東京都目黒区に位置する日本美のミュージアムホテル「ホテル雅叙園東京」。東京都指定有形文化財「百段階段」では、「昭和モダン×百段階段~東京モダンガールライフ~」を2024年6月16日(日)まで開催しています。
例年好評を博している展示の今年のテーマは「モダンガールとモダン東京」。最先端のファッションやお化粧を愉しみ、社会に出て仕事をする、大正末期から昭和初期にかけて現れた自立した女性たちの姿をさまざまなアプローチから体感できます。
文化財「百段階段」へと続くエレベーターを降りると、昭和モダンのエントランスがお目見えします。靴を脱いで中に入ると、令和から昭和へのタイムスリップが始まります。
展示の様子を、ひと足先に体験したPrecious.jpライターがお伝えします。
東京都指定有形文化財「百段階段」の「昭和モダン×百段階段~東京モダンガールライフ~」体験レポート
■1:シーンごとのモダンガールの装いを展示/十畝(じっぽ)の間
「十畝の間」のテーマは「モダンガールの装い」。「職業婦人」「夜会」「銀ブラ」をテーマに、さまざまな洋服や着物をまとったモダンガールの姿を見ることができます。
職業婦人が生まれた背景には、大正から昭和にかけて進んだ都市化による産業化の進展や第一次対戦後の不景気による家計逼迫などが挙げられるそう。新たな分野の職業が誕生したり、それまで男性の仕事とされていた職業に女性が就くようになったりしたといいます。
展示でも見られるタイピストと女給のほかにも、電話交換手やデパートガール、バスの車掌などの職業があり、雑誌でも特集が組まれるほど注目されていたそうです。
百貨店やカフェが建ち並ぶ銀座を歩くモダンガールたち。胸元や手袋にレースをあしらい、スカーフを”真知子巻き”にしている女性と鮮やかな色彩の銘仙に帽子を合わせた華やかな装いが目を惹きます。
実際に彼女たちのようにモダンガールの装いをしていた女性は限られていたそうですが、自分の好きなファッションを楽しむ姿に女性たちの意志を感じることができます。
十畝の間の展示でライターが気になったのが、こちらのプレート。「株式会社雅楼商店」と書かれており、家紋も付いています。
じつはこの「雅楼」という名前は、昨年の展示でも使われています。当時は架空の旅館でしたが、今回は商店として再登場。このプレートも本展示のために作られたそうです。
十畝の間のどこかに設置されているので、探してみてくださいね。
■2:モダンガールのおめかしアイテムを展示/漁樵(ぎょしょう)の間
彩色木彫り日本画に囲まれ、純金箔、純金泥、純金砂子で仕上げられた華やかな「漁樵(ぎょしょう)の間」。「モダンガールのおめかし」をテーマに、大正末期から昭和初期にかけて使われたであろう化粧品や香水、バッグなどの貴重な資料を約80点展示しています。
大正後期から昭和初期に女性が外で働くようになり、必需品となった化粧品。映画女優などから流行を取り入れ、近代的な装いを楽しむ女性たちもいたそうです。
壁には、1903年に創業された化粧品会社「中山太陽堂」(現:株式会社クラブコスメチックス)のパネル展示もあり、当時のおめかしの様子をうかがい知ることができます。
また、「星製薬株式会社」の化粧品が飾られているコーナーも。SF作家の星新一氏の実父が創業した会社とのことで、知識を踏まえて鑑賞すると、より展示を楽しめそうですね。
■3:文化財に現れた架空のバー体験を/草丘(そうきゅう)の間
階段を上がり、「草丘(そうきゅう)の間」へ。窓から庭の緑を眺められる通常時から、モダンガールたちが集うようなバーへと変化を遂げています。
バーカウンターの横には、昭和4年7月に出版された雑誌『婦人世界』に掲載された「モダンガールの資格十ヶ條(原文ママ)」も展示されています。
「どんなにお汁粉が喰べたくても我慢して喫茶店に入らなければならない」「戀人の存在などを忘れて、シネマに熱中する癖をつけなければならない」など、くすりと笑えるものもあるので、ぜひチェックしてみてくださいね。
■4:竹久夢二が描いたモダンガール/静水(せいすい)の間
「静水(せいすい)の間」のテーマは「描かれたモダンガール」。2024年で生誕140年を迎える画家の竹久夢二が描いたモダンガールを鑑賞できます。
夢二といえば、憂いのある表情を浮かべた女性を描く「美人画」が有名ですが、近年は雑誌や楽譜の表紙などのグラフィックデザインの先駆者として再評価されているのだとか。
『婦人グラフ』は大正期に出版された高級雑誌で、木版画などで刷ったものを貼ってグラビアにするという数多くの工程を経て作られていたそうです。何かを語りかけてくるような女性の表情や身にまとった着物の柄と花瓶の下のクロスの柄、豊かな色彩のバランスなど、夢二の細やかなセンスに惹き込まれます。
部屋の奥には、夢二が270余点の表紙画を描いたセノオ楽譜の展示があります。こちらは石版画を使用しており、グラデーションなどできることが増えて、夢二が色々なデザインを試せるようになったといいます。
一つひとつに創意工夫がなされたレタリングのデザインも必見です。
■5:貴重な小林かいち作品を間近に見られる/星光(せいこう)の間
「静水の間」に続き、「星光(せいこう)の間」のテーマも「描かれたモダンガール」です。こちらは、大正から昭和にかけて活躍したデザイナーの小林かいちの作品を展示しています。
京都の紙物商「さくら井屋」の絵葉書や絵封筒のデザインをしていたかいち。作品履歴や私生活など、まだ解明されていない部分も多いですが、アール・ヌーヴォーやアール・デコを取り入れたモダンなデザインで、少女たちから熱狂的な支持を得たそうです。
かいちの作品は書籍などで見ることもできますが、グラデーションや凹凸を感じられる生の展示はまた格別! 間近で鑑賞して、かいちの手仕事を体感してみては。
■6:江戸川乱歩の世界観に浸れる/清方(きよかた)の間
「清方(きよかた)の間」では、怪奇趣味などとともに流行した「大正デカダンス」の要素を取り入れた展示として、作家・江戸川乱歩の作品『人でなしの恋』の世界観を体感できます。
物語の主人公は、変わり者だと噂される美男子のもとに嫁いだ「私」。幸せな生活を送っていたものの、結婚して半年ほど経った頃に夫の奇妙な行動に気づきます。
夫は夜な夜な家の裏の蔵こもり、女性と話をしているらしい。その声の正体を知るために「私」は蔵に忍び込みます。そこで目にしたものは……。
本作を知っている方はもちろん、未読の方もこの世界観に没入できること間違いなしです。
■7:絵画と現実のあいまいな境界線を楽しめる/頂上の間
階段を99歩上ってたどり着いた「頂上の間」のテーマは「モダンガール その先の時代へ」。画家の加藤美紀氏がこの展示のために描いた作品を鑑賞できます。
ここに描かれているのは、文化財「百段階段」で行われたパーティーから抜け出した女性。夜風を求めて窓を開けたところ、「静水の間」の天井画の鳳凰が抜け出して、彼女に何かを告げています。彼女が何を告げられたのかはわかりませんが、紳士の影が描かれていることから、恋の始まりを予感しているのかもしれないということです。
普段は着物のデザインもする加藤氏は、今回の展示にあたり「実際にその時代にあったもの」を大切にしたといいます。スタイリストの大野らふ氏がコーディネートした当時の着物を横に並べることで、女性が絵の中から飛び出してきたような不思議な感覚を味わえます。
ちなみに、窓の近くを飛んでいるのは、「漁樵の間」の前にある窓枠のコウモリです。中国語で「蝙蝠」と書くコウモリは、縁起物として扱われているそう。ぜひ実物をチェックしてみてくださいね。
昭和モダンなアフタヌーンティーもあわせてチェックを
展示の余韻に浸りたい方は、スイーツを食べながら内容を振り返ってみてはいかがでしょうか。
1Fの「New American Grill “KANADE TERRACE”」では、本展示と連動した「昭和モダンアフタヌーンティー」を2024年4月8日(月)〜6月16日(日)の期間、数量限定にて提供します。
気になるメニューは、モカロールや黄色いモンブラン、プリン・ア・ラ・モード、マカロニグラタンなど、レトロな喫茶店をイメージしたスイーツやお料理。目で舌で、昭和モダンを体験できそうですね。
昭和モダンをたっぷり感じられる本展示。撮影スポットもいくつか設けられているので、モダンガールを意識したファッションで訪れて写真を撮るのも楽しそうです。
問い合わせ先
- ホテル雅叙園東京
- 「昭和モダン×百段階段~東京モダンガールライフ~」
- 開催期間/〜2024年6月16日(日)
- 開催時間/11:00〜18:00(最終入館17:30)※4月9日(火)は16:30まで(最終入館16:00)
- 休館日/なし
- 料金/大人 ¥1,600、大学生・高校生 ¥1,000、中学生・小学生〜大学生 ¥800
- TEL:03-5434-3140(10:00〜18:00)
- 住所/東京都目黒区下目黒1-8-1
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- TEXT :
- 畑菜穂子さん ライター
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