シーズンごとにアーティストとコラボレーションする「銀座メゾンエルメス」で展開されるウインドーディスプレー。2001年のオープン以来、すでに100回を超えると言います。

この後編記事ではそのなかから、数組のアーティストが残したウィンドウアートを、その具体的なエピソードや動画とともに、ご紹介していきます。

【前編: 銀座を歩く人の足が止まる、エルメスのショーウインドー。その秘密を解明】

世界中で銀座にしかない、気品あふれるショーウインドーを詳解

■1:リアルな植物を使用した「サボテン」ディスプレー【小田康平氏 作】

2016年7月から展示された、小田康平氏の作品
2016年7月から展示された、小田康平氏の作品

まず紹介するのが、2016年「自然」をテーマに、小田康平氏とコラボレーションしたウインドーディスプレーです。

これまでにも、ウィンドウディスプレーに「植物を使いたい」という思いはあったものの、人工の空間に閉じ込めて苦しめることは避けたい、という考えがありました。

そこで、広島で「叢」というサボテンショップを営む小田康平氏に聞いたところ、「日光が安定した北向きの場所なら、サボテンは水をあげなくても大丈夫」という意見が寄せられたのです。それならば…と、小田氏にウィンドウディスプレーの製作をオファー。大量のサボテンを使って、自然界ではありえないような、サボテンの群れができあがりました。

これらのサボテンは、ディスプレー期間中も順調に成長し、途中で赤い花までつけ、さらに撤去のあとはもう一度、畑へ。展示が終わっても破棄するものがほとんどない、サスティナブルなディスプレーとなりました。

 

■2:猿山が、銀座の街中にやってきた !?【ステファニー・クエール氏 作】

2016年11月から展示された、ステファニー・クエールの作品
2016年11月から展示された、ステファニー・クエールの作品

次にご紹介するのは、同じ2016年の作品。セラミックを使って、動物の彫刻を精密につくりあげるアーティスト、ステファニー・クエールとコラボレーションしたものです。

ステファニーの作品は、もともと動物の生命力を感じるような作品だけに、サボテンと同様、閉塞感を感じさせないための工夫が必要でした。そこでアーティスト側から上がってきたのが、「猿の群れを表現する」という提案。

まるで猿山のような情景をつくることで、ウインドーの中を見ているはずの人間が、逆に猿側から見つめられているような、そんなエネルギーを発するものに仕上がったのです。

 

■3:斬新かつ最先端な映像とオブジェ【マックス・ラム氏 作】

2017年3月から展示された、マックス・ラムの作品
2017年3月から展示された、マックス・ラムの作品

一方で、アーティストが望む材料が手に入らない、という事例もありました。2017年「オブジェに宿るもの」をテーマに、マックス・ラムとコラボレーションしたときのことです。

アーティストが望んだのは、解像度の粗いLEDディスプレー。その映像の解像度の粗さと、手仕事の洗練を対比したいと考えたのです。

ただ、古いものは淘汰されるスピードが早く、業界と使用用途が異なるだけで、予算が見合わないものとなり、断念する結果に。アーティスト側はその問題に直面しながらも、条件に合わないことがわかると、素早く別の案に移行。紆余曲折を感じさせない、見事な展示物をつくりだしました。

 

■4:アマチュアの良さを最大限に引き出す【アンバー・ダーウェン氏 作】

2019年1月から展示された、アンバー・ダーウェンの作品
2019年1月から展示された、アンバー・ダーウェンの作品

最後に、2019年1月よりディスプレーされた、アンバー・ダーウェンの作品を紹介しましょう。

実はこのアーティストはプロフェッショナルではなく、子供たちのためにダンボールでハロウィンの衣装を趣味でつくっていた、一般の女性。アマチュアならではの大胆な造作とディテールを捉える視点に、エルメスが注目したのです。大量の制作物を期限内につくるという経験がないため、煮詰まる瞬間もあったとか。

そこでタイムキーピングを仕切り直し、日本の制作会社の補助も得て見事、完成に至りました。最後にアーティストから伝えられたのは、「私のことを、信頼してくれてありがとう」という言葉だったとか。

 


「重要なのは、アーティストのよい面を引き出すこと」「さらに、素晴らしい才能を信じること」。

そうエルメスは語ります。このショーウインドーに込めているものは「その時代を表すクリエイターにエルメスの価値を翻訳してもらうこと」とも。

時代とともに進化を続けるブランドならではの、しなやかな矜持。ショーウインドーに誘われて、ブティックを訪れる、そんなアプローチを楽しんでみませんか?

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PHOTO :
淺川敏 
WRITING :
本庄真穂
EDIT :
石原あや乃