緊急事態宣言が解除され自粛要請が緩くなってきたとはいえ、まだまだウイルス対策には日々気を張って生活しなければなりません。新型コロナウイルスに万一、感染してしまった場合、どんな体質や疾患のある人が重症化する可能性が高いかなど報告は様々出てきています。

中でも、肥満気味の人も危ないというニュースも飛び交い、実際に肥満率が高いといわれる欧米諸国では感染者が多く見られました。肥満体質の人が危ないとされている理由には、血糖値がポイントになっていて、糖尿病リスクのある人は感染リスクも高いといわれています。

その理由と日常生活でできる血糖コントロール対策について、総合東京病院 糖尿病センター長の柴 輝男先生にお話を伺いました。

柴 輝男 先生
総合東京病院 副院長/糖尿病センター長。糖尿病専門医、医学博士(東京大学)
(しば てるお)東邦大学医療センター大橋病院教授を経て現職。糖尿病と脂質代謝異常について長年研究を続けている。投薬治療に頼らず、運動療法と食事療法に注力して治療にあたる。また、糖尿病発症から間もない方で肥満がある場合、2年間程度のGLPIアナログの注射で治癒を目指す治療にも積極的である。         

「糖尿病=感染症リスクが高い」は誤った認識

元々の体質や、持っている疾患によって感染症リスクが高くなるのはよく聞きます。中でも糖尿病患者はウイルス感染すると重篤になってしまう可能性も高い、という報道も見受けられます。実際、どうなのでしょうか。

「まず、糖尿病だと感染症にかかりやすいという認識を持っている方がいるのですが、そういうことではありません。それぞれ体質や糖尿病の症状なども違います。正しくは、『血糖値をコントロールできていないと感染症のリスクが上がる』ということです。

糖尿病を患っていて血糖コントロールがうまくいっていない人は、糖尿病患者全体の約3割にあたるといわれます。そもそも、血糖コントロールがうまくいっていないと、新型コロナウイルスだけでなく、すべての感染症にかかりやすい状態にあるといえます。

人間の体は体重の約60%が水分とされており、体重が60㎏なら約36リットルの体液があります。そのうち血液の量は4リットル。

糖尿病では血液中のブドウ糖の量、つまり『血糖値』を問題にしますが、血糖値が高いということは、全身の体液中のブドウ糖の量も多いということです。ブドウ糖は細菌の餌になるので、ブドウ糖の量が多いと細菌の増殖の原因となります。

血糖値が高く体液中にブドウ糖の量が多いと、菌の活動が活発となり、感染症にかかりやすく重症化しやすいとされています。

体に細菌やウイルスなど異物が混入すると、免疫機能が働き、白血球が異物を攻撃します。しかし、血糖値が高いと白血球の働きが弱まり、免疫が活発に働かなくなります。

なぜ免疫機能が低下するのかといった詳しいメカニズムはまだわかっていないのですが、血液中にブドウ糖が多いことが原因ではないかと考えられています。

つまり、糖尿病を患っている人でも血糖コントロールを行い、手洗いや消毒など一般的な感染症対策を併せて実施すれば、健常者と同じように免疫機能を維持することができます。過剰に心配して家の中にこもったりする必要はありません。外に出て運動することも大切ですね」(柴先生)

やはり、積極的な「運動」が大事!

人混みを避け、ウォーキングなどを習慣化したい。
人混みを避け、ウォーキングなどを習慣化したい。前後のストレッチも気持ち良い。

血糖コントロールのために、具体的に日常生活では何をしたら良いのでしょうか?

「すでに糖尿病を患っている人は食事に気をつける、などは当たり前に実施していると思います。それと同じくらい、実は血糖コントロールには運動が欠かせません。

長らく外出自粛を強いられましたが、そういった時期こそ、人混みを避けて運動をして欲しいです。先ほどもお伝えしたように、糖尿病を患っているからといって、過剰に心配して家の中にこもりきりになる必要は全くありません。むしろ、現在の時点では人混みを避ければ、運動のための外出を自粛する必要はないので、屋外での運動を心がけていただきたいです。

早朝の公園など、人との接触が少ない場所でウォーキングを行うなど、場所や時間を選んで、積極的に屋外での運動を続けることがおすすめです。

家の中にばかりいて運動不足になり、血糖コントロールがうまくいかないことの方が心配です。

これからまた出社する日が増えていくのであれば、例えば、混雑した通勤電車を避け、一駅歩いてみるといったことを習慣にしてみてはいかがでしょうか。

医師から運動プログラムを指示されていなければ、1週間に5万歩を目標にウォーキングを行うと良いでしょう。スクワットなどの筋力運動もおすすめです」(柴先生)

あなたは糖尿病予備軍? まずはセルフチェックを!

1つでも当てはまったら病院で検査を!
1つでも当てはまったら病院で検査を!

血糖コントロールの前に、そもそも自分の体の中は大丈夫だろうか?と疑問に思いますよね。特に、自粛生活の長かったここ2ヶ月ほどで、体調や体型に変化があった人もいるでしょう。そこで、まずは簡単なチェックを自分で実施しましょう。

\あなたは大丈夫!?/

【糖尿病可能性チェック】
□最近太ってきた
□ダイエットをしていないのに体重が減ってきた
□家族に糖尿病になった人がいる
□BMI*が26以上
□中性脂肪の数値が高い
□健康診断にHbA1cの項目がなかった
□健康診断を受けていない
□喉が乾きやすい
□水分を多量に摂る
□疲れやすい

1個でも当てはまる人は、糖尿病の検査を受けることをおすすめします。

*Body Mass Index:体重(kg)÷身長²(m)

予兆を見逃さないための健康診断受診を

仕事や家事に追われ健康診断をスキップしてしまうことはNG。
仕事や家事に追われ健康診断をスキップしてしまうことはNG。

忙しい日常生活では、よほどの体調の変化がないと体内の変化は自分ではわかりにくいものです。元気であれば尚更です。リスクに早めに気づけるようにするにはどうしたら良いでしょうか?

「血糖コントロールの話をしてきましたが、そもそも自分は糖尿病ではないから関係ないと思っている方もいるのではないでしょうか? 実は糖尿病は、自覚をしていない人もいるため、それが一番心配です。

例えば、太っていないから大丈夫と安心してしまう人もいるようですが、見た目が肥満か痩せ型かということと、血糖の状態がどうかというのは調べないとわからないことです。痩せていても糖尿病になる方もいるのです。きちんと診断された内容と数値で判断しましょう。

そのためにはまず、最低限、健康診断は必ず受けて欲しいですね。

健康診断で空腹時血糖値が正常でも、食後の血糖値が基準を大きく超えてしまう『隠れ糖尿病』もいま、懸念されています。

また、健康診断でHbA1c検査を行うところが増えてきましたが、HbA1c検査がないために異常を見落としている方や、専業主婦・自営業・フリーランスなどで健康診断を定期的に受けていない人は特にリスクが高いといえます。

健康診断で、脂質代謝異常があった人も気をつけましょう。中性脂肪の値が高いと糖尿病にかかりやすいというデータがあります。糖尿病だと判明し血糖コントロールをしている人より、糖尿病と知らずに高血糖のまま日常生活を送っている人は、知らず知らずのうちに感染リスクが高まっているのです。

糖尿病はウイルス感染のリスクだけでなく、動脈硬化、脳血管障害など命にかかわる病気のリスクも高まるので、健康診断や検査は受けるようにしましょう」(柴先生)

疑問や不安はすぐに専門医へ相談、解決を

健康診断の結果を受け、またはセルフチェックにより血糖コントロールを試みたいと思っても、自分ではどうしたら良いかと悩む人も多いでしょう。

「まずは糖尿病の可能性がどれくらいあるかをご自分で把握することが大事ですので、健康診断結果をしっかり確認した上で、結果や日々の状態に不明なことがある際は専門医へ相談することをおすすめします。

血糖コントロールには不安を持つこともあると思いますので、早めに相談しましょう。

例えば、私が現在在籍している総合東京病院糖尿病センターでは、食事療法、運動療法による生活習慣の改善を軸に多職種をメンバーとするチーム医療で血糖コントロールに取り組んでいます。

糖尿病療養指導士の資格を有する看護師や管理栄養士が、生活習慣の改善に向けた指導を行い、日常生活の支援を行います。200人以上のリハビリセラピストが在籍し、理学療法士による運動療法も徹底しています。

また、できるだけ薬に頼らずに、血糖コントロールを行うことを目標としています。初期の場合は、薬を使わなくても血糖コントロールが可能なことがほとんどです。

現在多種の薬を服用している方も、薬の種類を減らしたりすることも可能になります。

投薬治療を行ってもなかなか血糖コントロールがうまくいかないという人は、一度ご相談されることをおすすめします。主治医がついていても、治療と並行して行えるアドバイスを提供しています。

薬の内服や度重なる通院が苦手な方も多いと思いますので、まずはそういったことを排除しながらできることを相談してみると良いでしょう」(柴先生)

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ウイルス感染は怖いですが、万が一かかってしまった時に「頑張って戦える体」でないことは同じくらい怖いですよね。飽食の環境の中で、外出自粛は輪をかけて、私たちの体を不健康にしてしまう恐ろしい面があると思います。

先述の通り、運動はとても大切な項目。食事だけ気をつけていても血糖コントロールにはなりません。これを機に、きちんと健康診断を受診し自分の今の健康状態を把握し、日常生活に三密を避けた屋外での運動を取り入れ、糖尿病リスクが高まらないよう気をつけていきたいですね。

 

この記事の執筆者
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EDIT&WRITING :
Sachi Tamura