“海外から見た日本”のインテリアと聞いてあなたはどんな空間を思い浮かべますか? 京都にあるような暗い窓で切り取られたように見える石庭のある和室や温泉旅館の窓辺の風景、はたまた有名建築家の手掛けるミニマルな木質の空間でしょうか? 

マンションや一軒家などの空間でも、そこで感じられるような「日本らしさ」を取り入れられるとしたら素敵ですよね。

日本らしさには“禅的”なもの、具体的な要素として自然との繋がりやありのままを受け入れる寛容さや用の美が挙げられます。経年したアンティークやヴィンテージの家具の魅力を、暮らしの中で使いながら愛でることで広がる世界があります。

本記事では、そのような悠久の時の中に身を置くような空間体験ができるアンティーク・ヴィンテージ家具のショールームとアートギャラリーの機能を兼ね備えた、東京・江東区小松川の「Objet d' art(オブジェ デ アート)」をご紹介します。

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砂壁と錆びた鉄フレームのガラス扉に真鍮の取手、風に揺れる縄暖簾と植木が印象的な入り口に立つ、マネージャーの笹ヶ瀬さん。

「オブジェ デ アート」が扱うアイテムは、ヴィンテージの名作家具やアンティークのアノニマスな家具にオブジェから建築的な構造物に至るまで、年代もサイズ感も多岐にわたるもの。独自の審美眼で国内外から厳選したそれらのアイテムを、テーマを設けてスタイリングしてみせる編集力に長けています。

東京の住宅街に突如として現れる悠久でボーダレスな世界観。まずは全身で感じてインスピレーションを得ることで、潜在的につくってみたかった暮らしのイメージのエッセンスを持ち帰れるのではないでしょうか?

日本らしさの象徴「侘び寂び」のイメージは、不完全な美しさに宿る

海外で揃うものだけで日本を表現している場合も多いという「オブジェ デ アート」。日本らしさとは、一体どういったところに宿るのでしょう? 日本の家具を使わなくてもコーディネート次第で表現できるものなのでしょうか?

そんな疑問を「オブジェ デ アート」マネージャーの笹ヶ瀬さんに投げかけたところ、「海外から見た日本らしさというと『侘び』や『寂び』の“イメージ”でしょうか。何か不完全な部分に見出されていく美しさのようなものは、日本のイメージとして確立されているのではないかと考えています」との答えが。

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ピエール・ジャンヌレデザインのヴィンテージソファに、ベン・ストームズ作の大理石とメタルの異素材の組み合わせが印象的なコーヒーテーブル。

上の写真にあるヴィンテージ家具の中でも人気の高いこちらのソファは、みなさんもSNS等でご覧になったことがあるかもしれません。1950年代にフランスの建築家、ル・コルビュジェがインド・チャンディガール で都市計画を手掛けた際に作られたものです。コルビュジェの従兄弟ピエール・ジャンヌレ が基本的な設計図を描き、それを元に現地の職人たちが製作したものをフレームに新たにシートが製作されました。

合わせられたコーヒーテーブルは、ベルギーの作家のファインアートです。手仕事の跡を感じさせる家具同士を心の赴くままに配置したルールに縛られないコーディネートが、川の上流の景色を思わせるように感じられませんか?

低さ、直線的な構造、自然素材の経年美

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イギリスのウィンザーチェアとフランスのアンティークテーブルを使った侘びた表情が美しいコーナー。

「オブジェ デ アート」が手掛けたスタイリングを見ていて浮かび上がったキーワードは「低さ」「直線的な構造」「自然素材の経年美」その組み合わせの妙でした。着座の位置が低いことで、落ち着きと同時に東洋的な雰囲気を演出できます。

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リズミカルに繰り返される直線の要素が印象的なスタイリング。NYのデザインスタジオ、グリーンリバープロジェクトのクラブチェア、インゴ・マウラーデザインのフロアランプ、シャルロット・ペリアンデザインのベンチ、ピエール・ジャンヌレのファイルラック、シグリッド・ヴォルダーズ作の花器が組み合わされています。

日本家屋の内部は障子や格子天井や畳の縁など垂直水平に直線要素が繰り返される直線のリズムがあります。また自然素材が経年する様子は、清廉な品位を保つことで「侘び寂び」をまとった凛とした表情に整えられていきます。わかりやすく言うと侘び寂びの代名詞、お茶室を思い浮かべてみてください。お茶室も清潔を保つことが何よりも大切とされています。

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オランダのデザインユニット「x+l」(エックス アンド エル)作の違い棚を思わせるブックシェルフ、行灯のようなフロアランプ、壁面のアート、坂倉準三(長大作)の低座椅子を組み合わせたスタイリング。

「オブジェ デ アート」のエッセンスを取り入れられるアノニマスなスツール

スタイリングを「素敵だなぁ」と眺めていても、自分の住まいには難しそうだと考える方もいらっしゃるかもしれません。そんな方に最初のアイテムとしておすすめなのが、小ぶりのスツールです。

均質な空間になりがちな昨今のマンションや戸建て住宅に、時を経て誰かの気配が残るアンティークをひとつ置くことで、素材感に風合いが加わりインテリアの厚みが増します。オブジェとしても素朴でモダンな空間にぴったりです。

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「Spanish Antique Primitive Stool」と「Hungarian Primitive Stool」各¥44,000~66,000

上そして下の写真のスツールは、木の塊を削り三本脚を差し込んで作った非常に原始的な作り。この基本構造は、四本脚よりも三本脚の方が平らでない地面でも安定して座れることから合理的なものです。その素朴な形状はユーモラスで空間にヌケ感を作ってくれます。

玄関のたたきにおいて靴の着脱時にも便利ですし、花や季節を感じさせるアイテムを飾れば、ものの持つ魅力でどなたでも雰囲気がつくれます。

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「Spanish Antique Primitive Three-Leg Stand」¥132,000【H74×W43×D43cm】

旧工場の佇まいを生かし「最小限整える」ことで見えてくる美しさ

「オブジェ デ アート」のスタイリングを支える内部空間を持つギャラリーの建物は、元はガスコンロを作る工場。その経年した風合いを、大きな手を入れるのではなくありのままの状態を生かすスタイルからは、ハッとする美しさに出合えるアイデアが多く見られます。その一部をご紹介しましょう。

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左/古い行灯にDIYで和紙を貼ったという、鉄のさびた風合いと盆栽が印象的なエントランスの一角。右/入り口の印象的な目隠しは、居酒屋等でも見られる縄のれんを長くオーダーしたもの。

上の写真にある印象的な縄のれんは、二つ並んで設置されていてシンメトリーな西洋的な要素を感じることができます。目隠しとして「用の美」をまとった趣深い景色になっています。

室内に入り、昔の日本家屋に見られる急な階段を上ると、そこは屋根の小屋組がむき出しの仄暗い空間が広がります。窓からの自然光と後付けしたLEDスポットライトで、印象派の絵画のような柔らかな光の中に家具が美しく配置されています。

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演色性が高く博物館にも使われているミネベアツミのLEDライト「SALIOT pico」を後付けで設置。

日本の仄暗い空間に置かれた金屏風の美しさを海外の建築家に広めた、谷崎潤一郎氏の「陰翳礼讃」の精神が感じられる空間でもあります。

その一角には、元は工員の休憩所として使われていた小上がりの壁を取り払い、畳を新調して整えた和室コーナーがあります。落ち着いた雰囲気が印象的で、かつ極小空間でも居心地よく暮らすアイデアに満ちています。また自宅をリノベーションする際に、広いワンフロアの一角にこういったスペースを設けるアイデアとしても参考になりますよね。

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剣持勇デザインのラウンジチェアと、ピエール・ジャンヌレデザインのラック、日本のアンティークテーブルの上にはベルギーのアーティスト、シグリッド・ヴォルダーズの陶器が。

そのものが刻んできた時の跡を生かし、最低限の手を入れて整え、清潔を保つ。お花を生けたり盆栽を置いたり、自然素材を用いたものを暮らしの中で使うことで季節を室内に取り込む。そういった姿勢こそ「禅」の精神であり、国籍を問わずに“日本らしさ”を感じさせるヒントになるのかもしれませんね。


今回は、アンティーク・ヴィンテージ家具のショールームとアートギャラリーの機能を兼ね備えた「オブジェ デ アート」をご紹介しました。

そのドラマチックな空間を体験すると、来る前よりも視座が上がったようにものの見え方が変わってくる稀有な体験ができるので、ぜひ足を運んでみてください!

※掲載商品の価格は、すべて税込みです。

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この記事の執筆者
イデーに5年間(1997年~2002年)所属し、定番家具の開発や「東京デザイナーズブロック2001」の実行委員長、ロンドン・ミラノ・NYで発表されたブランド「SPUTNIK」の立ち上げに関わる。 2012年より「Design life with kids interior workshop」主宰。モンテッソーリ教育の視点を取り入れた、自身デザインの、“時計の読めない子が読みたくなる”アナログ時計『fun pun clock(ふんぷんクロック)』が、グッドデザイン賞2017を受賞。現在は、フリーランスのデザイナー・インテリアエディターとして「豊かな暮らし」について、プロダクトやコーディネート、ライティングを通して情報発信をしている。
公式サイト:YOKODOBASHI.COM