「奨学金」を使うときの注意点!まずは給付型の利用要件を確認してみよう

【ケーススタディ】「親として、子どもにはできるだけのことをしてあげたい」

そう思う人は多いはずです。レイカさん(39歳・専業)も、子どもたちの将来を考え、長女のナナちゃん(9歳・小3)、次女のアミちゃん(6歳・年長)を中高一貫の私立に通わせたいと思っています。とはいえ、私立に通うための塾の費用、学校の授業料などの負担はかなりのものになります。

このレイカさんのケースを通じて、これまで2回に渡って「子どもの教育費の目安」「教育資金のつくり方」について見てきました。

【前編:今さら聞けない「子供の教育費」、私立と公立では約3倍も差が】

教育費は、子どもの成長によって必要になる時期が決まっています。「いざ受験!」というときに慌てないためには、子どもが生まれたら夫婦でよく話し合って、教育方針を決めておきたいもの。そして、その進路に必要な教育費を把握して、早めに貯蓄をスタートさせるのが理想です。

「子どもの教育費の目安」、「教育資金のつくり方」に続いて「奨学金」について学びます

高校まで公立なら、毎月の家計のなかから授業料などを捻出することは可能ですが、大学になると国公立でも授業料や入学金で、まとまったお金が必要になります。そのため、特に私立を目指していない家庭でも、子どもが大学受験するまでに300万円程度、貯めておくのが教育資金の目安と言われています。

「300万円も貯められない」と思うかもしれませんが、国から給付される児童手当を積み立てていくだけでも、15歳までに、元本だけで198万円の貯蓄をつくることができます。これにプラスαの積み立てをすれば、300万円は手の届く範囲です。

また、教育資金目的の贈与は非課税枠が広がっているので、経済的に余裕のある祖父母がいるなら、子どもの授業料を出してもらうのもひとつの手段。教育資金は、子どもが小さなうちから準備を始めておきましょう。

でも、さまざまな事情から、必要な時期までに教育資金を準備できない人もいるでしょう。その場合、候補に挙がってくるのが「奨学金の利用」です。ただし、近年、奨学金の滞納が増加し、大きな社会問題になっています。

そこで、本記事では無理なく奨学金を利用する方法について考えてみたいと思います。前編中編に引き続き、「『奨学金』を借りる前にゼッタイ読んでおく本」(青春出版社)の著書で、ファイナンシャル・プランナーの竹下さくらさんにアドバイスしていただきます。

貸与型奨学金の滞納が増加、大きな社会問題に発展

前回、日本は大学や大学院などの高等教育の授業料が高い一方、教育費に対する公的支出が諸外国に比べて少ないという実態を確認しました。

経済協力開発機構(OECD)の「図表でみる教育2017年版」によると、高等教育への公的支出はOECD加盟国平均が70%なのに対して、日本はわずか34%。残りの66%は私的な支出でカバーしていることになりますが、そのうちの50%が個人の支出です。大学生や大学院生をもつ保護者や本人に、重い負担がのしかかっています。

大学入学までに自力で教育費を準備できなかった場合に、利用されることの多いのが日本学生支援機構(旧・日本育英会)の奨学金です。2015年度は、大学や大学院などの高等教育を受けている学生の38%が同機構の奨学金を借りており、そのほとんどが卒業後に返済義務のある「貸与型」でした。

貸与型の奨学金のうち、7割は利息が加算される「第二種奨学金」で、平均的な借入額は343万円となっています。ところが、2015年度末現在、奨学金を返済中の約393万人のうち、約16.5万人(約4%)が3カ月以上滞納しているのです。

貸与型の奨学金は、卒業すると返済が始まります。でも、卒業後にどれくらい収入を得られるのか、生活がどうなっているかは、借りた時点ではわかりません。実際の返済能力以上の奨学金を借りてしまったために、返済できなくなってしまった人がいるのです。

ここ数年は売り手市場で、大卒の雇用環境はずいぶんと回復しているとはいえ、いまや全労働者の4割近くが非正規雇用の時代です。大学を卒業したからといって、誰もが安定した収入を得られる正社員になれるわけではなく、まじめに働いても収入が不安定な人もいます。その結果、奨学金の返済が滞る人が増えてしまったのです。

そこで、2018年度から正式に始まったのが、日本学生支援機構の「給付型」の奨学金です。

2018年度から本格スタートした「給付型奨学金」の利用要件は?

給付型と貸与型はどう違うの?

「給付型」という通り、この奨学金には卒業後の返済義務がなく、お金を返す必要がありません。つまり、教育資金をもらうことができるというわけです。

給付額は、住まい、進学先などに応じて月2万~4万円(国立・自宅は2万円、国立・自宅外、私立・自宅は3万円、私立・自宅外は4万円。児童養護施設出身者は別途24万円の一時金が給付されます)。1学年あたり2万人の利用枠が設けられています。

4年間で最大192万円の奨学金をもらえるので、大学入学までに教育費の準備が間に合わなかった人には朗報です。ただし、給付型の奨学金を利用するには、次の3つの条件があります。

●給付型奨学金の利用条件

①家計所得

・住民税非課税世帯、または生活保護受給世帯
・18歳時点で児童養護施設や里親のもとで暮らしているなど、社会的養護が必要な生徒

②学力

・教科の学習で十分に満足できる高い学習成績を収めている
・教科以外の学校活動で優れた成果を収めており、学習で概ね満足できる成績を収めているなど

③人物

・学習活動その他、生活の全般を通じて態度・行動が学生にふさわしい
・将来、良識ある社会人として活動できる見込みがあること
・修学に十分堪え得るものが認められること

返済不要の奨学金というと、「成績が優秀の人がもらうもの」というイメージがあるかもしれませんが、新たに導入された日本学生支援機構の「給付型奨学金」は、上記のように飛びぬけて成績がよくなくても、利用できます。ただし、所得要件があるので、誰でも使えるわけではありません。

日本学生支援機構の「給付型奨学金」は低所得層向けで、住民税非課税世帯や生活保護世帯が対象です。せっかく新しい奨学金の枠組みはできたものの、夫のヒデオミさんの年収が2000万円(手取り1300万円)あるレイカさん一家は、これを利用できません。

でも、奨学金は日本学生支援機構のものだけではありません。

「大学や企業、自治体が独自に行っている給付型の奨学金はけっこうあります。貸与型の奨学金を申し込む前に、利用できる給付型奨学金がほかにないかどうか、探してみましょう」(竹下さん)

大学、企業、自治体が独自に行う「給付型奨学金」もチェックしよう

給付型奨学金には、日本学生支援機構のものだけでなく、大学や企業、自治体が行っているものもある

たとえば、一橋大学の「学業優秀学生奨学金制度」は、前年度に特に優秀な成績の学生を各学部各学年から1名ずつ選抜し、月8万円の奨学金を給付してくれるというものです。また、群馬大学の「卓越した学生に対する授業料免除」は、入学試験や学内試験の成績、研究実績などから、特に優れていると認められた40名程度の学生の、後期授業料を免除してくれます。

私立大学の奨学金は、給付範囲が広いところが目につきます。たとえば、慶應義塾大学の「学問のすゝめ奨学金」は、1都3県以外の出身者500名に、年間60万~90万円を、卒業するまで支給してくれるというもの。保護者の年収(課税前)が、1000万円未満まで利用可能です。

太っ腹なのは近畿大学で、入学試験の優秀者に、卒業前の授業料を全額免除(薬学部は、医学部は除く)しており、1000人以上が対象になっています。

ほかにも、「JT国内大学奨学金」、「電通育英会大学奨学金」「ゴールドマン・サックス・スカラーズ・ファンド」など、企業が行っている給付型奨学金もあります。また、指定地域に居住したり、卒業後に県内で働いたりすることなどを条件に、貸与型の奨学金の返済を肩代わりしてくれる自治体もあります。

こうした給付型の奨学金を利用できれば、家計の負担はかなり抑えられるので、受験に関する情報と同時に、どんな奨学金があるかについても、アンテナを立てておきましょう。

卒業後に返済義務がある「貸与型」、その7割が利息がつくタイプ

とはいえ、給付型の奨学金は、絶対数が多くありません。また、在学中の授業料や生活費のすべての給付型だけでカバーできないために、多くの人が卒業後に返済義務のある「貸与型」の奨学金を借りているのが現実です。

でも、借り過ぎると卒業後の負担が大きくなり、滞納の可能性を高めます。卒業後の返済負担を軽くするためには、まずは貸与型でも利息のつかない「第一種」を借りられないかどうか?を確認してみましょう。

 

●貸与型でも、返済に利息のつかない「第一種奨学金」

第一種で借りられる奨学金の額は、住まい、進学先などに応じて月2万~6万4000円。

2017年度から、住民税非課税世帯と生活保護受給世帯は、成績に関係なく第一種の奨学金を借りられるようになっていますが、それ以外の世帯は「学力基準」と「家計基準」の2点を満たす必要があります。

学力基準は、「高校の全履修科目の平均が3.5以上(5段階評価)」、家計基準は家族構成によって異なりますが、夫婦と子ども2人(妻は専業主婦、子どもは本人と中学生の子どもひとりの場合)で、サラリーマン家庭なら年収が747万円以下であることが条件です。

給付型、第一種のいずれも条件に合わない場合は、利息のかかる第二種の奨学金になります。こちらも「学力基準」と「家計基準」が用意されていますが、他に比べると条件はかなり緩やかで、借りられる金額も多くなります。

●貸与型で、返済に利息のつく「第二種奨学金」

学力基準は、「高校時代の全履修科目の平均が学年平均以上」「特定分野で特に優れた資質能力があると認められること」「大学での学修意欲があること」など、いずれかを満たしていれば大丈夫。特に成績優秀ではなくても、「大学に行きたい」というやる気さえあれば、第二種は借りられる可能性が高いということです。

家計基準は、夫婦と子ども2人(妻は専業主婦、子どもは本人と中学生の子どもひとりの場合)で、サラリーマン家庭なら年収1100万円。

借りられる額は、月2万~12万円(私立の医・歯学は4万円、薬学、獣医学は2万円の増額が可能)で、1万円単位で選ぶことができます。

ただし、第一種、第二種は、いずれも卒業後は返済義務が生じます。しかも、第二種は利息がつくため、借りた以上の金額を返済しなければなりません。

「この返済利息が決まるのは、貸与終了時です。4年制大学なら、大学4年の終わりに金利が決まるということです。日本学生支援機構の第二種の返済利率は年3.0%が上限ですが、利率がどうなるかは、奨学金を申し込む時点ではわかりません」(竹下さん)

たとえば、第二種の奨学金を月額12万円で4年間借りて、借入総額が576万円だった場合、金利によって総返済額はどのように変わるのでしょうか?

貸与型の奨学金を借りるときは「将来返せる額」を考えてみよう

第二種奨学金の返済の利率は、大学4年の終わりに決まる

金利が2017年3月実績の0.33%だと、利息は約20万円で、返済総額は約596万円。過去10年で最高だった1.9%だと、利息は約122万円で、返済総額は約698万円に。さらに、日本学生支援機構の上限である3%になったとすると、利息は約199万円になり、返済総額は775万円にも及びます。

「いくら今が低金利でも、4年後の金利がどうなるかは誰にも予測はできません。金利のつく第二種の奨学金を利用する場合は、万一の金利上昇に備えて、借入額を慎重に決めておく必要があります」(竹下さん)

奨学金を借りるときは、授業料や在学中の生活費などがいくら必要か?ということに目が行きがちです。でも、借りるときに考えたいのが、「卒業後にいくらなら、無理なく返済できるか」です。

「一般に、毎月の収入(額面)に対する借金返済額の割合は15%を超えると、返済を続けるのが難しくなるといわれています。でも、これまで多くの家計のアドバイスをしてきた経験から言えるのは、現実的には借金返済は、額面収入から税金や社会保険料などを除いた手取り収入に対して、10%以内に抑えたいということ。返済額がこれを超えると、将来に向けた貯蓄をする余裕がなくなってしまうからです」(竹下さん)

大卒の初任給は、おおむね20万~21万円。その後の昇給を見込んでも、返済額は月2万5000円以内に抑えておく必要がありそうです。ここから逆算すると、奨学金の借入額は「月8万円以内が目安」だと竹下さんはいいます。

奨学金の借入額が月8万円(4年間で合計384万円)と月10万円(4年間で合計480万円)だった場合で、卒業後の返済額を比較してみましょう。

金利1%だと、借入額8万円なら返済額は約1万8000円ですが、借入額10万円だと返済額は約2万2000円。いずれも無理なく返済できる金額の範囲に収まっています。でも、これが上限金利の3%になったとすると、借入額8万円なら返済額は約2万2000円ですが、借入額10万円だと返済額は2万7000円となり、無理なく返済できるボーダーラインを超えてしまうのです。

奨学金の返済額が多くなると、「思うように貯蓄ができず、結婚に踏み出せない」「住宅ローンを借りようとしたら、奨学金がネックになって希望の金額を借りられなかった」など、ライフプランにも影響してきます。

金利のつく貸与型の奨学金を借りるときは、「金利のつかない奨学金と組み合わせて、できるだけ負担を軽くする」「在学中の生活を見直して、支出を抑える」といった工夫で、将来の返済額を抑えられるようにしておきましょう。

子どもが小さなうちから積み立てを始めるのが、教育資金づくりの王道

教育費の準備が間に合わなかった場合は、子ども本人ではなく、親が国の教育ローン、銀行の教育ローンなどを借りるという手段もあります。

奨学金は、子ども自身に返済義務があるため、卒業後の子どものライフプランを左右する可能性が高くなります。一方、教育ローンは親名義で借りて、返済するのも親なので、子どものライフプランへの影響を避けることができます。また、教育ローンは、問題がなければ申し込みから1~2週間で、まとまったお金を借りられるので、入学金や新生活を始める費用などに充てるには向いています。ただし、借り過ぎると、今度は親の老後資金に影響してきます。

教育資金は、子どもの成長に応じて、「いつまでに」「いくら」必要なのかがわかるので、準備しやすい資金です。子どもが小さなうちからコツコツ積み立てを始めるのが、教育資金づくりの王道です。奨学金や教育ローンの借り入れは極力しなくて済むように、早めの準備を始めましょう。

竹下さくらさん
ファイナンシャル・プランナー
(たけした さくら)なごみFP事務所。千葉商科大学大学院(会計ファイナンス研究科、MBA課程)客員教授。東京都中高年勤労者福祉推進員。慶應義塾大学商学部にて保険学を専攻。損害保険会社勤務を経て、ファイナンシャル・プランナーとして独立。個人向けの住宅ローンや生命保険などのコンサルティング業務を主軸に、セミナーでの講演、新聞や雑誌等への執筆活動など幅広く活躍。主な著書に「『家を買おうかな』と思ったときにまず読む本」(日本経済新聞出版)、「ローン以前の住宅購入の常識」(講談社)、「『マイホーム』を買うメリット・デメリット本当のところズバリ!」(すばる舎)などがある。2017年10月には、「『教育費をどうしようかな』と思ったときにまず読む本」(日本経済新聞出版)が発売されたばかり。
『教育費をどうしようかな』と思ったときにまず読む本
この記事の執筆者
1968年、千葉県生まれ。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。医療や年金などの社会保障制度、家計の節約など身の回りのお金の情報について、新聞や雑誌、ネットサイトに寄稿。おもな著書に「読むだけで200万円節約できる!医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30」(ダイヤモンド社)がある。