27年前、イクミさん(49歳)は趣味のボディーボードを通じて、大手重工メーカーに勤めるユウイチさん(50歳)と出会い、その2年後に結婚。今年6月、銀婚式を迎えました。

子供の手が離れた後、日本と海外、両方で生活するには?
子供の手が離れた後、日本と海外、両方で生活するには?

「一姫二太郎」の諺通り、結婚して1年後には長女のマイカさんが生まれ、3歳差で長男のダイキくんが誕生しました。海が好きなイクミさん、ユウイチさん夫婦らしく、子どもたちが小さなときは、年に1回は家族で海外旅行をして、現地のマリンスポーツを楽しみました。でも、いまでは子どもたちも大きくなり、それぞれの道を歩き始めています。

マイカさん(23歳)は、今年4月に化粧品メーカーに就職。商品開発部に配属され、先輩について張り切って仕事を覚えているところです。大学2年生になったダイキくん(20歳)は、両親の趣味とは正反対の山好き青年に成長。山岳部に入部し、長い休みは日本中の山を縦走しています。

子どもたちが成長し、残るお金の心配はダイキくんの大学の授業料2年分と住宅ローン。でも、授業料はすでに貯蓄で準備できており、住宅ローンはユウイチさんの定年までには完済予定で、いずれも目途がたっています。

 ダイキさんが20歳になり、親としての務めも一段落したこともあってか、夫婦で銀婚式のお祝いに食事に行ったとき、ユウイチさんがこんなことを言い出したのです。

老後に海外で暮らすために、今から海外投資を始めたい

「マイカも、ダイキも、無事に成長してくれたことだし、そろそろ俺たち2人のこれからのことを考えたいと思っているんだ」

実は、先日、ユウイチさんは、勤務先で行われた50歳以上の従業員向けのライフプランセミナーで、現在の雇用制度や年金制度などについて話を聞いてきたのです。

「今は雇用継続制度があるから、希望すれば65歳以降も会社に残ることはできるけど、給料は今の半額以下で、仕事内容も補助的なものになるらしい。会社に残って穏やかに暮していくのもいいんだけど、できれば60歳で退職して、その後はグアムで暮らしたいと思ってるんだ。あそこなら1年中、海を楽しむことができる。どうかな?」(ユウイチさん)

海が美しい島国に移住するには?
海が美しい島国に移住するには?

グアムは、今でも毎年のように行っており、現地には懇意にしている日本人コーディネーターもいます。寒いのが苦手なイクミさんは、「冬の間はずっとグアムで暮らしたい」と思ったことが何度もありました。

「完全な移住は難しいかもしれないけど、1年の半分くらい向こうで暮らせたらいいなと私も思っていたの。でも、向こうで暮らすためのお金はどうするの? 私達は年金がもらえるのは65歳からでしょう。退職金だけじゃ足りないだろうし」(イクミさん)

「だから、外国企業の株を買ってみようと思っているんだ。どうせ向こうで使うお金なら、外貨にした方が何かと便利かもしれないし。60歳までにはまだ10年あるし、今から始めておけば、向こうでの生活資金を増やせるんじゃないかな」(ユウイチさん)

たしかに、子どもにかかるお金が減ってきているので、その分のお金を投資したら、イクミさんとユウイチさん夫婦は、手持ち資金を増やせるかもしれません。でも、2人は海外投資は未経験。そもそも、海外の証券会社に口座開設ができるのかもわかりません。

そこで、今回は、海外投資をするときの注意点について、ファイナンシャル・プランナーの大山弘子さんに伺いました。

世界の企業の成長に乗って、自分の資産も増やす海外投資

証券取引所のチャート
証券取引所のチャート

 バブル崩壊から30年。日本は、長引く景気の低迷から完全には抜け出せないでいます。とくに預金金利は超低空飛行で、本連載記事「初心者が投資を始めるなら、この5つのポイントを押さえておけばいい」で紹介したように、2016年1月から日本ではマイナス金利がつづいています。その影響で、銀行預金はまったくといっていいほど利息がつきません。つまり、今は銀行にお金を預けておくだけでは、お金が増えない時代になっています。

でも、ファイナンシャル・プランナーの大山弘子さんは、「目線を変えて、海外の株式をお金の運用先として視野に入れると、まだまだ経済が成長している国や企業はたくさんある」といいます。

日本のLINEと似たような活用ができるWeChat
日本のLINEと似たような活用ができるWeChat

たとえば、メッセンジャーアプリの「WeChat(ウィーチャット)」を提供している、テンセント・ホールディングスという投資持株会社が、中国にあります。2004年に香港証券取引所に上場した日の株価(調整後終値)はわずか0.75香港ドルでしたが、この14年間で株価は上昇し、2018年9月19日の終値は321.60香港ドルとなっています。上場当時、テンセント・ホールディングスの株を購入し、その後、持ち続けていれば、約400倍に増やすことができました。

「株式投資は、自分が投資した企業が成長すれば、自分の資産も増える仕組みです。もちろん、その逆もしかり。株価が低迷すれば、自分の資産も目減りします。ですから、投資は減っても当面の生活に支障の出ない余裕資金を使うのが鉄則ですが、テンセント・ホールディングスのような企業を見つけてその成長に乗れれば、自分の資産も増やすことが期待できます」(大山さん)

では、外国企業の株式を購入するためには、どのような手続きが必要になるのでしょうか。

日本国内の証券会社でも、外国株式の取引ができる

外国株式の購入にあたっては、日本で株式を買うのと同様に、まず証券会社に口座開設する必要があります。ただし、マネーロンダリングを防止する観点などから、ここ数年、外国の証券会社に口座を開くのは厳しくなっています。また、国によっては資産の持ち出し制限などもあるため、外国の証券会社に預けたお金を日本に持ち帰るのが難しいこともあります。

ニューヨーク証券取引所
ニューヨーク証券取引所

「それじゃ、そもそも外国株式は買えないのでは?」と心配になるかもしれませんが、実は、日本国内の証券会社でも外国株式を簡単に買うことができるのです。

外国株式を購入する場合、「便利なのはSBI証券、楽天証券、マネックス証券などのネット証券」(大山さん)です。口座開設の手続きは証券会社ごとに異なりますが、基本は、サイト内にある口座開設画面に必要事項を入力して、マイナンバー、免許証などの本人確認書類などを添えて申し込みます。

証券口座には、「一般口座」と「特定口座」の2種類がありますが、おすすめは後者の「特定口座」。株式や投資信託などを購入して利益がでると、税金の申告が必要になりますが、特定口座を利用した取引については、証券会社がその申告のもととなる、計算書類をつくってくれます。さらに、「源泉徴収あり」にしておけば、納税手続きも代行してくれて確定申告も不要になります(「源泉徴収あり」だと、証券会社で損失の繰り越しまではしてくれないが、自分で確定申告すれば損失の繰り越しができる)。

口座開設ができたら、投資資金を口座に入金し、いよいよ取引の開始ですが、肝心なのは銘柄選び。資産を増やすためには、これから成長する企業を見つける必要がありますが、優良株を見極めるにはどうすればいいのでしょうか。

次回は、外国株式の銘柄を選ぶ際の情報収集の方法、評価額が常に動いている株式を購入するタイミングなどについて、詳しく見ていきます。

【後編】外国株には「買いのタイミング」がある!失敗しない海外投資のやり方

大山弘子さん
ファイナンシャル・プランナー(AFP)/フリーライター
(おおやま ひろこ)早稲田大学卒業後、旅行会社に勤務。その後、出版社に転職し、1998年からフリーライターに。ファイナンシャル・プランナー(AFP)の資格も有しており、資産運用をはじめとするマネー記事を数多く手掛けている。中国やインド、アジア諸国の投資事情に詳しく、2006年にはベトナム株関連の単行本の企画、構成などに携わり、ベトナム株ブームのきっかけを作る。自身も、米国、中国、インド、アジア諸国への投資を行い、その経験を記事に生かしている。
この記事の執筆者
1968年、千葉県生まれ。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。医療や年金などの社会保障制度、家計の節約など身の回りのお金の情報について、新聞や雑誌、ネットサイトに寄稿。おもな著書に「読むだけで200万円節約できる!医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30」(ダイヤモンド社)がある。