雑誌『Precious』9月号の別冊付録では【やっぱり「鮨」が好き!】と題して、日本人のソウルフード・鮨を特集。北陸をはじめとする日本各地の名店から、注目の新潮流店まで、「おいしい鮨」をたっぷりとご紹介します。

今回は、作家の山内マリコさんが推す、富山の名店「鮨 大門」についてお届けします。

山内 マリコさん
作家
(やまうち まりこ)1980年富山県生まれ。’12年に『ここは退屈迎えに来て』(幻冬舎)でデビュー。地方と女性をテーマにした著書多数。最新刊は『マリリン・トールド・ミー』(河出書房新社)。締切前の“自主的缶詰”期間には立ち食い鮨店に行くことも。

美味鮨を食べに北陸へ

鮨は、日本人のソウルフード。豊かな漁場の近くには、豊かな鮨文化が育まれてきました。

なかでも、日本海に面する北陸は鮨の聖地。“天然の生簀”と呼ばれる奇跡のような地形の富山湾を擁する富山。暖流と寒流が交わる漁場が広がる石川。いずれも水揚げされる魚種が豊富で、漁場と港も近く、朝獲れの抜群の鮮度はいうまでもなく。極上の地の魚との出合いに心躍ります。しかもどちらも、良質な米の産地。鮨好きにとってこのうえない環境に、うまい鮨を届けたいという職人の心意気と丁寧な仕事。

今回は、全国から鮨好きが集まる富山と石川の名店を巡りました。

能登半島の東側、富山湾の支湾である七尾湾(写真)も海の幸が豊富。穏やかな癒しの海には、いまだ震災の傷跡が残ります。だからこそ、鮨を求めて、旅して、食べて、北陸支援。

北陸で、美味鮨が待っています。

【山内マリコさんが推す「富山」の名店|鮨 大門】

日本海でとれる魚介類の8割が生息するといわれる富山湾。漁場と漁港も近く、ネタは鮮度抜群。立山連峰からの高低差4000mという地形が魚と米をおいしくする。そんな美味鮨に魅せられた富山出身の作家・山内マリコさんが、お気に入りの名店へ。

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鮨 大門
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「海の幸が豊かで、そのおいしさを引き出す職人がいる。その幸せをかみしめています」――山内さん

奇をてらいすぎない誠実な鮨に心躍る

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写真右・山内さん

ブリの幼魚を富山では「フクラギ」と呼ぶ。山内マリコさんにとって、それは少女時代の好物だった。

「母が、さもごちそうの体で出すんです(笑)。それが本当においしくて。今思えば、スーパーで1パック200円くらいなのですが、富山は何気ない魚が本当においしいのだと、大人になって気付きました。東京で鮨屋に行く機会を通して、改めて、富山の鮨のおいしさを実感しています」

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亡き父に連れられて行った「美乃鮨」、「何度でも行きたくなる」という「SOTO」など地元でも鮨を堪能する山内さん、今回は魚津の名店「鮨 大門」へ。

富山市から電車で20分、蜃気楼で知られる魚津市は海と山が近く、立山連峰からの雪解け水が大地や海を潤し、豊かな食材を育む。地元出身の大門太郎さんが構えた「鮨 大門」は、2回連続でミシュラン一ツ星を獲得し、県外からの常連客も多い。

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この日はマグロのヅケ、白エビなど、まずはつまみが8品。

「マグロには芽ねぎとごまを散らしたり、白エビにはだしのジュレとしその実を合わせたりと、素材の魅力が引き出される絶妙な組み合わせ。煮アワビは、残った肝のソースにシャリを混ぜていただきました。緊張しがちな高級鮨店で、『これがおいしいんですよね』と教えてくださる大将のお人柄も、おいしさを何倍にもしてくれている気がします」

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続く握りは、真鯛、剣先イカ、バイ貝、ノドグロなど、12貫。大門さんが「3秒持つと崩れるくらいに」握る鮨は、口の中で心地よくほどけていく。

「トキシラズは、たっぷりのった脂がとろりとシャリにまとわり、はっとするおいしさ! 握りは魚の脂が静かに溶け出し、体にすっと入っていく温度感も素晴らしかったです。心躍る構成で、この時間が永遠に続いてほしいと思うほど大満足でした」

子供の頃泳いだ富山の海では、砂浜からほんのすぐでも、深海のひやりとした流れを足先に感じた。

「海の幸は地形という人間にはコントロールできない大自然の結晶。その恩恵を受けているのだなぁというありがたみは、年々増していきます」

鮨 大門|地魚をよりおいしく。富山の名店の静かな情熱

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“深海の宝石”白エビは繊細な甘さとコク。シャリとの間に海苔やゆずを忍ばせることも。シャリは米酢に2種類の赤酢をブレンド。

檜の一枚カウンターそばのケースには江戸前の仕事を施したネタが美しく並ぶ。マグロ以外は魚津を中心に、富山湾で水揚げされた地魚。5日間寝かせた真鯛の握りには大葉と梅を忍ばせ、うま味を爽やかに引き立てる。焼いた昆布などを加えた煮切りは、コハダに塗ると栗のような香りが心地いい。

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ノドグロは3日ほど寝かせて軽くあぶり、伊豆大島の海塩と共に。

店主の大門太郎さんは21歳のとき、「ここではないどこか」を目指して北へ。小樽や札幌の名店での修業を経て、’19年、魚津駅前に店を構えた。「長く続かない」といわれながらも自分の仕事を貫き、その美しい鮨を求めて、県内外から常連が集う。

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バイ貝は、煮切りがなじむよう細かく包丁を入れる。
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煮アワビと肝のソース。ソースにシャリを加え、混ぜて食べるのが評判。季節によってホタルイカやバイ貝になることも。
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締めは卵焼きの代わりに自家製の塩プリン

休日は、甘鯛やノドグロなどの釣果をあげる大門さんの夢は、「自分で釣った魚だけで鮨を握ること」。実直な人柄が生む極上の鮨を、『勝駒』などの地酒と共に味わいたい。

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地酒とともに

〈DATA〉

  • 鮨  大門
  • 住所/富山県魚津市釈迦堂1-2-3 
  • 営業時間/17:00〜19:30(最終入店)
  • 休業日/月曜、不定休あり
  • おまかせ¥22,000〜。カウンター6席、座敷8席。要予約
  • TEL:0765-32-5868

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PHOTO :
長谷川 潤
EDIT&WRITING :
松田亜子、木村 晶(Precious)