「言葉」とは、あなた自身の内面を映す鏡でもあります。多様性が求められる今、うっかり使い続けていると、時代に取り残されてしまうような表現も―。この春、日常遣いの表現をブラッシュアップすることで自分自身を見つめ直してみましょう。
「主人」と呼んではいけないの?
「素敵なご主人様ですね」「うちの主人は…」。日常会話で何気なく使ってしまいがちな呼び方ですが、もしかしたら相手を知らないうちにモヤモヤさせてしまっているかもしれませんよ。
少し立ち止まって考えたいのが、実は「主人」や「亭主」は男性が主で、女性より上に立っているという前提の呼び方であるということ。「長年使ってきた言い方を変えるのはちょっと…」と戸惑う方もいて当然ですが、社会的・文化的な性差による差別意識をなくしていこうというジェンダー平等の考え方が大事にされるようになってきた時代では、こうした呼び方に違和感を抱く人が多くなっているかもしれません。
「旦那」も仏教用語が由来で、「施しを与える者」や「雇用主」といった上下関係の意味合いがあります。また「お嫁さん」という表現も、「女」に「家」と書く字の通り、女性を家の付属物と見なす「家父長制」の名残を感じてしまうため、若い世代では特に敬遠する人が増えています。
「家父長制」とは、年長の男性や父親が家族を支配する家族形態のこと。 家庭だけでなく「年長の男性が偉い」「女性を下に見る」というような、社会の支配構造全体を表す言葉でもあります。「主人」という呼び方は、こうした思想に基づく昭和の「良妻賢母」的な教育のなかで、主婦たちに浸透していった呼び方と言われています。
例えば「夫」や「妻」という呼び方には、上下関係はありません。また、相手の夫や妻を指す際には、「お連れ合い」「パートナー」などと言い換えられないか、考えてみてはいかがでしょうか。また、最近の企業では、同性のパートナーを持つ従業員がいることを踏まえ、配偶者のことをなるべく「パートナー」と呼ぶように推奨しているところもあります。
「女の子はピンク、男の子はブルー」
「女の子だからピンクが似合うんじゃない?」「男の子はブルーの方が格好いいよね」―。いまだにこんな声かけを、お子さんのいる前でしてしまってはいませんか? 子どもたちのランドセルもカラフルなラインナップがあふれている現在、「男の子は青系、女の子は赤系」という考え方は薄れてきてはいるものの、親や祖父母世代には染み付いているのかもしれないので要注意です。
本来好きなものや好きな色は、性別にかかわらずどちらであってもいいもの。特定の色を性別に結びつけて表現することは、できれば避けたいものです。消費者が求めていないのに女性向け商品やサービスがことごとくピンクであることが、ウェブ上では「ダサピンク」と揶揄されることもあります。
美しすぎる○○はNG?
「美しすぎる〇〇(議員、スポーツ選手etc.)」「美人会長」「イケメン社長」―。こうした見出しのついた記事を無意識のうちに読んだり、逆にあなたが他の人からこんな風に呼ばれてしまったりして、リアクションに困ったことはありませんか?
また、「○○さんがいると華があるよ」「○○さんってセクシーだよね」という声かけはどうでしょうか。一見褒めているような表現ですが、「家族や友人からなら嬉しいけれど…」 とモヤモヤする方も少なくないでしょう。容姿は簡単には変えられないことがほとんど。生まれながらのものを安易に論評されるのは、あまり良い気持ちがしないのではないでしょうか。
こうした表現は、「ルッキズム(外見に基づく差別)」に基づいています。ルッキズム的な見方は、女性を社会的地位から遠ざけることにもつながります。「あいつは容姿がいいからちやほやされている」と、女性の実績を軽視する傾向とも表裏の関係にあることを自覚しておく必要がありそうです。
性別や見た目にとらわれず、「一人の人間として見てほしい」という思いを、配慮のある言葉遣いで丁寧に表現していきたいものです。そうした大人の女性のもとには、「見た目の華」といったルッキズム的視点でしかモノを見られないような人ではなく、誠実な人間関係を期待する人たちが集まってくるのではないでしょうか。
ジェンダー表現を新しい時代に合わせてアップデートしていくために、手元に置いて頂きたいのが、『失敗しないためのジェンダー表現ガイドブック』(新聞労連ジェンダー表現ガイドブック編集チーム著|小学館刊)です。新聞業界で働く記者たちが集まり、実例をもとに作った本です。キャリアに必要不可欠な文章表現やサービスのコンセプト、また日々の暮らしの雑談や挨拶、書き言葉について、あなたが悩んだときの助けになってくれるはずです。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 新聞労連 西本紗保美(毎日新聞労組)