世界のトップブランドから学ぶ、時間軸でとらえる新しいインテリア

カリモクのダイニングセットを置いたリビング空間
日本の家具ブランド、「カリモク家具」がスウェーデンのオーガニックレストラン「ANG」(※Aはウムラウト)のために特注制作したオーク材のダイニングセット。素敵なレストランの空間や家具は、実際に私たちの住まいのヒントになります。

インテリアを単なる模様替えと考えていませんか?住まいのしつらえは、その人の価値観や人生観の表れる人生最高のお買い物なのです。世界のインテリアとキッチンを知りぬくインテリア&キッチンジャーナリスト本間美紀さんが、新しいインテリアの考え方へみなさんを導きます。

本間 美紀さん
インテリア&キッチンジャーナリスト
(ほんま みき)インテリアの専門誌を経て、住まい、インテリア、家具、キッチン、デザインと空間に関わる全てのジャンルを取材。建築家住宅を中心に取材訪問した住まいは300件以上。ミラノサローネ国際家具見本市をはじめ、ドイツ、デンマークなど世界の家具、キッチンブランドの本社取材も多数。『リアルキッチン&インテリア』『リアルリビング&インテリア』『人生を変えるインテリアキッチン』(以上、すべて小学館刊)などの著書を通し、独自の視点で、製品説明に終わらないインテリアの新しい考え方を提唱中。

【New concept for making your space】家具の考え方が変わっています

FLEXFORMのソファー「AMBROEUS」
Brand:FLEXFORM [Italy]、Sofa:AMBROEUS、Design:Antonio Citterio|イタリア「フレックスフォルム」のソファに身を預けると、体が雲の海に沈むよう! グースダウンがたっぷり使われています。クッションの置き方もコーナーソファの置き方も少しランダム。革張りのスツールやコード編みのレトロなチェアを組み合わせ、ゆるくて懐かしい景色を生み出す最新モデルです。

たくさんの家具を見てきました。いつも驚くのは、世界では家具の形やデザインが驚くほど多様だということです。向かい合わずに座ってもいい。ソファも収納も壁際に置かなくてもいい。素材も自由です。けれども日本ではその「本質」はまだ理解されていないと言っていいでしょう。

家の中で人がどう過ごすか。家や建築のプロポーションや構造、窓の位置の違いの中で、家具のデザインはどうあるべきか。世界で見た家具はそんな大きな視野で考えられています。それを日本のショールームや店頭、カタログの写真だけの「単品」で見てしまうと、首を傾げてしまうものもあります。

インテリアとは、部屋にテーブルを置き、椅子を並べ、テレビの前にソファを置くこと。収納は食器棚、本棚、洋服棚。照明は天井からつるして、リビングにはフロアライトを置く。それが長く当たり前でした。

けれども世界の家具は建築(住まい)全体のバランスから、デザインされているのです。どこにどう置かれて使われるか、役割を決め込まないようでいて、本当はデザイナーやメーカーの頭の中である程度、文脈がつくられているのだと、気づきました。

ある時期から日本の住まいでもリビングやキッチン、寝室、クローゼットなどの間取りがゆるやかにつながりはじめ、いつの間にか、判で押したような「インテリアコーディネート」に違和感を感じるようになっています。

さらに注目したいのは時間軸。働き方や休み方が自由になり、朝昼夜の家での過ごし方も変わり、家具選びも従来の価値観で縛られる必要がなくなってきました。

インテリアの場合、日本で販売側が発信する情報は「買えるもの」に限られることが少なくありません。家具や空間への想像の翼を広げることができませんでした。ですが、世界の名車や時計など他のジャンルでは、手に入らなくても見たり知ったりでき、ブランドの持つ背景の深さを知る機会があります。この記事の一部の商品は日本で取り扱いが未定のものや、技術的に販売ができないものもあります。ですが、ページを眺めて直感的にあなたの心に何が残るでしょうか?それがあなたのインテリア計画のスタートになるのです。


【Time Zone of the Day】「一日の時間帯」で家具と部屋を考える

Dadaのキッチン
Brand:Dada [Italy]、Kitchen:Intersection、Design:Vincent Van Duysen|イタリアのキッチンブランド「ダーダ」。インターセクション ―「交差」の意味を持つキッチンは、キッチンとテーブルがその名の通り交差しています。朝にぴったりのキッチンモデルです。これだけ大きなキッチンなら、使い方も多様ですね。

Morning Time|朝の光が似合う場所

いつの頃からでしょうか?ウィズコロナの時代がはじまり、人々が家で長く過ごしたり、早く帰宅するようになったからでしょうか。時間帯で部屋の役割が少しずつ変わってきているように思えます。家具のショールームや見本市でも案内をされるときに、間取りではなくて、時間帯の呼び名で案内されることが増えました。

特に夜の部屋は変わりましたね。「ナイトエリアにどうぞ」。そう招かれます。ベッドにリネンのコーディネートの紹介で終わるのではなく、その周りにアームチェアやベンチ、ライティングデスクがあったりして、眠る前のもやもやした時間をこう過ごせばいいのか、とヒントがたくさん見つかる展示が増えました。ベッドではオープンクローゼットやバスルーム、パウダールームがつながった間取りを展示するショールームも増え、光や風が通り、寝室や浴室は暗くて狭い場所ではなくなりました。

キッチンでも同じことが起こっています。オープンでテーブルがつながったキッチンなら、料理に使うだけではなく、一日の時間帯によって使い方は自在に変化します。食事はもちろん、昼はアトリエテーブルやリモートワークの場所に、夕方は子どもたちの勉強コーナーに、夜はホームバーに、週末はパーティースペースに。生活時間帯の中心は、家族構成やライフスタイルでも変わります。昼が生活の中心になる若い家族の家、夜がメインの都心のマンション、別荘なら早朝も深夜も美しい時間でしょう。

家だけではありません。世界一の朝食が自慢のオールデイズレストラン。深夜のバーラウンジが素敵なホテル。デイタイムにワークショップを開くホステル。昼夜の境目がないボーダーレスな時間を過ごせる、リゾートのコンドミニアム。ホテルこそ家具の時間帯のルールがない場所かもしれません。改めて意識してみると、家具はデザインだけではなく、もっと一日の時間帯の役割別に開発されたり、編集されてもいいのかもしれません。朝の家具、昼の家具、夜の家具。そうはっきりと区別はできないかもしれませんが、間取りにも影響するようなヒントがあるような気がしています。

チエロの洗面台
Brand:cielo [Italy]、Washbasin:MARCEL、Design:Andrea Parisio & Giuseppe Pezzano

日本でも人気のイタリアの洗面ボウルブランド「チエロ」ではコード編みキャビネットの洗面台「マーセル」を発表。自然素材を使った洗面スペースは朝の光がよく似合います。


Bed in Daytime|ベッドに一日いてもいい

カッシーナのソファ
Brand:Cassina [Italy]、Bed:Acute、Design:Rodolfo Dordoni、Vanity Table & Screen:Stay、Design:Neri&Hu|『Precious』でも知名度の高い「カッシーナ」のベッド。2つの大きな引き出しで収納に。ヘッドボードクッションを置けばソファ代わりに。照明や本、コレクションも飾れる、プライベートリビングに。さらにパーティション&ヴァニティーテーブルやベンチを加えてベッド空間をさらに多機能に。

べッドは夜だけの場所じゃない。昼のベッドがあっていい。そう思うのは、とても楽しいベッドが増えたから。休日なら昼までベッドで過ごすことも珍しくありませんね。タブレットで映画を見たり、ソファのように座っていたり。大窓に囲まれ日差しがたっぷり入る部屋の中央にベッドがあってもいいでしょう。

大きな理由はヘッドボードの変化です。ソファの背のように体を預けられるデザインがあったり、壁面や周りの素材と調和させたデザインも可能です。サイズも大型化し、パーティションにもなるので、センターベッドのレイアウトも珍しくなくなりました。

ベッド周りのファミリー家具も増えています。ワードローブスタンドやプチデスク。メイクアップカウンターやベンチなど。ベッド以上の役割を果たす。「新領域」のベッドはこれからも増えていきそうです。


Afternoon Terrace|気だるい午後の居場所

ロダのソファー「Levante」
Brand:RODA [Italy]、Sofa:Levante、Design:Piero Lissoni|アウトドア家具のブランド「ロダ」のソファ。このソファはチーク材で背と座はすのこ状に抜け、雨も風も通します。ローズレッドのテキスタイルをゆるめに張ったクッション。そこに身を預けて風に吹かれたくなります。チーク材の自然な経年変化を幸せに感じられる感性の人におすすめ。

フードコマという英語のスラングがありますが、おなかいっぱいで眠りに落ちる。そんな意味です。ランチの後の眠気に身を委ねる快楽は、夜の眠りよりも心地良いかもしれません。

テラスやガーデン、ウッドデッキで夕方、日が暮れるのを眺めながら過ごす。また部屋の中にベッドとは違う横になれる小さなコーナーがある。くつろぐとも眠るとも違う、そんな時間のためのコンパクトな家具は、意外と見つかるものです。

デイベッド、寝椅子、ベンチ、大きめのラウンジチェア。室内にブランコを吊るしても楽しそうですね。そんな気だるい午後の場所。今までなかったことが不思議に思えます。

B&Bのベンチベット「Noonu」
Brand:B&B Italia [Italy]、Bed:Noonu、Design:Antonio Citterio

「B&B イタリア」のコンパクトなベンチベッド。上質なブランドとはこういった小さな家具でも、丁寧な張り、仕上げを感じさせるものなのです。


Night Area|夜の時間はもっと深くなる

フォスカリーニの照明「Nile」
Brand:FOSCARINI [Italy]、Lighting:Nile、Design:Rodolfo Dordoni|イタリアの照明ブランド「フォスカリーニ」。光源が小型化し照明が存在感を消す中で、光の美しさに改めて心を寄せてほしいと生まれたのが「ナイル」。オフのときはモダンオブジェに、夜には筒状のシェードの上下から光が放たれ、周囲に光の存在感を感じさせます。商品名はエジプトの王妃ネフェルティティの筒状の帽子からの着想です。

夜の時間の家具といえば、誰でもベッドを思い浮かべるでしょう。けれどもそれだけではないんだ。そう気づかせてくれたのが、上の「ミッドナイト」というキャビネットでした。それは照明を落としたリビングでほんのりと輝き、夜の家具、というものがあるのだと気づかせてくれたのです。細いスリットが入った扉を開くと、中にはグラス、シンク、ワインセラーやボトルラック。一日の気持ちを鎮めるためのドリンクカウンターが備わっていました。その扉は静かに蝶の羽のように開くのです。扉が再び閉じられるとさらに深い夜の時間へ。読書のための小さな本棚や洗面、バス、癒やされる灯りや香り。そんなものに囲まれてベッドの中で深い眠りに落ちる場所。

また、夜の時間には心を癒やす灯りを一つ探してみましょう。自由に持ち運べて、自分に寄り添ってくれる小さな灯り、壁をふっと照らしてバウンスする灯り。光以上に広がる影に目を奪われる灯り。そんな光を味わう。夜のインテリアは寝室にとどまらない、ナイトエリアの考え方に変わっているのです。

「細尾」のオーダーベッド
Brand:HOSOO [Japan]、Order Bed & Bedware:HOSOO

京都発のブランド「細尾」のベッドウェアとヘッドボードを好みのテキスタイルで張るオーダーベッド。明かりを落とした空間に、淡い色がふわりと浮かび上がる。こんなベットカバーを初めて見ました。平安期の流れを汲む古代の自然染色で、絹と麻を黄檗や日本茜、梅、椎、楊梅など7種類の染め色で仕上げています。

カルテルのスタンド照明「ANGELO STONE」
Brand:Kartell [Italy]、Lighting:ANGELO STONE、Design:Philippe Starck

こちらも常識的に考えれば、シェードの中には光源があるはず!でも中には何もありません。スタンド中央のくぼみの中の小さな光源が高技術のレンズで増幅され、シェードを下から照らすのです。豊かな光が優美な白いシェードを満たします。

「アルマーニ/ダーダ」のキャビネット「Midnight」
Brand:ARMANI / Dada [Italy]、Kitchen Cabinet:Midnight、Design:Giorgio Armani

ジョルジオ・アルマーニがデザインする「ダーダ」とのコラボレーションキッチンブランド、「アルマーニ/ダーダ」。この「ミッドナイト」はカクテル&ワインバーキッチンで、日本の伝統建築からインスピレーションを受けたアルミ製ブロンズ仕上げの扉。開いた扉はサイドにスライドインして、全面開放できます。


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『リアルリビング&インテリア』という本は世界のインテリア、家具ブランドから発信される、新しい情報や感情を伝えたいという願いから生まれた本です。ミラノや北欧など世界で発信される、一流のメーカー、デザイナー、建築家、アートディレクターによるインテリア製品やコミュニケーションビジュアルは、気が遠くなるほどの想いと、地道な作業が積み重なって生まれます。

日本はもちろん、ドイツやイタリア、北欧のインテリアや家具、キッチン、生活雑貨の見本市に20年通い続けて取材した私の体験が、この本の誕生の原動力となりました。そこで出会った世界中の家具やキッチン、インテリアのブランドから招かれ、実際に見て体験し、そしてプレスリリースを先入観なく丹念に読み込み、まだ日本の皆さんの知らないインテリアの考え方を読み解き、結実した1冊です。

世界への旅に出にくい時代、みなさんの住まい、インテリアに対する視野を広げ、もっと自由に考えてほしい。そんな私の頭の中をお見せするような、内容になっています。本書は正直、あまり実用的ではないかもしれません。私が感動したものに純粋に向き合い、みなさんの心に真っ直ぐに届くようにできるだけ「無音」で表現し、読者の皆さんのインスピレーションに昇華するように伝えたいと思いました。これは新しい表現への挑戦です。(本間美紀 インテリア&キッチンジャーナリスト)

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※本記事は『リアルリビング&インテリア』(小学館)の内容を再構成しています。
※本企画で紹介した商品は日本での輸入販売先がない場合や取り扱い時期未定の場合があります。商品の問い合わせ先については『REAL LIVING &INTERIOR』をご覧ください。
※掲載書籍の価格は、すべて税込みです。

問い合わせ先

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取材・文・構成 :
本間美紀(インテリア&キッチンジャーナリスト)