冷めてもおいしく食べられ、朝食でも夜食でも時間を問わず食べることができるマルチフード、おにぎり。
ここ数年おにぎり専門店が増加したり、卓球の世界選手権団体戦で3大会連続銀メダルを獲得した日本女子代表チーム(主将:石川佳純さん)が、メダルのMVPとして「試合前のおにぎり」と全員笑顔で語ったことが話題になるなど、日本人のおにぎりに対する信頼は絶大なものがありますよね。
ただ、何気なく買ったり、つくったりしているだけでは、その味や食感を台無しにしてしまっている可能性があるということ、ご存知でしょうか? 今まで通りのありきたりな食べ方では、おにぎりが持つポテンシャルを発揮できていないかもしれないのです。
それでは、よりおいしくおにぎりの味を堪能するにはどうすればよいのでしょうか?
今回は、『マツコの知らない世界』(TBSテレビ)にも出演されたおにぎり通の中村祐介さんから、最もおいしいおにぎりを食べる条件について、教えていただきました。これからの行楽シーズンに、出先でおにぎりを食べる機会は増えるはず。今後はぜひ、この5つを意識しておにぎりをいただくようにしてみてください。
最高においしい「おにぎり」を食べるための5つの条件
■1:自分好みの系統を知ってから「お米の銘柄」を選ぶ
最高のおにぎりは、やはりお米の銘柄にこだわるところから始まります。ざっくりとした違いは、あっさり系・もちもち系という系統と、柔らかい・硬いという硬軟。例えば、あっさり系で柔らかいなら、ササニシキ。もちもち系で柔らかいなら、ゆめぴりかがベター。後者はしっとりとした粒感が特徴で、口の中に入れると甘味の広がりがあります。
おいしいおにぎりと出合うためには、まず自分好みのお米のタイプを知ること。この行程が、お店でおにぎりを選ぶときも楽しめますし、自宅でつくるときのポイントにもなります。
まずは、これまでに食べたお米のなかで、最も好みだったものを思い出しましょう。それからおにぎりで使われているお米をチェックするようにするのが、さらにおいしく食べるためのコツです。最近では、玄米や雑穀米も人気。白米に限らず、「おいしい!」と思ったお米の種類を、振り返ってみてください。
ここで、中村さんから「気をつけてほしいのは、具材との相性。あっさり系のお米が好きな方は、そこに味が濃いものをいれてしまうと、食べたときのバランスが悪くなってしまいます。自分の味の好みから具材を導き出すことが大切です。また、その具材の機能性にも注目しましょう。例えば梅干しに多く含まれるクエン酸と塩分は、疲れたカラダを癒やす効果が期待できます」とのアドバイスが。
普段はあっさり味のお米が好きな人は、具材もなるべく味が薄めのものがよさそうです。例えば、ササニシキのおにぎりなら、鮭やツナのようなパンチの弱い具材がいいでしょう。
■2:「優しく握られた」おにぎりを選ぶ
自分でおにぎりをつくるときは、炊飯や握り方でおいしさが変わるそうです。
おいしいごはんの炊き方
ご飯の炊き方は品種や銘柄、季節によって多種多様。また、ご飯を炊くための道具も、土鍋や無水鍋、鉄鍋、圧力鍋など実にさまざまです。もっともオーソドックスな炊飯器を使ったご飯を炊くときは、浸水するときの水とご飯の切り方にこだわるといいのだとか。
「お米は1合で150g(米の乾燥具合で多少の増減があります)ので、炊きたい量にあわせて炊飯器の内釜にいれます。ここで注意したいのは、洗米。お米が一番はじめに触れる水になるので、吸収しやすいのです。おいしくない水を使うと、炊きあがりにも変化がでてしまいます。硬度30度程度の水がのぞましいです。
水を入れたら、さっとかき混ぜてすぐ水を捨て、糠を取り除きましょう。その後、米を揉むように洗います。米同士をすりあわせるようにして、40秒から1分程度。力いっぱいゴシゴシすると旨味が流れてしまうので、要注意です。揉み洗いが終わったら、水を注ぎ、ザルを使って水を流す作業を3〜4回繰り返します。
水が透明になるまで流す必要はありません。また、金ザルはお米が割れてしまうので、避けるようにしましょう。ザルにあげて完全に水を切り、炊飯器の目盛りどおりに浸水用の水を入れます。浸水用の水は洗米と同じで、硬度30度程度がいいです。
浸水時間は夏なら約30分、冬は約1時間程度を目安に。室温が高いときは、冷蔵庫に入れたほうがいいでしょう。浸水を終えたら、炊飯器のスイッチを入れましょう。炊きあがったらすぐに、しゃもじを十文字状に入れます。
時間を置くと、ふっくらと炊けたご飯がヘタってしまいます。できるだけ素早く行いましょう。十文字に切ったご飯を1/4ずつ、返していきます。全体に空気を入れて、水分や熱を均等にするイメージです。その後、形を整えてから、蓋を閉めましょう」(中村さん)
おいしいおにぎりの握り方
そしておにぎりを握るときは、力加減が重要ポイントとのこと。
「おにぎりは、炊きたてのお米で握るのがいいのですが、熱くて扱えないときは、まな板において形を整えてから握ると、熱くなく握れます。握るときのポイントは、握らないこと。つまり、優しく握ります。
実際に食べてみたときに、米の間に空気があり、口ほどけ感のあるおにぎりが、おいしいおにぎりと言えます。形を整えるあまり、力強く握られたおにぎりは米が潰れてしまい、おにぎりのおいしさを損ねてしまうので、できれば避けてください」(中村さん)
自分で握るときは、加減をして。お店で買うときは優しく握ったものを選ぶと、最高のおにぎりを味わえます。
■3:できあがりから4時間以内に食べる
おにぎりは、握りたてを食べても、冷めてから食べてもおいしくいただけます。本当においしいおにぎりを食べるには、いつが食べごろなのでしょうか?
中村さん曰く、「手づくりのおにぎりであれば、できあがりから4時間以内に食べてください。食べるタイミングによって、具材の選び方は少し変わります。例えば、ツナマヨなど油分があるものは、時間が経つとおにぎりの形が崩れてしまうほか、傷みやすいなどの問題があります。こうした具材のおにぎりは、すぐ食べるときに向いています。一方、古くから愛される梅、鮭、おかか、昆布などは、4時間後でもおにぎりは崩れず、おいしく食べられます」とのこと。
どうしてもツナがいい場合には、油分をしっかり切ってマヨネーズは控えめにし、レモン汁や黒こしょうを効かせてください。おにぎりの具材は油分が大敵で、塩と酸が豊富なものがおいしいそうです。
■4:まずは形を愛で、それから「粒感を確認しながら」食べる
また、おいしくおにぎりを食べるためには、まずは形を楽しむところから始めたほうがいいのだとか。おにぎりには三角、円盤、俵、丸形など、幅広い形があります。中村はさんは、形についてはそれぞれに歴史があると教えてくれました。
「多くの方が知っている三角型は、江戸時代になってから関東地方で完成されたようです。五街道が整備され、旅人が携行しやすいように改良されたといわれています。東北地方などでは円盤型で、これは寒い地方ゆえに火をあてやすく、表面積を多く取っていることが考えられます。
関西地方で多く見られる俵型は、江戸時代、町人文化が花開いた大坂(後に大阪)で幕の内弁当に入っていたことから、それがおにぎりへと変わってなっていったようです。味付け海苔が巻きやすいからという理由もあります。丸型は中部地方を中心に、中国・四国・九州と全国に広く分布しています。江戸時代、野菜の残ったものを混ぜ込んだ『かて飯』を食べることが多かったのですが、そのかて飯として、握りやすい形ともいわれています」(中村さん)
おにぎりの形を理解したら、まずはその形を愛でること。その上で、お米がしっかり粒感を出せているかをチェックして、ひと口食べます。口に入れてお米がほろほろと、ほどけるほどの口ほどけ感のあるおにぎりは、おいしいおにぎりと言えます。さらに、具材とお米のバランスも楽しんで。
海苔はパリパリ派としっとり派の2大派閥がありますが、パリパリ派が好きな方は、海苔のついていないおにぎりを買って、海苔をあとづけするのもおすすめの食べ方です。また、しっとりした海苔がかみ切りづらいという場合は、爪楊枝で海苔に一定の間隔で穴を開けておくと、噛み切りやすくなります。
■5:お弁当として持っていくときは「木製容器」に入れる
あと、お弁当におにぎりを入れるときは、お弁当箱にこだわりをもつと、おいしさに違いが出ます。水分の逃げ場がなく密閉性の高いプラスチック製だと、おにぎりだけでなく、お弁当の中身が傷みやすくなるそうです。
お弁当が傷む主な理由は、水分と高い温度なので、夏場にはプラスチック製のお弁当箱には、保冷剤を添えるように気をつけましょう。外で食べるときのお弁当におすすめなのは、少し高価ですが木製の容器です。木材だと適度な隙間があり、余計な水分を吸収してくれます。
また、おにぎりはできたてのおにぎりをラップで包むと余計な水分がこもり、傷む原因になります。少し隙間をつくったり、粗熱をしっかり取ってから包むほうが、傷みにくくなります。冷めてしまったおにぎりは、家であれば”焼きおにぎり”にして食べるのも適しています。
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日本人にとって、おにぎりは欠かせないソウルフード。今まで気づかなかった食べ方や選び方を知ることで、さらにおいしいおにぎりを味わえるようになるはず。まずは、自分好みのお米探しをするところから始めてみませんか?
一般社団法人おにぎり協会
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 池守りぜね