですね。打ち合わせがないときは人に会わない日もあります。弁護士という仕事はテレビで観るほどドラマティックなことがあるわけではありません。

ただ、私はみなさんがテレビで見ているような働き方に、もしかすると近いかもしれません。裁判所もしょっちゅう行きますよ。弁護士のなかには、企業からのご相談だけを受けている方、海外からの案件だけを受けている方もいらっしゃいます。

弁護士の業務で多いのはオフィスで書類を作成すること
弁護士の業務で多いのはオフィスで書類を作成すること

「ありがとう」と言われることが仕事のやりがい

――弁護士としての仕事のやりがいは?

弁護士になりたてのころは、「事件に勝つ」ということが自分の使命だと思っていました。例えば1千万円の請求をして、その1千万を獲得すること、それがすべてだと思っていたのですが、そうではなかったんですよね。

大切なのは、事件が全部終わったときに、お客様に「あー、よかった」と思ってもらえること。

世の中は100%どちらかが正しいということはなくて、妥当な着地点を見つけることが大切だと思うんです。

例えば裁判でこちらの主張が認められなかったとしても、自分の言いたいことは尽くしたし、相手の言いたいこともわかったし、裁判では負けと判断されても「ありがとうございました。中川先生に頼んでよかったです」と言ってもらえること、そう言ってもらえると嬉しいですね。

勝つことだけでなく、お客様の満足度を考えるようになりました。

――そのように考え方が変わったのはなぜでしょう?

弁護士になったのが26歳で、当時は法律の知識はあったものの、自分が人として薄っぺらかったので、「こうですよ」と、説得力のある答えを出してあげることができなかったんですよね。結果、当時の自分が言ったことが間違えていなかったとしても、そのお客様の腹に落ちていただいていたか?といえば、そうではなかったと思うんです。

でも結婚して、3人の子供を産んで育ててと、人生経験も増えて、例えば仕事だけでなく、ママ友とのお付き合いや、企業のお客様と接点を持つなかで対人スキルが伸びました。子育てや地域のつながりを通して、そこのスキルは磨かれたと思います。そんな人生経験から「お客様の心に寄り添えるような存在」でありたいという思いになりました。弁護士になって丸15年が経ち、自身の幅が広がったことで、仕事の幅もとても広がりました。

トラブルになる前に相談をしてほしい

――日本人は欧米などと違い訴訟なども身近ではなく、弁護士に依頼することはあまりないと思うのですが、弁護士に相談って簡単にしていいものでしょうか?

こちらにご相談にいらっしゃる多くの方が勇気を出してお見えになります。

一つお伝えしたいのは、「トラブルになってからでは遅い」ということです。ちょっとでも困ったな、困りそうだな、と感じたら早めに来ていただきたいし、話すだけで楽になれることもあると思います。

「こんなことで相談していいのかな」と思われる方もいらっしゃると思うのですが、話すだけでいいし、結果それで「大丈夫ですよ」「弁護士に依頼するほどではないですよ」と言われればそれで安心につながりますよね。

ですので、話すだけでいいし、そういう小さなご相談でももちろんお受けします。お医者さんに行くくらいの感覚で来ていただきたいなと。最近は女性や若い弁護士も増えていますし、気軽に相談したらよいかと思います。

――女性の弁護士の先生を見つけるのってどうしたらいいのでしょうか?

大都市圏だと女性の弁護士も多くいらっしゃいますよ。ネットで弁護士を探すポータルサイトもありますし、私自身もZoom相談もお受けしています。お住まいの地域に関わらず、相談しやすそうな方に相談してみたらよいかと思います。遠隔地相談も視野に入れてもいいいですね。

私の場合は1時間10,000円でZoomでの相談も対面相談も行っています。30分5,000円、1時間10,000円あたりは相談料として相場だと思います。参考になさってください。

六法全書は必需品
六法全書は必需品

事実は見る人の数だけある。客観性を持つことが大切

――弁護士としてのポリシーは?

「真実は一つじゃない」です。

お客様のご相談は全力でお聞きするのですが、頭の傍らで「相手はどう考えているのか?」と考えなければいけません。お客様を信用していないわけではなく、忘れている事実があったり、あとから違う事実が出てきたり、記憶が違っていたりとか。

弁護士である自分が冷静さをもって話を聞き、相談者の話のつじつまが合わないなと思っていたら、その感覚は大事にしなければいけないなと思っています。自分が冷静でないと、その方にとってよい結果が出ないので。

事実は見る人の数だけあると考えています。証拠がない主張は裁判では無価値なので、お客様に同調して自分も頑張るけれど、同時に裁判官の目をもっていないと裁判には勝てないです。

「客観性をもって話を聞く」ということです。

――そのポリシーはどのようにして生まれたのでしょうか?

2014年から2018年まで非常勤裁判官をやらせていただきました。弁護士としてだけ仕事をしていると、当事者と同じ視点で大切なことを見落としたりすることもあるんです。

非常勤裁判官を務めたことでだいぶ視野が変わりました。週1回弁護士として働きながらも、非常勤裁判官として家事調停に関わっていました。ほぼほぼ離婚案件だったのですが、ありとあらゆる離婚のケースを見ました。1日20件、30件担当していましたね。

その4年間で新たな視野やものの考え方を身につけました。色々な事例があるものの、パターン化されていく傾向にあると知りました。

下世話な話ですが、例えば女性が浮気をしたとして、男性側は「戻ってきてくれ」というパターンは多いです。逆に男性が浮気した場合、夫婦関係を維持するために耐える女性は多いですが、いったん離婚を決意してしまうと「許すから戻ってきて」という女性はとても少ないんですよ。

それらの経験から、自身の弁護士としての対応の幅が広がり、見通しがつくようになりました。ご相談に来てくださったお客様に無駄な苦労をかけたくないので、最初から「その主張は無理かもしれない、それに固執しているとストレスがかかるし、大変かもしれないし、勝ち目がないかもしれない」と、見通しがつくようになったことで、先に可能性を伝えられるようになりましたね。

長期化する原因のひとつに、見通しが立たず、無理な主張に固執するということがあります。離婚に限らず。そこを的確に見定めて、「ここにこだわると長引くし、証拠もないし」とテクニカルに対応したほうがいいと。でも私が言ったからそうするということでなく「先生が言ったから信じます」と言ってもらえるだけのコミュニケーション力を身につけなければならないですよね。

弁護士は高いコミュニケーション力が大切と語る中川さん
弁護士は高いコミュニケーション力が大切と語る中川さん

カウンセラー的視点も持ち合わせた弁護士として、もっと女性を助けたい

――今後の弁護士として何をしていきたいですか?

皆さんが「揉めない」「トラブルにならない」「事前に問題を回避できる」ようになるために尽力していきたいと考えています。

弁護士が出ていく場面は「もうトラブルになっている」ことが多いのですが、そういうことってとても疲れると思うんですよね。生きていくなかで「しなくていい苦労をさせたくない」と思います。お客様が疲弊されているのを見るのもつらいので、お客様の心のケアをして、納得できる形で、紛争を拡大させずに収められるようにシフトしていきたいなと考えています。

そして将来的には、もっと全国から依頼をいただけるような弁護士になりたいと思っています。特に女性を助けたいという気持ちもありますし、すごく思うのは、鎧を着て構えていらっしゃる方をケアしてあげたいと思うんです。悪い方向にしか考えられない、人生に行き詰っている方に交通整理をして見通しを立ててあげて、一枚一枚鎧をはがしてあげたいな、と。

目指すところは法的な視点を持って、かつ、カウンセラー的な心のケアをしながら、寄り添えるような弁護士です。

15年弁護士をやってきて、非常勤裁判官としての経験、人との繋がりなどから、人の心の動き、思考のパターンを知ったので、心の専門家としても助けてあげたい。気軽に来ていただいて、「先生に会いに来て気分が軽くなった」と思ってもらえるような存在になりたいと思います。

今後の目標は全国から依頼を受け、特に女性を助けられる存在になること
今後の目標は全国から依頼を受け、特に女性を助けられる存在になること

――人を助けたいという想いから弁護士になったのでしょうか?

何をしたくて弁護士になりたかったのか、というのが実は自分の中で明確ではありませんでした。目的意識を持たずに弁護士になったので、なってから「何のためにやっているんだろう」とつらい時期もありました。でもこの仕事が向いてないと思ったことありません。

若いころはいきなり「先生」という立場になり、自分が間違えてはいけないというプレッシャーがきつかったですね。

でも15年続けてきて、時間を経るごとに「心の満足」を依頼者に感じていただくことが大切だとわかってからは、この仕事にやりがいを感じるようになりました。自分の一つ一つの人生経験が、現在の仕事にとても生きています。歳をとることにお客様に共感できるようになっています。

法律を知ることは自分を守ること、トラブルになる前に専門家に相談を

――Precious.jpの読者に伝えたいことは?

このコロナ禍で、みなさん大変なことも多く、例えば離婚などでご相談にいらっしゃる方も増えています。東京から奥様が子供と一緒に田舎の実家に避難してそのまま離婚に至ったケースや、コロナ禍で経済的精神的に不安が増大し、離婚に繋がったなど。

法律を知らないことは単純に損をすることです。法律は自分を守るもの、攻撃する相手に制約を加えるものでもあります。

最近はネットの情報も多いのですが、それは断片的だったり不確かだったりするので、ネットに頼りすぎるのではなく、どうしようかなと悩んでいる方は、トラブルになる前に専門家に頼ることをお勧めします。先ほども申し上げたように、私もZoom相談を受けていますし、最近はZoom相談をしている弁護士が増えてきています。今は昔と違って、若い弁護士や女性弁護士も増えたので相談しやすいかと思います。トラブルになる前に気軽に弁護士に話をしてみてください。

問い合わせ先


以上、この前編では中川さんの弁護士としての活動や想い、世知辛い世の中を少し楽に生きるためのヒントについてお話をお伺いしました。

「弁護士に相談」と聞くと、とても大ごとのように思ってしまうのですが、「お医者さんに相談」するのと同じ感覚で相談できるということもわかりました。

Precious.jpの世代が直面する可能性のある、離婚や相続など、ネットの不確実な情報に頼るのではなく、専門家に相談しアドバイスをもらって見通しを立てられれば、少しは精神的に楽になれるのかもしれませんね。

明日公開の後編では、弁護士以外での活動を通して「女性がより輝くためのお手伝い」をしているお話をお伺いします。

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この記事の執筆者
新卒で外資系エアラインに入社、CAとして約10年間乗務。メルボルン、香港、N.Yなどで海外生活を送り、帰国後に某雑誌編集部で編集者として勤務。2016年からフリーのエディター兼ライターとして活動を始め、現在は、新聞、雑誌で執筆。Precious.jpでは、主にインタビュー記事を担当。
公式サイト:OKAYAMAYUKIKO.COM