おいしいもの、未知なものあらば東奔西走する秋山都さんが、自身が発見したSomething Preciousをレポート。今回は石川県小松市の美食イベント「小松Saketronomy」へ。酒づくりの神様とも称される農口尚彦杜氏の日本酒に大いに酔い、触発された模様です。

「80歳まで仕事するぞ!」 酒を、夢をつくり続ける杜氏の酒を飲みながら覚悟を決めた夜

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石川県小松市の美食イベント「小松Saketronomy」

私は常々「80歳まで仕事をする!」と公言しています。これは、言霊のパワーを信じているから。もちろん、いま高額宝くじが当選したり、大谷選手がプロポーズしてくれたら即仕事をやめると思いますが(笑)、おそらく私の人生にそんなドラマティックなことは起こらなさそうだし、悠々自適な老後を過ごせるほどの貯金もなし。

幸いなことに身体は頑丈ですし、いまの仕事も好きなので、細々とでも(いえ、ホンネを言えば華々しく)自分の興味のあることを深堀りし、原稿を書いたり、コンテンツをつくって暮らしていきたい。欲をいえば、この世を去るギリギリまで書いていたい(すみません、坂本龍一さんの逝去を今朝知ったので、ちょっと心が揺れています)。

酒_2,レストラン_1
農口尚彦杜氏を囲んで、右・谷口英司シェフ、左・糸井章太シェフ。石川県小松市で開催された「小松Saketronomy」にて。

厚生労働省によると、2040年の平均寿命は推計で女性89.63歳(男性は83.27歳)。ということは、ですよ。私が80歳になる2050年には90歳を超えるかもしれません。80歳まで働いても、あと10年もある! 生涯現役でいるためにもっともっとタンパク質を摂らないと…というようなことを、御年90歳になる農口尚彦杜氏の日本酒をいただきながら考えていました。

場所は石川県小松市。日本酒の酒蔵である「農口尚彦研究所」が中心となり生まれたイベント「小松Saketronomy」におじゃました際のことです。

酒_3,レストラン_2
地元の名産である日華石のお皿に盛られたアミューズ。トマト麹でマリネした猪のハム、サバの糠漬け、焼酎で酔わせてから揚げたドジョウのフリット、熊の手のクロケット、毛ガニと根セロリ、すっぽんのコンソメで炊いた有機純米の酒米。
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ボタン海老を塩麹でマリネし、蒸したビーツ、液体窒素で急速冷凍したレフォールを添えて。「Junmai 2021」とペアリング。

このイベントは小松市を「美食のまち」として世界中の美食家達の「旅の目的地」とすることを目標とし、国内外の著名シェフによる「Sake」と「Gastronomy」の融合をコンセプトとしたペアリングイベントとして2019年より開催。

私はいままで「メゾン・ド・タカ芦屋」高山英紀シェフ、パリ「A.T」田中淳シェフ、「山崎」山崎志朗さんなどのすばらしい料理人の方々と「農口尚彦研究所」の日本酒を楽しんできましたが、みなさん、農口杜氏の醸すお酒へのリスペクトが感じられるすばらしいペアリングでした。

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幾度もミーティングを重ね、メニューを協議してきた谷口シェフ(左)と糸井シェフ(右)。

7回目となる今回は、デスティネーションレストランの代表格ともいえる富山県利賀村の「Cuisine régionale L’évo(レヴォ)」より谷口英司シェフを迎え、「農口尚彦研究所」に隣接する「Auberge “eaufeu”(オーベルジュ オーフ)」糸井章太シェフとのコラボディナーとのこと。農口杜氏90歳、谷口シェフ47歳、糸井シェフ30歳という、親子3代とも思えるようなジェネレーションギャップのある3人がどんなハーモニーを奏でてくれるのか、とても楽しみにしていました。

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山羊のチーズを溶いたレヴォ鶏のスープでいただく大門素麺。お酒は「Yamahai Miyamanishiki 2018」を人肌燗で。
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農口杜氏と筆者。いつもお会いするときには必ずツーショットで撮影をお願いしています。

農口杜氏をご存知ないという方のために、一応ご紹介を。農口杜氏は16歳で酒造りの世界へ入り、その腕を見込まれて28歳の若さで杜氏に。失われかけた山廃仕込み復活の立役者であり、能登杜氏四天王のひとりと称されました。「おいしい酒を造りたい、飲む人に喜んでもらいたい」という一心で、お酒を醸すこと74年。いまも「今年の酒はどうですか? なにか改善点はありますか?」と尋ねてくれる、私にとっては神のような方です。

レストラン_6,ホテル_1
「オーベルジュ オーフ」のダイニングは、廃校になった小学校の教職員室を活用したもの。
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“の”の字をシンボリックにデザインした「農口尚彦研究所」のお酒。

そんな農口杜氏のお酒は、料理と寄り添ったときに一層の輝きを見せる食中酒タイプ。谷口シェフ、糸井シェフ渾身の12皿に9種の日本酒がペアリングされました。「レヴォ」にはずっと行ってみたかったのですが、なにせ富山の山奥にあるので、ペーパードライバーの私にはなかなかハードルが高い。この機に少しでも谷口シェフのお料理をいただけて幸せでした。

旅行_1,国内旅行_1,レストラン_7,ホテル_2
取材期は2月。早春の小松にはまだ雪が残っていました。夜空にたくさんの星が浮かんでいるのですが…見えるかな?
旅行_2,国内旅行_2,ホテル_3
私の宿泊した部屋。元「お教室」だったせいか、ものすごく仕事がはかどりました。

せっかく小松まで行ったのだから、とこの日はこのまま「オーベルジュ オーフ」に投宿。廃校になった小学校をオーベルジュとして生まれ変わらせたユニークなお宿です。

私が宿泊したのは「2-4」、つまり2年4組の教室だったお部屋なのでしょうか? ちなみにレストランは職員室、個室は校長室、厨房は給食室だったそう。廊下や階段も小学校当時の雰囲気をそのままに活かしているので、小学校ってこんなに小さかった?と「不思議の国のアリス」気分を味わいました。

実際のところ、私は小学校6年から今に至るまでずっと身長160センチなので、見え方は変わらないはずなのに、やはりあの時から比べたら世界が広がっているのかな。

酒_8,レストラン_8
翌日は朝から、「農口尚彦研究所」のテイスティングルーム「杜庵」で「テイスティングプラン」(3500円)を満喫。美味しかったけど身体が奈良漬けになりそう…。
農口杜氏の酒づくり70年を記念してつくられた限定酒「Limited Edition NOGUCHI NAOHIKO 01 2018」。大樋焼11代・大樋長左衛門さんデザインの左右非対称なボトルもかっこいい!

私が農口杜氏に初めてお会いしたのは2017年。そのとき著書にサインをいただいたのですが、そこには一言「夢造」と書いてありました。杜氏にとって、お酒をつくることは、夢をつくることと同じなのでしょうね。一心にひとつのことを追ってきた農口尚彦杜氏、ずっとずっとお元気で、これからも美味しいお酒をつくり続けてください。

問い合わせ先

小松美食バレー

※外出時には新型コロナウィルスの感染対策を十分に講じ、最新情報は公式HPなどでご確認ください。

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この記事の執筆者
女性ファッション誌や富裕層向けライフスタイル誌、グルメマガジンの編集長を歴任後、アマゾンジャパンを経て独立。得意なジャンルに食、酒、旅、ファッション、犬と馬。
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WRITING :
秋山 都