“うなぎさん”こと高城 久さんに聞きました!知っているようで知らないうなぎの豆知識「うなぎ学」

うなぎは日本人の食文化、風習と深く結びついています。その歴史から、現代うなぎについての知識、最新トピックまでを、テレビやラジオ、雑誌などでも大活躍、著書の『うなぎ大全』も話題の “うなぎさん” こと高城 久(たかしろ ひさし)さんに、お話しをうかがいました。

大のうなぎ好きが高じて、2004年よりうなぎ屋さん応援サイト「うなぎ大好きドットコム」を開設、うなぎLOVE道20年!

「うなぎを知って、美味しく食べて、運気もうなぎ昇りに! 日本ならではのうなぎ文化を次世代へ継承していきましょう」(高城さん)

うな重の始まりとは?

「国内の縄文・弥生遺跡からうなぎの骨が出土し、縄文時代から食べられていたとされるうなぎ。万葉を代表する歌人・大伴家持おおとものやかもちは、“石麻呂に われ物申す 夏痩せに よしといふものぞ 鰻とりめせ”〈夏バテ防止にうなぎを食べよ(意訳)〉と詠んでいます。

すでに滋養強壮作用が知られていたうなぎですが、当時は丸ごと串に刺して焼き、しょうゆや山椒味噌などをつけて食べていました。江戸時代中期に、開いて串を通して焼く現在の白焼のような “筏(いかだ)焼やき” が登場。その後、甘辛しょうゆダレで焼く蒲焼になり、人気に火がつきました。

江戸時代末期には、丼に盛ったご飯の上に蒲焼をのせる “うなぎ飯” が大流行。蒲焼が冷めずに柔らかく保てると評判で、明治に入って漆塗りのお重に入れたのが “うな重” の始まりといわれています」

江戸前とはうなぎのことだった!?

「江戸風、江戸の流儀、という意味で使われることが多い “江戸前” という言葉。元来は江戸城前、羽田から深川あたりでとれた魚を指す言葉でした。特に大川(今の隅田川)河口付近でとれたうなぎは、江戸前と称され、上級品として好まれていたとか。

対して江戸前以外でとれたうなぎは “旅うなぎ” “江戸後(うしろ)” などと呼ばれ、区別されていました。つまり、江戸前とはもとはうなぎから生まれた言葉。東京湾でとれる天然うなぎは別格ブランドだったのです」

進化するブランドうなぎって!?

「国内のうなぎのうち、天然ものはわずか0.5%未満。今出回っているものは99%以上が養殖です。江戸時代には豊富にとれた天然うなぎですが、高度成長期の治水事業や海洋環境の変動、過剰な漁獲などにより、うなぎの稚魚であるシラスウナギの採捕量は激減。そんなうなぎの資源保護に取り組みながら、養殖うなぎは進化し続けています。

歴史があり有名なブランドうなぎには、静岡県焼津市の “大井川共水うなぎ” や鰻問屋・忠平(ちゅうへい)の “うなぎ坂東太郎”、宮崎県宮崎市の“和匠うなぎ”、愛知県三河一色の “兼光うなぎ” など。また『はし本』で扱っている鹿児島県の “横山さんの鰻” といった個人の養鰻場のものも。

いずれも餌や水、育て方にこだわり、その違いを打ち出しながら、うなぎを愛情深く、大切に育てています。それぞれに特徴があり美味。ぜひ食べ比べてみてください」

『八重洲 鰻 はし本』の入り口に掲げられた看板
 

『八重洲 鰻 はし本』の入り口に掲げられた歴史ある看板には「鰻 これ くふうて やくのむな」という文字が。「創業者がつくったものです。“うなぎを食べて薬を飲むな” という医食同源の理念と、日本人ならではのうなぎを食べて元気になる! という文化や感覚を継承していきたい」と店主。

『八重洲 鰻 はし本』の詳細はこちら

ふわとろvs.かりふわ 東西の違いって!?

「うなぎの蒲焼は、関東と関西で違います。関東風は背開きにして頭を落として半分に切り竹串を刺し、素焼きにしてから蒸したあと、タレにつけながら焼き上げます。対して関西風は頭を落とさずに腹開きにし、鉄串を打って蒸さずにタレをつけながら一気に焼き上げる。武士の町・江戸では腹開きは切腹に通じて縁起が悪く、商人の町・上方は、腹を割って話すから腹開き、といわれています。

また東西の境目は静岡県・浜名湖近くを流れる天竜川。よって浜松では東西の調理法が混在しています。蒸しを入れた東のふわとろ、ガツンと焼き上げた西のかりふわ、どちらも甲乙つけがたい味わいです」

土用の丑の日広めたのは平賀源内?

「天然うなぎは夏よりも秋冬の方が脂のりがよく、美味とされていました。しかし江戸中後期になるとコクのある蒲焼のたれの発明と、健康志向の強い江戸っ子たちが取り入れた土用の食養生(夏の土用に “う” のつくものを食べる習慣)と相まって、夏のうなぎも人気に。

この風習を広めたのは平賀源内(ひらがげんない)と伝えられていますが、裏付ける資料はありせん。養殖うなぎが99%超の現在では、夏のうなぎは身が柔らかくあっさり、冬はうま味が増してて脂のりがいい。一年中、美味なのです」

令和のうなぎ最新事情

「2025年はシラスウナギが10年ぶりの豊漁となりました。価格は1kgあたり200万円超→20万円前後に大幅下落だそうですが、飼料代・燃料費などの価格高騰により、提供価格は高騰の予感。

一方で職人不足・人手不足対策として、急速冷凍機を導入する専門店が増加。自家製の蒲焼や白焼は味・食感も再現性が高く、人気です。

また、外国人観光客がうなぎ専門店に行列。寿司、天ぷら、焼肉などに次いで、ついにうなぎに注目が…! さらに、浜名湖では “メス化うなぎ” のブランド化が進行中。脂のりがよくふっくら仕上がる特性を生かしています。地域資源×研究で、養殖うなぎの新たな価値創造が始まっています」

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PHOTO :
長谷川 潤
EDIT&WRITING :
田中美保、佐藤友貴絵(Precious)
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