雑誌『Precious』では「My Action for SDGs 続ける未来のために、私がしていること」と題して、持続可能なよりよい世界を目指す人たちの活動に注目し、連載しています。

今回は、「熊爪珈琲(シオンヂュアコーヒー)」バリスタ、バリスタトレーナーのチェン・インインさんの活動をご紹介します。

チェン・インインさん
「熊爪珈琲(シオンヂュアコーヒー)」バリスタ、バリスタトレーナー
’08年に市内の大学を卒業し、’16年までグラフィックデザイナーとして働く。’19年に国内のコンテスト(バリスタ部門)で優勝するが、聴覚障がいを理由に仕事が見つからなかった。’20年より「熊爪珈琲」に勤務。

スタッフほぼ全員が障がいをもつSDGsなコーヒーショップ

コーヒーが飲みたいなと思ったら、コンクリートの壁にあいた穴の前へ。スマホでオーダー、支払いをすませると、穴からヒョイと着ぐるみの熊の手が出てきて、無言でコーヒーを渡してくれる。

「熊爪珈琲(シオンヂュアコーヒー)」(※)は、先天的に目が不自由なオーナーをはじめ、店長、アルバイト、自社農園の作業員、焙煎士、パッケージなどのデザイナーまで、スタッフのほぼ全員がなんらかの障がいをもっている上海のカフェチェーンだ。

穴からコーヒーを渡す、というのは、自閉症や、顔などに損傷がある人など、「人前に出たくない」というスタッフの声を汲み取ったアイディア。’20年に1号店がオープン、現在は市内に9店舗を構える。そのトップバリスタであり、バリスタトレーナーとして各店を回り、若手の育成を行っているインインさんも、聴覚に障がいがある。

「もともとグラフィックデザイナーとして働いていたのですが、思うような仕事に巡り合えず、思いきって大好きなコーヒーの世界へ。猛勉強し、’19年に国内の職業コンテストのバリスタ部門で優勝しました。その後、『熊爪珈琲』オーナーと知り合い、1号店のバリスタ兼店長になったんです」

その後、障がいをもつ学生のなかからバリスタを目指す人が増加。一般的なカフェでも障がい者の雇用機会が増えてきている。

「おいしいコーヒーを提供するという目的のために、異なる障がいをもつスタッフ同士、互いに尊重し、励まし合って仕事をしています。大切なのは、中国の故事成語である『博采衆長(はくさいしゅうちょう)』。いろんな人の長所を広く受け入れること」

座るスペースがある店舗では、手話でおしゃべりする若者の姿も。街の風景も変わり始めている。

【SDGsの現場から】

外観は壁に穴があるだけ

インタビュー_1,サステナブル_1
開店当初は「QRコードをスキャンして注文〜壁から熊の手」のシステムが話題になり行列も。

店舗を巡回し若手スタッフの研修を行う

インタビュー_2,サステナブル_2
若手バリスタやアルバイトへの研修業務もインインさんの役割。上海市内100店舗を目指す。

熊爪珈琲とは…キッチンは障がいがあっても使いやすいものを自社発注。コーヒー豆のかすでつくったオリジナルマグカップなど、環境にも配慮。

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PHOTO :
長舟真人
WRITING :
剣持亜弥(HATSU)
EDIT :
正木 爽(HATSU)、喜多容子(Precious)
取材 :
萩原晶子