修羅場を駆け抜け、マーケティングのスペシャリストが経営者を目指すまで

「マーケティングのスペシャリストになる」──そう宣言して新卒入社した旭硝子を5年で辞め、初めての転職を選んだという藤原かおりさん。外資系広告代理店のマッキャンエリクソン、ダノンウォーターズオブジャパンなどを経て、2011年よりカルビー入社。朝食の啓発を通した商品PRに尽力し、「フルグラ」の売上を5年間で10倍に急成長させた立役者として、「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2016」ベストマーケッター賞にも輝きました。

日本の朝食市場を変えたヒットメーカーが、2020年3月にキユーピーへ転職。初となる女性上席執行役員に就任し、目下、withコロナ時代の食ニーズの変化に対応する新規事業を推進しています。

新規事業の名は、「フレッシュストックᵀᴹ」。業務用商品などで培ったキユーピーグループの強みを生かし、日持ちがしてストックでき、かつ味の「フレッシュさ・作りたて感」を重視した惣菜や、調味料、たまご商品を開発し、コンシューマー向け市場に投入しました。今秋よりテスト販売を開始し、来春本格的に市場へ。2024年には売上150億円を目指すという一大プロジェクトを担うキーパーソンこそ、藤原さんです。女性エグゼクティブの道を歩む彼女の仕事観を伺いました。

藤原かおりさん
キユーピー株式会社 上席執行役員 新規市場開発担当
(ふじわら かおり)1974年埼玉県生まれ。1997年慶應義塾大学法学部を卒業後、旭硝子に入社。新商材のビジネスデベロップメント業務に従事。2001年にマッキャンエリクソンに転職し、広告のストラテジックプランナーとしてBtoCマーケティングに携わる。その後、電通の契約社員を経て2007年にダノンウォーターズオブジャパンへ入社し、「ボルヴィック」のブランドマネージャー職に従事。2011年カルビーに転職。2012年から「フルグラ」のマーケティングに従事し、「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2016」ベストマーケッター賞を受賞。2017年よりカルビー執行役員 フルグラ事業本部長を務める。2020年3月より現職。

キューピー上席執行役員・藤原かおりさんへ10の質問

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今年9月、新規事業「フレッシュストックᵀᴹ」のオンライン記者会見にて

──Q1:現職に就いた経緯とは?

2011年、4度目となる転職を経てカルビーに入社し、2012年から「フルグラ」事業のマーケティングに長く携わってきたこともあり、新しいことにチャレンジしたかったのです。前職の経験から、転職先にはやはり食品メーカーを志望しました。

調味料だけでなく、サラダ、惣菜、たまご商品など、キユーピーの事業は多岐にわたります。アヲハタもグループ企業ですし、さまざまなプロジェクトに挑戦できることに魅力を感じ、キユーピーへの入社を決意しました。

過去に外資系企業でコンシューマーマーケティングの経験も積みましたが、本国での規定ががっしり決められた外資系の環境では、やりたいことに制限が加わってしまうことも多々。それよりも、日本企業に身を置き、グローバルに展開していく仕事を追求していきたいと考えたのです。

──Q2:現在取り組んでいるミッションとは?

現在、私が統括するのは、新規事業「フレッシュストックᵀᴹ」。そもそも、キユーピーとグループ各社が縦割りで分かれていたビジネスに横串を刺すべく、「調味料、サラダ・惣菜、たまご商品を融合させた新規市場の開拓を目指す」という、社長の長南がかねてより構想していたプロジェクトでした。

実際のところキユーピーでは、BtoBが全売上の約半分を占めています。そのなかでもプロユースの業務用は、料理人に指導を受けながら調理ソースを開発するなど、長きにわたって技術力を磨いてきました。その売上は、約1500億円規模にのぼります。業務用分野で培ってきたノウハウや商品を、コンシューマーにも届けたいという思いが、新規事業の原点です。

「フレッシュストックᵀᴹ」とは、私たちが作った新しい言葉です。従来日持ちしなかったものもある一定の期間冷蔵庫にストックできたり、精肉・鮮魚売り場で肉や魚と一緒にお気に入りの調味料を購入できたり、働く女性たちが手軽にストレスなく買いものや調理ができるように

テレワーク時のランチ、すぐ用意できる夕食など、ストックできる惣菜やアレンジでメニューが広がる調味料、即食のたまご商品で顧客ニーズに応えていきます。

withコロナの生活環境の変化で、買物回数を最低限にしたいというストック需要が強まりました。新型コロナがこのプロジェクトの加速を決定づけたといえます。

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長南社長(右)とともに新規事業の記者会見に臨んだ藤原さん。NHKをはじめ各メディアに大きく取り上げられた
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「フレッシュストックᵀᴹ」事業の新商品は惣菜、調味料、たまご商品の3本柱の構成。惣菜は30日、ゆでたまごは2週間ほど冷蔵保存可能。通常の生鮮・惣菜やレトルトとは一線を画す、食品業界では前代未聞の試み

プレッシャーを楽しみ達成感に変える、「攻め」のメンタリティ

──Q3:女性管理職として新規事業を担うプレッシャーはありますか?

プレッシャーはそれほどありません(笑)。2024年には売上150億円達成を掲げていますが、やれそうだなという印象。「フレッシュストックᵀᴹ」事業チームの面々も優秀ですし、社内の生産、R&D(研究開発)、販売部隊の協力体制もあり、社長もコミットしてくれています。3月に入社した当初は何から始めるべきか迷いがありましたが、戦略が固まり、今は環境が整ったという気持ちです。

私自身、元来プレッシャーのある環境を好むタイプ。責任の重さを仕事の面白さに変えていきたい。スリルといいますか、プレッシャーを楽しんでいます。

かつてカルビー時代、フルグラ事業の部長ポジションを打診されるまでは、人の上に立ちたくない、専門性を極めたいと考えていた時期もありました。けれど、修羅場をくぐり抜け、これ以上困難な状況はないと思えるような壁を乗り越えてきた今、何でもできる!という思いです。

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2015年12月、日経WOMAN(株式会社日経BP社)主催「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2016」ベストマーケッター賞受賞の一場面

プロ経営者、カルビー松本元会長に導かれた女性リーダーへの道

──Q4:仕事人生に訪れたターニングポイントとは?

カルビー元会長兼CEO、松本 晃さんとの出会いに尽きます。「フルグラ」に従事し、マーケティングのスペシャリストを目指して奔走していた当時、松本元会長の存在が私のキャリアを一変させました。マーケティングだけの人間ではなくゼネラルマネージャー、経営者を目指せと激励され、啓発されました。

自分のやりたいことを追求するためには、意思決定の権限が必要であり、それを手にするには組織のマネジメントのポジションは避けて通れない。松本元会長との出会いがなければ、今の自分はありません。おこがましくもキユーピーという大企業に途中からやってきて上席執行役員に就任するなんて、私のキャリアプランに入っていませんでした。

マネジメントの立場にいる今、見える世界は広がり、重責を背負う分、味わえる達成感も比較にならないほど大きい。「女性の活躍なしに成長はない」という方針の下、周囲の反対を押し切って中途採用の自分をカルビー執行役員に導いてくれた松本元会長には、感謝しかありません。

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第3の朝食として朝食革命を巻き起こしたカルビーのグラノーラ「フルグラ」。2016年、記者発表で松本元会長(右)とともに。プロ経営者として知られる松本氏は「ミスター・ダイバーシティ」の異名を持ち、カルビーでは女性管理職の比率を4倍に引き上げた

──Q5:最初に就いた仕事とは?

新卒で旭硝子に入社しました。1年目は夜勤を含む工場勤務、2年目から本社のビジネスデベロップメント部へ。ガラスの技術を使ってエレクトロニクスの分野で新たなビジネスを開拓する部署で、MBAを持つ上司の下、BtoBマーケティングに携わりました。その上司から戦略の立て方など仕事のプロセスを学び、マーケティングという分野に面白さを見出しました。

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32歳のときにダノンウォーターズオブジャパンに転職。ミネラルウォーター「ボルヴィック」のブランドマネージャーとして、ユニセフと協同のチャリティプログラム「1L for 10L」に携わっていた頃。支援先のマリ共和国にて

以上、キユーピー上席執行役員 新規市場開発担当の藤原かおりさんに、これまでのキャリアや現職のミッションについて語っていただきました。

まだまだ続く、藤原かおり上席執行役員へのインタビュー。明日公開の【キャリア編 Part2】では、コロナ禍に訪れた変化や女性が成功する秘訣、これからの想いなど、Q6〜Q10の後編をお届けします。どうぞお楽しみに!

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この記事の執筆者
1974年東京生まれ。「MISS」「家庭画報」「VOGUE NIPPON」「Harper’s BAZAAR日本版」編集部勤務を経て、2010年に渡独。得意ジャンルはファッション、ジュエリー&ウォッチ、ライフスタイル、犬、ラグジュアリー全般。現在はドイツ・ケルンを拠点に、モード誌や時計&ジュエリー専門誌、Web、広告などで活動中。
EDIT :
谷 花生