天井や窓が広く取られた開放的な場所で、紅茶の豊かな香りに包まれ、スコーンやサンドイッチの三段スタンドを楽しむ…。高級ホテルのラウンジなどでいただく優雅なアフタヌーンティーは、私たち女性に至福の時間を与えてくれます。

そこで、アフタヌーンティーをエレガントに楽しむために知っておきたい、アフタヌーンティーの歴史的、文化的背景から、主催者として人をお招きする際のマナー、優雅に楽しむ方法などを、英国紅茶&マナー研究家/サロンアドバイザー、英国式紅茶教室「エルミタージュ」主宰の藤枝理子先生に教えていただきました。

【目次】

■アフタヌーンティーとは?

アフタヌーンティーは、イギリス発祥の上流階級文化のひとつといわれ、現在でも親しまれている生活習慣
アフタヌーンティーは、イギリス発祥の上流階級文化のひとつといわれ、現在でも親しまれている生活習慣

おいしい紅茶とおしゃべりを楽しむ午後のひととき。それがアフタヌーンティーです。テーブルにはポットやカップ&ソーサーなどのティーセットと、サンドイッチやケーキなどのティーフーズ。ときには、焼き菓子が並んだ3段スタンドなどが並び、焼きたてのスコーンの香りに包まれた空間で、紅茶をいただきます。

このアフタヌーンティーは、イギリス発祥の上流階級文化のひとつといわれ、現在でも親しまれている生活習慣です。また、日本の茶の湯への憧れからイギリスのお茶会が始ったという説もあり、共通した作法もたくさんあります。

優雅にアフタヌーンティーを楽しむには、マナーのある振る舞いが大切です。思いやりの気持ちの表れが、マナーの基本。アフタヌーンティーを一緒に過ごす方への優しい心遣い、心配りから生まれたたしなみともいえるでしょう。

・アフタヌーンティーの歴史、文化的背景

英国スタイルのアフタヌーンティーの始まり

英国スタイルのアフタヌーンティーは、1840年頃、7代目ベッドフォード公爵夫人のアンナ・マリアによって始められました。当時の貴族の食生活は、イングリッシュ・ブレックファストと呼ばれるたっぷりの朝食と、夜8時頃からはじまる夕食の2食。アンナ・マリアは朝食と夕食の間の空腹を満たすため、午後4時頃に、お茶とともにパンやお菓子を食べはじめました。

最初はこっそり寝室で食べていたそうですが、専用のお茶室で友人たちと楽しむ社交の場として発展し、ヴィクトリア時代後期にはアフタヌーンティーが大流行。一般庶民にまで浸透することになりました。そこで、階級の差別化をするために、上流階級ほど堅苦しいマナーを重んじるようになっていったのです。

また、アフタヌーンティーは「マダムの生活発表会」ともいわれ、お料理や掃除から、おもてなしの力量、インテリアのセンスなど、日頃のハウスキーピングの成果をお披露目する場でもありました。特に貴族階級においては、アフタヌーンティーは主役である、マダムの手腕が試される場でした。

アフタヌーンティーの流れ

アフタヌーンティーを開くことを決めたら、まずマダムはゲストを慎重に選定します。どのような方々を招くかで、マダムの格が問われるからです。執事は、アフタヌーンティー開催の1か月前までに、ゲストの家に招待状を届けます。招待状には、主催者の名前、日時、場所はもちろん、ドレスコードが書かれています。そしてマダムは、アフタヌーンティーの食器、テーブルコーディネート、紅茶やお菓子を緻密にプランニングします。これはマダムにとってもっとも重要な作業となります。

アフタヌーンティーの当日、開催時間の午後3時頃になると、体を締めつけないティーガウンと呼ばれる繊細なドレスに、帽子と手袋を身にまとったゲストが訪れます。マダムが一杯目のウェルカムティーを入れ、アフタヌーンティーのはじまりです。フィンガーサイズのお菓子をつまみながら紅茶をいただきます。マダムは会場の調度品やリネンなどを、家の格や歴史などの背景とともに語るのがセオリーです。

このような優雅な貴族のアフタヌーンティーは、いつしか「ヴィクトリアンティー」と呼ばれるようになり、アフタヌーンティーのお手本とされていました。

・現代にも楽しまれるアフタヌーンティー

イギリスでは、朝のアーリーモーニングティーからはじまり、11時のイレブンジズ、アフターディナーティーなど、1日に6〜7回ティータイムがあるのだそう。現代のアフタヌーンティーは、形を変えつつ、フォーマルなものからカジュアルなものまで行われています。場所も、自宅やティールーム、高級ホテルなどさまざまで、フォーマルなスタイルは、高貴な社交の場として、カジュアルなスタイルは、親しい友達と午後のひとときを紅茶とともにゆったり過ごす、というように楽しまれています。


■アフタヌーンティーを楽しむための方法

アフタヌーンティーを楽しむための方法とは?
アフタヌーンティーを楽しむための方法とは?

・招待状とお礼状

招待状にはじまり、お礼状で終わるのがアフタヌーンティー。ご自宅でアフタヌーンティーを開く場合は、ゲストに招待状を出すと、もらった方もれうれしい気持ちになります。また、アフタヌーンティー終了後は、ゲストの方はお礼状を書くことをおすすめします。遅くとも3日以内に封書で出すようにしましょう。お礼状は、ていねいな感謝の気持ちの現れになります。

・ティーフーズは多めに、茶葉は2、3種類用意して

ティーフーズのスコーンやサンドイッチ、ペイストリーをやや多めに用意しましょう。すべてを手づくりにするのは大変なので、市販のものと組み合わせてもよいですね。会話を妨げないような一口で食べられるフィンガーサイズにし、紅茶の香りをそこなわないよう強いスパイスや香りのものは避けましょう。季節感やゲストの好みを取り入れると、よりアフタヌーンティーを楽しんでもらえるはずです。

メインである紅茶の茶葉は2種類、もしくは3種類用意します。できれば、茶葉の種類を変えたり、産地の違うものを用意するとさまざまな紅茶が味わえます。

・ティーセットを整えて

ティーセットはアフタヌーンティーの主役といっても過言ではありません。ティーポット、カップ&ソーサーはもちろん、シュガーポット、ミルクジャグ、ティーストレーナー、ティーキャディーを並べます。フォーマルなアフタヌーンティーには、薄手で、金彩の施された華やかな磁器のものを。カップはゲストの人数よりやや多めに準備しましょう。ティーセットを並べるだけで一気にアフタヌーンティーの気分が高まります。

・ティーナプキンの使い方

ティーナプキンは、お食事用ナプキンよりも小さめの20〜30cm。ハンカチ程度の大きさです。三角形に折ってあるので、1/2に折った状態にし、輪を内側にして広げます。口元の汚れは、内側で拭くようにしましょう。また、使い終わったらくしゃくしゃにせず、使ったことがわかる程度に軽くたたんでテーブルの上へ。

・マダム以外が紅茶を注ぐのはマナー違反

マダムは、主賓のゲストから順に紅茶をカップに注ぎ入れます。マダム以外が紅茶を注ぐのはマナー違反です。また、2杯目の紅茶を入れるときに、注ぎ足すのはNG。飲みきってからか、湯こぼしのようなスロップボウルに流して新たに注ぎましょう。

紅茶の準備ができたらティーフーズを振る舞います。紅茶同様、主賓のゲストのプレートから順にサーブしましょう。

・マダムがファシリテーターとなって全員が楽しめる時間をつくる

楽しい会話とともにアフタヌーンティーを楽しみます。マダムは、ファシリテーターとなって、ゲストの興味のある話題を提供し、会話の流れをリードして。ひとつの話題が長かったり、ひとりの方がたくさん喋ったりしないよう、全員が楽しめる時間をつくりましょう。


■アフタヌーンティーのマナー

・アフタヌーンティーのマナー:紅茶編

アフタヌーンティーで紅茶をいただくときのマナーとは?
アフタヌーンティーで紅茶をいただくときのマナーとは?

ティーカップはハンドルを右に、スプーンはハンドル側に縦に置く

ティーカップには表と裏があることをご存知ですか? 右にハンドルを置いた時に正面にくる側が表です。表側には、メインとなる絵付けが施されています。セッティングの際も、ハンドルを右にして置き、スプーンはハンドル側に縦に置くようにしましょう。

ミルクを入れるのは、2杯目からがベター

ミルクを入れるのは、2杯目からがベターです。はじめの1杯は、茶葉の風味を味わうため、ストレートで飲むとスマート。紅茶にミルクやお砂糖を入れるときは、ティースプーンで音を立てずに2、3回混ぜます。その後、カップの向こう側にティースプーンを置いて。

ティーカップは必ず右手で持って

紅茶は、エレガントにいただきたいものです。マダムの「どうぞ温かいうちに」というお声がけがあり、主賓の方がカップに口をつけてから、飲み始めましょう。

ティーカップは必ず右手で持ちます。このとき、カップのハンドルに指を通さず、つまむようにするとエレガント。カップを少し上のほうから持ち上げるようにしてハンドルをつまみ、親指でハンドルの手前を支え、ほかの指を添えます。指先はふんわりと包み込むような感じに。小指を立てたり、カップの底に左手を添えるのはタブーです。

ローテーブルの場合、ソーサーごと胸の高さまで持ち上げ、右手でカップを持ち、左手でソーサーを添えていただきます。立食のティーパーティの際も、ソーサーを持つようにしましょう。高いテーブルの場合は、ソーサーを持つ必要はありません。

音を立てないようにして紅茶をいただく

周囲に不快な思いをさせないよう、音を立てないようにして紅茶をいただきます。また、足を組んだり、テーブルに肘をついたり、髪をかきあげる行為もよくありません。カップについた口紅を指で拭うことも、よいマナーとはいえません。ティータイムの前に、軽く口紅をおさえておくのがエチケットです。

ティーカップやソーサーなどの裏側を見ない

素敵なティーカップやソーサーなどの裏側を見たくなってしまいますが、西洋のマナーでは、必要以上に食器に触れてはいけません。気になるのであれば、アフタヌーンティーの主催者の方に聞きましょう。そこから楽しい会話が広がり、コミュニケーションを取ることができます。

紅茶を注ぐ際には、ティーポットのふたを押さえない

紅茶を注ぐときに、急須でお茶を入れるようにふたを押さえるのは日本式。イギリススタイルは、右手にポットを、左手でカップ&ソーサーを持って胸の高さまで持ち上げ、ゆっくりとカップに紅茶を注ぎます。

・アフタヌーンティーのマナー:ティーフーズ編

アフタヌーンティーでティーフーズをいただくときのマナーとは?
アフタヌーンティーでティーフーズをいただくときのマナーとは?

シルバースタンドはホテルやティールームのスタイル

アフタヌーンティーには、立体的なシルバースタンドがつきもの。シルバースタンドには、サンドイッチやペイストリー、スコーンが気品高く並べられています。しかし、このスタンドは、英国の家庭でのフォーマルなアフタヌーンティーの場では見かけないもの。ホテルやティールームから発祥したスタイルなのです。

イギリスでは2段のものを「TWO TIER STAND」、3段のものを「THREE TIER STAND」といいます。並べ方のルールは、3段スタンドの場合、下からBOTTOM TIER(サンドイッチ)、MIDDLE TIER(スコーン)、TOP TIER(ペイストリー)の順で並べます。

ティーフーズをいただく際のマナー

スタンドに並べられたティーフーズは、サンドイッチ、スコーン、ペイストリーの順に食べ進めます。
家庭でのフォーマルなおもてなしの場合は、順に食べ進めたけれど、またサンドイッチをつまむ、というように、逆戻りして食べることはNG。

また、ティーフーズは、全部食べきらずに少し残してあげるのもマナー。これは、「食べきれないほどお出しする」という約束事が19世紀の貴族間にあったためです。ティーフーズは、おいしくても全部食べてしまわないようにしましょう。

ティーフーズは自分のプレートに取り分けてからいただく

スタンドから直接手をのばし、ティーフーズを口に運んではいけません。自分のプレートに食べる分のみ取り分けてからいただきましょう。

ティーフーズは左手、ティーカップは右手でいただく

ティーフーズは左手でいただくのが正しいマナーです。理由としては、カップを右手で持つため。カップのハンドルを汚さないためにも、また、手をすべらせてお茶をこぼさないためにも、必ず左手でいただくようにしましょう。ティーカップは右、ティーフーズは左です。

スコーンの作法は「ジャムファースト」

アフタヌーンティーに欠かせないティーフーズといえば、スコーン。スコーンは上下に割って食べるのですが、ナイフを使わず、手で上下を抑えながら、中央あたりを押すようにすると、きれいに割ることができます。ジャムとクロテッドクリーム(ジャージー牛のミルクの上澄みをかためた濃厚なクリーム)をつけていただきましょう。

塗る順番は、ジャムファーストで。ジャムを先に、その上にクリームを塗ります。先にクリームを塗ってしまうと、スコーンの温かさでクリームが溶けてしまうからです。おいしそうなジャムやクロテッドクリームは、たくさん塗りたくなってしまいますが、ベタ塗りは厳禁。口にいれる分のみを塗って、上品にいただきます。

アフタヌーンティーを楽しむためのマナーは、集う方々への思いやりの形です。歴史や文化背景はもちろん、マナーや作法を知って、紅茶とティーフーズとともに素敵な時間を過ごしてみませんか?

監修者:藤枝理子さん
英国紅茶&マナー研究家/サロンアドバイザー、英国式紅茶教室「エルミタージュ」主宰
大学卒業後、ソニー株式会社・経営企画部に勤務。結婚後、紅茶好きが嵩じてイギリスに紅茶留学。帰国後は紅茶とお菓子のプロデュースに携わり、東京初サロン形式の紅茶教室「エルミタージュ」を主宰。予約のとれない人気サロンとして話題となる。2006年、サロン開設をサポートする「サロンマダム塾」がメディアに取り上げられるようになり、初の著書「サロンマダムになりませんか?」を出版。現在、テレビ、雑誌をはじめ、大学の非常勤講師や企業のコンサルタントとしても幅広く活躍中。著書に、『もしも、エリザベス女王のお茶会に招かれたら?』、『愛されサロンのつくり方』(清流出版)、『プリンセスになれる午後3時の紅茶レッスン』(KADOKAWA)、『予約のとれないサロンのつくりかた・育てかた』(辰巳出版)、『ようこそアフタヌーンティーへ!英国流5つのティータイムの愉しみかた』(清流出版)などがある。
英国式紅茶教室「エルミタージュ」

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この記事の執筆者
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