ピアノの本場はヨーロッパ、そんな定説を覆すピアノが日本に存在します。それが1999年に9月に発売された、河合楽器製作所のグランドピアノの最上位シリーズ「Shigeru Kawai(シゲル カワイ)」です。

発売から2019年で20周年。指揮者、そしてピアニストとして、グラミー賞を2度受賞したミハイル・プレトニョフさんが愛用し、浜松国際ピアノコンクールなどで上位入賞者に選ばれるなど、国内外で評価が高まるこちらのシリーズ。

最高の素材、最高の技術、最高のサービスの結晶ともいうべきこちらは、まさに「日本のラグジュアリー」を代表するピアノといえます。

日本を代表するラグジュアリーピアノ「Shigeru Kawai」とは?知っておきたい4つのポイント

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河合楽器製作所 専務取締役 執行役員の日下昌和さん。

発売時のプロジェクトにかかわった日下昌和専務は、このプレスティージモデルを、戦後の復興とともに、日本のピアノ製造を支えた2代目社長である故河合 滋さんの「浪漫(ロマン)」であり、現在も社員を育て、勇気やプライドを与える存在だと語ります。

誕生から20周年を迎え、さらに評価の高まる「Shigeru Kawai」。日下さんに聞いた、音楽ファンなら教養として知っておきたい、4つのポイントをご紹介します。

■1:印象的なシリーズ名の由来は、実はアクシデントだった?!

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流れるような字体が美しい「Shigeru Kawai」のロゴマーク

Precious.jp編集部(以下同)ーー創業者、故河合小市さんの夢の継承者として、50有余年に亘り、ピアノの品質向上に心血を注ぎ続けた2代目社長の河合 滋さん。その名前を冠したこちら、印象的なシリーズ名だけに、その命名の由来が気になってしまいます。

プロジェクトのメンバーみんな、当初は反対だったんですよ。グランドピアノはそれまで、創業者(河合小市さん)のイニシャルをとって「K.Kawai」だったので、今回は「S.Kawai」になると信じていて。しかし、当時のカワイアメリカの社員が「Shigeru Kawai」のロゴマークをアメリカの著名なデザイナーに依頼してしまい。そして、それを会長(河合 滋さん)が気に入ってしまったんです。

最初は驚きましたね。「しげる」という個人の名前を商品につけるとはと。プロジェクトメンバーにとっては、アクシデントでしたが、でも今となっては良かったと思います。「Shigeru Kawai」がなければ今はないですし、周りの人がカワイを認め、コンクールで選んでくれ、世の中が認めてくれた。そういう意味でも会長はすごい人だな、と思います。

■2:値引きはしない。その高級な価格の理由は「時間」

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内側には、静岡県磐田市にある、「Shigeru Kawai」を100%手作業で製造する「竜洋工場」の刻印が。

ーー他の同社製のピアノに比べ、1台¥2,750,000〜¥6,600,000(税抜)と高級な価格帯である「Shigeru Kawai」のピアノ。しかも値引きはしない。ほかのピアノと一線を画す理由はなんなのでしょうか?

「時間」です。例えばピアノの響板は、外国から材料を買ってきて、そのいちばん良いところを何年も天然乾燥させます。普通のピアノは1年くらいの天然乾燥ですが、小さいもので4〜5倍、大きいもので5〜8倍、フルコン(コンサートピアノ)に至っては、10倍程度の時間をかけています。良い響板を作りたいため、良いピアノにしたいため、待つんです。組み立ても手作業なので、時間がかかるんですよね。

また、ホールなどの入札の際も、値引き競争に巻き込まれたくないんです。すべたの方に対して同じ価格です。定価で販売すれば、安心につながります。一線を画し、値引きは一切しない。だからブランドになったのだと思います。「Shigeru Kawai」というものづくり、ブランド、理念、在り方に賛同していただいて、ファンになってもらった方に購入していただければと願っています。

■3:全国でわずか50名ほど。「Shigeru Kawai」の最終音づくりを委ねる「MPA」

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カワイ表参道2階のコンサートホール「パウゼ」でお話をうかがいました。

ーー「Shigeru Kawai」は、アフターサービスにこだわりがあると聞きました。調律師の社内資格「MPA(マスター・ピアノ・アーティザン)」とはどんなものでしょうか。

1989年に海外研修制度を作り、ヨーロッパで1〜2年間、コンクールでの調律などで、その空気感や技術を学びます。社内で2年、さらに勉強してもらい、試験に合格すれば「マスター・ピアノ・アーティザン」になれます。

(音づくりは)誰がやっても良いものではありません。良いピアノも、メンテナンスが悪いと困りますから。「Shigeru Kawai」の高品質をより永く保つために、専任のMPAがメンテナンスを担当するシステムを作りました。(竜洋工場では)MPAが最終的に音をチェックし、出荷します。20名ほどが工場勤務で、調律師としては30名ほどのMPAがいます。人間性も大切な要素のひとつで、技術だけではダメ。より良い音への求道者としての真摯な姿勢と誠実さが求められます。

■4:ピアニスト人生を変えた!「Shigeru Kawai」とミハイル・プレトニョフさんのドラマティックなストーリー

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カワイ表参道の外観。ディスプレイでは、「Shigeru Kawai」を演奏し、2018年浜松国際ピアノコンクールで優勝したジャン・チャクムルさんの天才的な演奏の映像が流れていました。

ーーロシア人のピアニストであり、指揮者のミハイル・プレトニョフさんが、休止していたピアニスト活動を「Shigeru Kawai」との出会いによって2012年に再開した、というドラマティックなストーリーを伺いました。日下さんはこれについて当時、どう思われましたか?

驚愕しましたね。そして、こんなに影響があるとは思わなかったです。 モスクワ音楽院でリサイタルをする際に、使用する予定だったピアノが気にいらず、端に置いてあった「Shigeru Kawai」を試しに弾いたところ、とても気に入ってしまったそうです。

彼が指揮者として来日した際、竜洋工場に見学にいらっしゃいました。その際、彼の言う通りに調律したところ、「すごくいい!」と大満足されて。今では「Shigeru Kawai」しか弾かないそうです。

また、浜松国際ピアノコンクールに出場した、ベラルーシのピアニストが本番で「Shigeru Kawai」を選んでくれたのですが、その理由がプレトニョフさんでした。彼は旧ソ連では英雄ですから、影響力がすごいんですよね。

ピアニストは、コンクールでファイナルに残れば、人生が変わります。その人生の選択として選ばれたピアノが「Shigeru Kawai」だったんです。こんなにうれしいことはないですよね。

以上、河合楽器製作所の日下昌和専務に、カワイが世界に誇るプレスティージモデル「Shigeru Kawai」にまつわるエピソードをお伺いしました。商品の品質はもちろん、演奏者の人生そのものをケアするかのような、上質なアフターサービスを充実させている精神性こそが、真のラグジュアリーに繋がっていると感じられるインタビューでした。

カワイの気質は、浜松市の「やらまいか精神」(とりあえずやってみよう!という気質)だという日下さん。その浪漫の結集である「Shigeru Kawai」には、世界一を目指す躍動感があります。今後も発展を続けていく日本のピアノに、これからも注目していきたいですね。


「カワイ表参道」では「Shigeru Kawai」の試弾をすることができます

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「Shigeru Kawai」が並ぶ、カワイ表参道の3階にあるグランドピアノフロア

ピアノの演奏技術は必要ですが、演奏者のイメージした音が出せるという「Shigeru Kawai」のピアノ。「カワイ表参道」の3階にあるグランドピアノフロアでは、予約不要なウォークインで、試弾することができます。気になる人は、美しくライトアップされた表参道を楽しみがてら、カワイ表参道ショールームを訪れてみてはいかがでしょうか?

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この記事の執筆者
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WRITING :
神田朝子