その「部屋」はどんな部屋? そして部屋の外は? 写真家 アレック・ソスが写した「四角い空間」を旅する

生まれ育ったアメリカ中西部などを題材にした作品で高い評価を得ている写真家、アレック・ソスの大規模個展。テーマは「部屋」。空間と、そこに宿る人の存在に意識を向けることで、見えてくるものとは?

 エディター・ライターの中村志保さんがひも解きます。

中村 志保さん
エディター・ライター
慶應義塾大学文学部美学美術史学専攻卒。ロンドン大学ゴールドスミス校でファインアートを専攻後、メディア学修士課程修了。『美術手帖』『ARTnews JAPAN』編集部を経て、エディター・ライターとして活動中。

【今月のオススメ】アレック・ソス 部屋についての部屋

アレック・ソスは、1969年アメリカ・ミネソタ州生まれ。アメリカ中西部などを題材に、物語を紡ぎ出すような作品で世界的評価を得る。

展覧会_1,東京_1
アレック・ソス《Crystal, Easter, New Orleans, Louisiana》〈Sleeping by the Mississippi〉より 2002年 作家蔵(C)Alec Soth

《Crystal, Easter, New Orleans, Louisiana》は、ミシシッピ川流域で撮った初期の代表作シリーズより。アメリカの象徴的な地に暮らしながらも忘却されゆく人々の感情が切り取られている。

展覧会_2
アレック・ソス《Two Towels》〈Niagara〉より 2004年 作家蔵 (C)Alec Soth

《Two Towels》は、ナイアガラの滝周辺で撮影したシリーズより、新婚旅行者を想像させるモーテルの一室。


自身が生まれ育ったアメリカ中西部を車で走り、出会った風景や人々を撮り続けてきた写真家、アレック・ソス。「部屋」で撮影された写真に焦点を当てた個展が、東京都写真美術館で開かれています。

人物が主体になっていることもあれば、人のいないベッドの風景や、家族写真が飾られた壁だけを写したものなど。訪れたこともないその部屋ですが、外では雨が降っているのではないか、もうすぐ夕日が沈んで夜の街へと向かう人の声が聞こえるのではないかと、部屋という「内」が同時に「外」を意識させることに気づくでしょう。写真から、匂いや音、時間までもが感じられるのが魅力です。

普段は誰にも見せることのない表情や秘められた物語に満ちた部屋の内側を、アレック・ソスは写真によってあらわにしてしまうわけですが、一方で、写真には写らないものが常にちらついている。内と外は決して正反対にあるものではないのかもしれないと考えさせられるのです。そうやって作品を見ているうちにふと、今自分がいる美術館の部屋自体も、ちょうど写真のように、フレームに切り取られた一つの四角い空間と捉えることができるのではないかと思い始めました。内の内にいるのか、外の内なのか、それとも内の外か…と。

さて、あなたにとって、部屋というとどんな空間が真っ先に思い浮かぶでしょうか。リビング、寝室、実家で過ごした部屋、いつかの旅のホテルの一室、何もない空っぽの部屋?そのとき、あなたは内側にいるのか外側か、どちらなのでしょう。(文・中村志保)

 

◇Information『アレック・ソス 部屋についての部屋』

初期のモノクロ作品から、ミシシッピ川流域を旅して制作した代表作、アメリカの美術学校を舞台に撮影した最新作まで、「部屋」をテーマにアレック・ソスの作品を紹介。

開催期間:2025年1月19日(日)まで開催中
会場:東京都写真美術館

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EDIT :
剣持亜弥
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