世界と闘うスーパーウーマンは楽しいこと&遊びにも全力投球!
世界中が混乱をきたしたパンデミック禍、「今だからこそ、国レベルでチームを率いて前線で貢献したい」と現職に就くことを英断。先に公開された【キャリア編 Part1】、【キャリア編 Part2】では、パーソナルパッションと職業的ミッションが交差する働き方を貫いてきたと語っていた荒井さん。
現在は、ILOカントリー・ダイレクターとしてあらゆる意志決定を背負い、サクセスとストレスが背中合わせの日々。持ち前の頭脳と行動力、周囲を惹きつける人間力で、雇用危機の最前線にある重責をパワーに変えていく、荒井さんの「心と身体のメンテナンス法」とは?
ILOアルゼンチン事務所代表・荒井由希子さんへ10の質問
──Q1:暮らしている街、ブエノスアイレスの環境とは?
「南米のパリ」と呼ばれるブエノスアイレス。私が暮らすレコレータ地区は、古き佳きパリの趣を残す中心街。近所には、劇場だった建造物を改装した書店「エル アテネオ」をはじめ、ヨーロッパの風情あふれる景観が広がっています。
ピアノでタンゴを奏でるご近所さんもいます。月夜の下、情緒ある音楽が我が家のテラスに漏れ聞こえてくるのは、タンゴ発祥の地・アルゼンチンならでは。
かつては豊かな国であったアルゼンチンですが、もともと経済危機に陥っていたうえにコロナ禍でダブルパンチを受け、失業率約4割の雇用危機に直面しています。首都ブエノスアイレスですら、中心地を離れるとインターネットがなくなる通信環境で、学校閉鎖になってもオンライン授業ができない。物乞いをする親子の姿を日々目の当たりにし、心が痛みます。ILOアルゼンチン事務所からは、さらなる経済悪化でパンデミック禍中にやむなく働き始めた子どもが児童労働者数の半分以上を占める、というデータ・報告書を昨年出しました。
ラテンな大和撫子が、楽天的なアミーゴ&アミーガと出会う
──Q2:アルゼンチン人はどんな国民性ですか?
底抜けに明るい人たち(笑)。ILOオフィスでも冗談が飛び交い、笑いが絶えません。インフレが年率約100%で、国民の生活にも多大なインパクトを与えますが、アルゼンチンの人々はレジリエンスが高く、驚くほど逆境に強い。「エス トレメンド(大変だ!)」と叫ぶやすぐに「ノ パサ ナダ(何でもないや)」と、結果的には何とかなると常にポジティブ。問題、課題に直面しても、チームと一緒に前へ前へと進められます。
オリエンタルな顔でスペイン語を話す私をもの珍しく思う人も多く、アミーゴ・アミーガが瞬時に増えていくのは嬉しい限りです。幸いアルゼンチンに違和感なくなじんでいるのか、稀に日系アルゼンチン人と思われることもあります。「ワタシ、ペルアーナだよ」とにっこり笑ってかえすと「そうなのね!」と、疑われず会話が進んでしまい、タイミングをみつけて再訂正を要するほど(笑)。重ねて「生粋の日本人、ヤマトナデシコよ」と冗談をいうと周囲の皆が笑うのですが、オプティミストの自分のハートはラテン気質なのでしょう。
アルゼンチンの人々は、日本人である私を心温かく受け入れてくれ、日々の生活も楽しいです。ラテンアメリカの中でも、アルゼンチンはイタリアやスペイン、フランスなどの欧州系移民が多いので、メンタリティはほかのラテンアメリカ諸国と少々異なり、ヨーロピアンなところもあると思います。
──Q3:モーニングルーティンは?
途上国から途上国へと飛び回る体力勝負の仕事でしたから、ジュネーブ勤務時代は毎朝10kmのジョギングを欠かさず、体力づくり。走って頭をクリアにした後、仕事へ向かうのが習慣でした。ここブエノスアイレスでも、朝のジョギングや散歩を始めたいものの、時差4時間のジュネーブ本部とコンタクトする機会を朝一番に設けているため、なかなか時間をつくれず。青空の下、自宅テラスでコーヒーを飲みながら、アルゼンチン国内のニュースやラテンアメリカ地域内の出来事、そしてジュネーブの動向を追って1日をスタートします。
スイッチオフは不可欠。食にオペラ、天文まで尽きぬ好奇心
──Q4:ワークライフバランスを保つための秘訣は?
オンとオフを明確にすること。基本、家には仕事を持ち込まない主義。緊急対応が必要なときは別ですが、私も生身の人間です(笑)。毎朝8時からオンの状態ですから、夜も仕事をし続けると生産性が下がって、頭も破裂しちゃいます。上司である自分が模範的に就業時間を守り、残業をせずに、スタッフに声をかけてパッとオフィスを去るように心がけています。
もともと食にはこだわりがあり、自宅で和食を作って味わうのがエネルギーの源。新たに凝っているのは、名物アルゼンチンビーフ。ステーキハウスでは牛肉のさまざまな部位を食べ比べたり、さほど飲めませんがワインと合わせてみたり。
──Q5:趣味は何ですか?
オフィスから徒歩5分の場所に、世界三大劇場のひとつ「コロン劇場」があるのです。パンデミックが落ち着き劇場が再開したので、年間シートをリザーブして、ブエノスアイレスならでの芸術鑑賞を楽しみたい。夜は時間どおりに仕事を切り上げて、オンオフのスイッチを明確にすることで、クラシック、オペラやミュージカル、タンゴ鑑賞を楽しむ時間もつくれます。
また、自宅から徒歩5分の場所には国立美術館がありますので、週末や夕刻の散歩時に立ち寄ることも。アルゼンチンの美術品のみならず、モネ、シャガール、ロダン、ピカソと、素晴らしいヨーロッパ絵画・彫刻のコレクションをも楽しむことができます。
──Q6:週末の過ごし方を教えてください。
実は、無類のスキー好き(笑)。ジュネーブ勤務時代には、ヘルメットを着用して毎週アルプスの雪山にシュプールを描いていました。アルゼンチンでもチリとの国境方面にスキー場があるので、足を運ぶつもりです。
アルゼンチンは、南北にスケールの大きな自然が広がる国。北部のボリビアとの国境付近には先住民族が暮らす渓谷、中部には大平原パンパ、南部には巨大氷河が広がるパタゴニア、南極に近い南の果てにはペンギンの姿も。ここでしか経験できないスケールの大きい絶景の数々があります。
ジュネーブから愛車を運び込んだので、今後は、ブエノスアイレス郊外のエスタンシア(大農場)へ乗馬に出かけたいと思います。ワイン産地めぐりなど、積極的に旅するつもり。タンゴもトライしたいし、南半球ならではの星空の観測も楽しみたいです。
──Q7:勇気をくれる、お守りのようなアイテムはありますか?
書き心地のよいお気に入りの万年筆を使うと、仕事のテンションが上がります。代表職はサインをする機会が多いので、お守りというよりは日々を支えてくれる「バディ」な存在。
5か国語+α。驚異の語学力はたゆまぬ努力の賜物
──Q8:語学力はどのように習得を?
日本語のほか、英語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語で仕事をし、パンデミック中にはロシア語を勉強してみました。幼少期、10歳から15歳までアメリカに住んでいたので英語は耳から入り、ジョンズ・ホプキンス大学院卒業後、世界銀行にて仕事で使うことで英語とスペイン語はプロフェッショナルレベルに磨かれました。
ラテンアメリカにはもともととても興味があり、慶應大学でも第二外国語にスペイン語を選択。好きな言語だったので音やリズムが入りやすかった気がします。最初は地道に動詞の活用形から勉強して、今では寝ても覚めてもスペイン語状態。夢の中までスペイン語一色の日も(笑)。「すでにアルゼンチンスペイン語で話すようになったのね」と指摘されたり。ポルトガル語は、ラテン語から派生しているのでスペイン語と比較的近いですね。
ILOジュネーブ本部勤務中は、英語、フランス語、スペイン語を使いました。フランス語は、同じくラテン語から派生した言語ゆえスペイン語を応用して読解・会話が可能で、西アフリカでの仕事もフランス語で行っていました。しかしながら、基本を学んだことがなかったのでどこか居心地がよくなかったのです。そこで、2019年にフランス教育省認定のフランス語資格試験の最上級レベルを受験・合格することで、外交レベルで使えると納得できました。
──Q9:影響を受けた人物/メンターはいますか?
これまでに100か国以上の国を訪れました。仕事やプライベートを通じて出会ったさまざまな方々から多くの刺激とインスピレーションを得て、今にたどり着いていると思います。
ILOでは、人事局が近年メンター制度を導入。一昨年、昨年と女性幹部の先輩が私のメンターを務めてくれ、月一回の対話を通して多くを学びました。今年は、私が後輩をメンタリングする立場にあります。
──Q10:人生を変えた本とは?
黒柳徹子著『トットちゃんとトットちゃんたち』(講談社刊)。ユニセフ親善大使として黒柳徹子さんが出会った、飢餓や戦火、貧困に苦しむ子どもたちの姿を綴った記録。世界では今もなお1億6000万人もの子どもたちが、労働に従事しています。すべての子どもが楽しく学校で学べるような世界の実現を日々願いながら活動している私に、黒柳さんの直筆メッセージが入ったこの本は、今でもエールを送り続けてくれます。
以上、ILOアルゼンチン事務所代表・荒井由希子さんへの、ライフスタイルにまつわるインタビューをお届けしました。
パッションと知性、行動力を武器に、オンもオフもとことん楽しみながら目標に向かって突き進む賢女の姿は、働く女性たちにとって理想像そのもの。荒井さんのポジティブで潔い思考や、バランスの取れたワークライフは、一度きりの人生を謳歌するためのヒントとなるはず。
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- TEXT :
- 愛甲悦子さん ファッションエディター