鉛筆製作のルールや秘密とは?
芯の折れにくいシャープペンや消えるボールペンなど、便利な筆記具は年々増えていますが、今「鉛筆」の魅力が見直されています。1本の鉛筆で書ける筆記距離は、なんと約50km。シャープペンシルの芯は1本で約240mなので、約200倍の長さ分を書き続けられることになります。
そこで今回は、鉛筆製作のルールや秘密を探りに、あのトンボ鉛筆の広報担当にインタビュー。鉛筆で字を書くと、跡に白い粉が残る? 韓国ではあるシリーズを使わないと受験に受からないという都市伝説も! 身近な存在である鉛筆には、意外に知られていないおもしろいエピソードがたくさんありました。
■鉛筆のつくり方はお茶碗と同じ?鉛筆の機能性で一番重要なこと
黒い芯とそれを保護する木という、シンプルな素材でつくられているイメージの強い鉛筆。その木材にはどういった特徴があるのでしょうか?
「鉛筆の木は親指の爪で力を入れたら、傷が入るほどやわらかいものです。これは昔、鉛筆をナイフで削りやすくするためでした。鉛筆削り器がない時代には、鉛筆削り用の折りたたみナイフなどを筆箱に入れて使っていました。現在は、教室内で問題が起きないようにナイフの使用を禁止にしている学校も多いですが、昔と同様に、今でも削りやすいやわらかい木材を使用しています」
鉛筆削り器が登場したことで、刃物を使って鉛筆を削る機会が減り、子供たちの手先が不器用になってきたという説もあるそうです。また、トンボ鉛筆さんによると、鉛筆で一番重要視されるのは、芯を構成する素材である黒鉛と粘土を細かく砕く技術なのだとか。
「鉛筆のもつ機能性で重要なのは、滑らかに書けて綺麗に消せること。まず、鉛筆の書き心地を左右する芯は、『グラファイト』と呼ばれる黒い色をつけるための黒鉛と、それを固める粘土で構成されています。黒鉛と粘土を細かい粒子に粉砕することで、ザラザラではなく、スルスルと書ける鉛筆になるのです」
鉛筆は西暦1500年代初期からあり、500年以上使われてきた筆記具。製造技術や製品のクオリティーが上がっており、そのなかでも黒鉛と粘土を砕く技術は、格段によくなっているそうです。
「ちなみに、粘土は粒子が細かく良質なライン川に体積しているものを使用しています。とても細かいので目視することはできませんが、鉛筆で字を書くと、黒い黒鉛の線の周りに粘土の白い粉が残っているんです」
こうして粉砕した黒鉛と粘土を混ぜ、1000度以上で焼き固めて棒状にしたら、油にひたすなどの加工をして芯は完成するそうです。土を練り固めて焼いてつくる方法は、陶器と同じ製造方法なのだとか。
■濃さの種類は全部で17種!「MONO J」を使わないと受験に受からない?
事務や学習で使うことの多いHBやBのほかに、トンボ鉛筆で販売している鉛筆のラインナップは6Bから9Hまで。全部で17種類もあります。芯をつくるときに混ぜる黒鉛と粘土の配合で、鉛筆の濃さは変わってくるのだそう。
「私たちの鉛筆は、とろみがある滑らかな筆感が特徴です。どんな筆感がよいかは使う人の好みだと思います」
「種類を示す名称のBはブラック、つまり黒の濃度、Hはハードを指し、硬度を表しています。止め・はね・はらいといった筆のような字を書くのに向いているのが6B。硬筆書写によく使われています。Hから9Hまでの固い鉛筆は、細く削り線を引いても太さが変わらないため、製図などに使われています」
そのほか美術のデッサンなどで色のグラデーションを出す際、このバリエーションの豊富さが重宝されているそう。一方、海外には濃さの種類が4種類しかない国もあるのだとか。
それでは、海外で人気がある日本製の鉛筆はあるのでしょうか?
「理由はわかりませんが、韓国で『MONO J』というシリーズが、美大受験を目指す学生の方に人気があります。『MONO J』を使わないと受験に受からない、という都市伝説があるようです」
鉛筆の濃さは、メーカーそれぞれ、自社のHBを基準にし、濃さを展開するように指定されています。ただ、会社によって差が大きすぎるとユーザーが戸惑うため、他社製品とバランスを取りながらつくっているそうです。
■3の倍数の面が持ちやすい?鉛筆が6角形である理由とは?
トンボ鉛筆のオフィシャルサイトによれば、鉛筆は3本の指でつまんで持つため、3の倍数の面であると使いやすいそうです。また、円形ではなく角をつけることで、机の上で転がり落ちるのを防止する役割りもあるのだとか。
では、子供の練習用の鉛筆は三角形であることが多いのは、なぜなのでしょうか?
「鉛筆の持ち方が不安定なお子様が練習する場合、3面の方が安定して鉛筆を握ることができます。大人の方が持つと、指が動かず逆に窮屈に感じるかもしれません。大人の方はよく鉛筆を使いながら持つ位置を変えたりしていますよね。面が多い方が手の動きに合わせやすいのです」
無意識に動かす繊細な手の動きも想定して、六角形はデザインされているよう。鉛筆の長さについては、JIS規格で172mm以上と定めらており、トンボ鉛筆は昔から変わらず175mm前後の長さなのだそうです。
■ロングセラー商品を手掛ける思い
鉛筆と消しゴムが主力商品の「MONOシリーズ」が愛用され続けている理由について、トンボ鉛筆さんはふたつの理由が考えられると言います。
「ひとつは、安定した量を供給していること。身近に当たり前にあふれるようにあることが大切です。そしてもうひとつは、指先で使う筆記具は、たいへん繊細な表現に使われています。品質を徹底して追求していくことがポイントだと思います」
当たり前のように身近にある鉛筆にも、いろいろな秘密が隠されているのですね。長く愛されている鉛筆を手にとって、改めて手書きの魅力を再確認してみてはいかがでしょうか。
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問い合わせ先
- トンボ鉛筆 TEL:0120-834981
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 石水典子
- EDIT :
- 高橋優海(東京通信社)