今。美食家の注目を集めているのは、必ずしもアクセスが便利ではない「奥の地」。滋味溢れる素材に惹かれた料理人たちが紡ぎ出す料理は、心にもカラダにも深く染み入って、感動と幸福を呼びます。

「もうあのお店行った?」と交わされる美食家たちの囁きは、つい数年前まで東京や京都など都会の店が話題の中心でした。ところが今、その多くは北陸や軽井沢、そして南は九州まで、「奥の地」へと拡がっています。贅沢な食体験とはキャビアやフォアグラなどの高級食材だけではなく、その地でしか味わえない新鮮な旬の食材と、その地に根ざす料理人との出合いに尽きると、多くの人が気付き始めているのでしょう。

『Precious』8月号の特集「スモール&ラグジュアリーな14の美食宿」では、味わい、そしてそのまま泊まれる美食宿から14軒を厳選。

今回は、大分県湯布院の美食宿「ENOWA YUFUIN」をご紹介します。

「ENOWA YUFUIN」エノワ湯布院|緑に包まれ、味わうボタニカル・ラグジュアリー

FARM to TABLE 畑から食卓へ、という贅沢

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「ENOWA YUFUIN」のファームで。シェフのタシ・ジャムツォさん(左)はチベット出身。プロジェクトが開始した4年前に来日し、まずは野菜が無農薬で美味しく育つ土壌づくりから着手した。

夏、青々とした由布岳の麓に広がるファームでジャガイモの花を手にしているのはタシ・ジャムツォ(以下タシ)さん。採れたての食材が食卓へ運ばれる“ファーム・トゥ・テーブル”のコンセプトで一世を風靡し、世界のレストラン・ランキングで常に上位に入賞するN.Y.の名店「ブルーヒル・アット・ストーンバーンズ」副料理長を経て、2019年に来日。料理長としてこの6月、「ENOWA YUFUIN」をオープンさせました。

「ここでは少量多種の野菜や果樹、ハーブを栽培しています。(生まれ育った)チベットでも数種の野菜を育てていましたが、この土地の豊かさは別格。野菜はもちろん、豊後の魚や大分の牛、鶏など食材には非常に恵まれている地です」

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ファームで採れた大根やカブ、タケノコなど白い野菜だけで構成された「ホワイトサラダ」。ドレッシングはレモンジュースを加えた、ごく軽いサフランマヨネーズ。
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ローストとコンフィ、2種の調理法で加熱したビーツをタルタルにし、マスカルポーネチーズのムースといただく前菜。
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皮ごとじっくり炭火で焼いたタマネギには赤ワインヴィネガーやビーツのピュレを合わせて。

もともと野菜料理を得手としていたタシさんですが、湯布院に来てその才能はさらに大きく開花。一見、普通のサラダに見えるひと皿にもその野菜に合った調理法が注意深く選ばれ、食感や香りが幾層にも重なります。そして、その重すぎないバランスと心地よい食後感……よく植物を上手に育てる人を「グリーンハンズ」と形容しますが、タシさんこそ、緑の手をもつシェフなのかもしれません。

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源泉かけ流しの温泉が、露天風呂からインフィニティプールに流れ込む「ヒル・トップ・スカイ・パビリオン」プレミアムスイート。

さて、目をリゾート全体に向けてみると、こちらも緑一色。山の中腹の起伏を生かして点在する10棟のヴィラと9室のホテル棟は木や石をふんだんに使ったナチュラルで現代的なデザイン。どれも外の自然を取り込むように大きく窓を開いています。最も高台に位置するサウナからは、運がよければ雲海を望めることもあるのだとか。緑を眺め、食し、おなかの底からリフレッシュできる鮮烈なステイは、ここまで足を延ばした人だけが味わえる、究極のラグジュアリー体験です。

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「ENOWA YUFUIN」のダイニング個室にて。その日採れたての野菜がブーケ仕立てにされ、食卓でゲストを迎えてくれる。
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石を多く使い、モダンなインテリア。アメニティは九州の素材を使った有機コスメ “NEMOHAMO” 。
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インフィニティプールの向こうに広がるのは湯布院盆地。
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インドアガーデンに夏椿が一輪咲いていたダイニングスペース。
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13品ものディナーはもちろん野菜からスタート。シェフのタシさんが自ら収穫したラディッシュやニンジンを、ホウレンソウやケールのディップをつけていただく。見た目より濃厚で満足感の高いひと皿。
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朝食も野菜たっぷり。卵料理はオムレツか目玉焼きからチョイス。
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最も高台に位置するサウナは予約制で貸し切り使用。テラスで冷たいドリンクを飲みながら外気浴するのが最高。
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この日、ラディッシュを摘んでいたタシさんのバスケット。
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タシさんに土壌づくりや野菜栽培についてアドバイスしている石割照久さん。京都で京野菜を中心に栽培し、ミシュラン3つ星店などに卸す “野菜の達人” にしてタシさんの師。

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PHOTO :
長谷川 潤
EDIT&WRITING :
秋山 都、安村 徹(Precious)