ワイルドでありダンディ、無邪気な少年のような表情と円熟した大人の男の色香…相反する要素を内包する表現者・森田剛さん。2021年にアイドルグループ『V6』の活動を終え、個人事務所を設立。その後、舞台、映画と精力的に出演し、2023年は社会派テレビドラマ『アナウンサーたちの戦争』(NHK)も話題に。人間の優しさと狂気を同時に表現する森田さんの最新主演作は、舞台『ロスメルスホルム』。この作品は、「近代演劇の父」と称されるノルウェーの劇作家ヘンリック・イプセン(1828~1906年)の最高傑作のひとつともいわれる名作です。人間の暗い部分を取り上げており、物語は疑惑と動揺、追求と憎悪とともに進んでいく。登場人物も場面展開も極端に少ない作品を、森田さんはどう演じていくのでしょうか。

俳優・森田剛さん
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森田 剛さん
俳優
もりた・ごう/1979年埼玉県生まれ。アイドルグループ『V6』『Coming Century』として活躍。解散後は独立し、俳優として活動。代表作に映画『人間失格』、『ヒメアノ~ル』、『DEATH DAYS 劇場版』、NHK大河ドラマ『毛利元就』、ドラマ『ハロー張りネズミ』ほか多数

「わかりやすさが溢れる現代だからこそ、難解なものを求めたくなる」(森田さん)

――今、世の中には、明るくわかりやすく、スカッとするような作品にあふれています。しかし、『ロスメルスホルム』は、難解なところもあり、時流とは真逆の作品ともいえます。森田さんも上演決定の情報解禁に際し「暗く重たいストーリーではありますが、自分にとって大きなチャレンジになる作品だと思う」とコメントを発表されていました。

「そうなんです。今、世の中にはわかりやすい作品にあふれています。時々、わかりにくい作品もありますが、それにはたくさんの説明がある。だからこそ僕は心のどこかで『難解な作品を観て、考えを深めたい人もいるだろう』とも感じていたんです。

今はまだ『ロスメルスホルム』の台本を読み始めばかりなので、現時点で深く語れることはありませんが、難しい言葉も多く、随所に立ち止まって考えなければならないことがちりばめられていると感じています。だからこそ、観る側の解釈の幅が広く、自由を感じると思います。僕自身も、そういう作品が好きなんですよね」

俳優・森田剛さん
「観る側の解釈の幅が広く、自由を感じる。僕自身も、そういう作品が好き」(森田さん)

「特にこの作品は会話劇。日常生活の中でよくある『この人は、言葉ではこう言っているけれど、考えていることは違うだろう』ってことにも重なると思うんです。この、言葉と心の中が違うというのは、とても演劇的でもある。この作品は、そこも見どころだと思っています。
そういう側面もあり、台本を開くまでにはすこし時間がかかりました。そもそも翻訳劇が苦手で、一度ページをめくれば、入り込めるとわかっていながらも、う~ん、明日にしようという日々が続いたのは事実。ただ、それは集中力と体力が必要なことがわかっているからです。演じる僕自身がそうなのですから、この作品を観るお客さんも集中力と思考力、想像力を使うと思います」

「そもそも、舞台というのは、スマホで見る動画や、映画などとは違い、舞台側と観客が一緒に作り上げていくものです。一方通行ではなく、双方の力が重なり合っていく感覚をお互いに感じると思います。僕はそこも舞台の魅力だと思うんです。ただ、僕の場合、舞台に立つのはいいのですが、観客になるのは、あんまり得意じゃないかもしれません(笑)。気合を入れて向き合わなくてはなりませんから」

「言葉のニュアンスという壁を越えた表現に挑戦したい」(森田さん)

――私たちも、仕事や家事などでエネルギーを要することは先送りしがち。とはいえ、そこからは逃げられず、日々、試練の連続だと思うこともあります。森田さんは「翻訳劇は苦手」と言いつつ、22年、米国の劇作家アーサー・ミラー脚本の舞台『みんな我が子-All My Sons-』に挑戦し、高い評価を得ました。

「あのときも、『これでダメだったら、もうやめよう』と思うほどの覚悟で、苦手意識を乗り越えて、チャレンジをしました。苦手なことって、たくさんの可能性があると思います。出演のお話をいただいた時は、年齢を重ねても、そういうチャンスが来ることへの感謝の気持ちも強いです」

「翻訳劇が苦手な理由を挙げると、やはり『翻訳できない言葉のニュアンス』があるからです。例えば英語を日本語にするとき、的確に意味が重なる日本語の単語がなく、いくつもの候補のなかから一つの言葉を選びますよね。
翻訳劇に取り組むたびに『言葉の壁』は自分の中に常に感じているんですよ。かといって、その言葉に縛られてしまうと、そこで可能性が終わってしまう。今回、僕は言葉から解放された何かを表現できればいいと思っています」

俳優・森田剛さん
「言葉から解放された何かを表現できればいいと思っています」(森田さん)

――演出は日本を代表する舞台演出家・栗山民也さん。森田さんも「栗山さんの作品は、ステージの空間と俳優たちの立ち位置がすごく計算されていてきれいで、今回ご一緒できることになって、演出を受けられることはとてもうれしいです」とコメントしていました。

「今から楽しみなんです。演出家と役者は、作品を通してコミュニケーションを取ります。個人としてではなく、僕が栗山さんの作品世界に入り、僕が演じる“ヨハネス・ロスメル”という人物を通して、栗山さんと関係を築き、作品を作り上げる。
栗山さんが舞台上で魅せる、あの美しい世界に当事者として参加できることは楽しみでしかありません。」

「これまで、多くの作品にお声がけいただきましたが、そのたびに僕自身が気付かなかったことを引き出してもらっているという感覚があります。今回は何があるんでしょうね。
舞台で得ている“何か”を言葉にするとしたら、“愛情”だと思います。舞台作品に関わっている人々に愛をいただき、役者として、人として成長する。それがとても嬉しかったことを覚えています」

俳優・森田剛さん
「舞台作品に関わっている人々に愛をいただき、役者として、人として成長する。それがとても嬉しかった」(森田さん)

丁寧に言葉を選びながら、静かにゆっくりと森田さんは語りました。インタビューでも「言葉」という単語を繰り返し使い、いかに森田さんが言葉を大切にしているかがわかりました。後編は言葉から広がる「会話」を中心に、さらに森田さんの魅力に迫ります。


■『ロスメルスホルム』公演情報

●上演スケジュール

愛知公演/2023年10月28日(土)・10月29日(日) 穂の国とよはし芸術劇場PLAT主ホール
福岡公演/2023年11月3日(金・祝)~11月5日(日) キャナルシティ劇場
兵庫公演/2023年11月10日(金)~11月12日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
東京公演/2023年11月15日(水)~11月26日(日) 新国立劇場 小劇場

●キャスト・スタッフ

出演/森田剛、三浦透子、浅野雅博、谷田歩、櫻井章喜、梅沢昌代
原作/ヘンリック・イプセン 脚色/ダンカン・マクミラン 翻訳/浦辺千鶴 演出/栗山民也

●あらすじ

歴史と伝統に縛られたロスメルスホルムと呼ばれる屋敷には、所有者ヨハネス・ロスメル(森田剛)と家政婦のヘルセット(梅沢昌代)、レベッカ(三浦透子)という女性が下宿人として住んでいた。ロスメルの妻ベアーテは自殺している。
ある日、妻の兄・クロル教授(浅野雅博)がやってきて、モルテンスゴール(谷田)が掲げる「新しい進歩主義」に対抗すべく、ロスメルを保守派に引き込もうとする。しかし、ロスメルはレベッカの影響もあり、これまでの価値観から解き放たれようとしていた。
ロスメルの説得を試みるクロルは、ベアーテの死の原因は、レベッカだと伝える。ロスメルはレベッカを「進歩主義の同志」と思っていたが、その気持ちは愛情だったのか…心に罪を抱いたロスメルとレベッカが選んだ道とは?

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WRITING :
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