悲喜こもごものイタリア・ミシュラン2021

ミシュラン・イタリア史上初めて導入された「緑の星」。環境やサステイナビリティを重視する現代の風潮が反映された結果となった。
ミシュラン・イタリア史上初めて導入された「緑の星」。環境やサステイナビリティを重視する現代の風潮が反映された結果となった。

まず最初に発表されたのは最優秀ソムリエ、最優秀ヤングシェフなどの各部門表彰だが、各賞にはそれぞれにワイナリーやコーヒーメーカーなど食関連のスポンサーが付いていた。これはガンベロ・ロッソやエスプレッソなどのレストラン・ガイドにとってはおなじみのシステムだが、イタリア・ミシュラン史上初の試みだった。

また、2021年版から新たに導入された『緑の星=Stella Verde』。これは10月にリモートで発表されたミシュラン京都・大阪ですでに発表されたので知っている人も多いと思うが、環境や『持続可能性=サステイナビリティ』を重視するレストランに与えられる賞。

初年度は「Osteria Francescana(オステリア・フランチェスカーナ)」「St.Hubertus(サント・ウベルトゥス)」「Don Alfonso1890(ドン・アルフォンソ1890)」「Joia(ジョイア)」「D.O.(ディーオー)」などの有名レストラン合計13件が受賞した。

未曾有の1年が終わろうとしているイタリア料理界を代表する3つ星シェフたちがリモートで登場。その元気そうな様子は人々に勇気を与えたはずだ。
イタリア料理界を代表する3つ星シェフたちがリモートで登場。その元気そうな様子は人々に勇気を与えたはずだ。

次いで、いよいよ星付き店の紹介に移るのだが、ここでまず、2021年は3つ星店の増減はなく全11店が現状維持と発表され、全シェフがリモートで画面に映し出された。これはある意味ミシュランの大英断といえるかもしれない。

2020年3月イタリアはロックダウンに突入すると3つ星店も軒並み休業。特に外国からの旅行者が多く訪れる有名店ほど、その被害は大きかったはずだが、ミシュラン・イタリアは数字、売上、将来の予測などは一切考慮せず、純粋に料理とサービスの評価のみで3つ星を決定した。ミシュラン・イタリア編集長セルジオ・ロヴリノヴィッチはこうコメントしている。

「イタリアのレストラン界が今後どうなるのか、を予測するのは時期尚早だが2021年版の調査に関しても従来通り調査員は匿名を維持し、レストランの数字、売上などは一切評価に影響していない。調査員の長年の経験に基づくレストランの評価が唯一無二、絶対的な基準である」

近年では毎年必ず1件の3つ星昇格が続いていたが2021年度版の昇格はなかったが降格もなし。現状を維持したイタリア最高峰の11件は以下の通りだ。

Da Vittorio(Brusaporto,Bergamo), Piazza Duomo(Alba), Enoteca Pinchiorri(Firenze), Enrico Bartolini al Mudec(Milano), Osteria Francescana(Modena), Reale(Castel di Sangro), La Pergola(Roma), Le Calandre(Rubano,Padpva), Dal Pescatore(Runate,Mantova), St. Hubertus (San Cassiano), Uliassi(Senigallia)

日本人シェフが新たに1つ星獲得

日本人、岩井武士シェフは新店「アアルト Aalto」開店1年目で見事に1つ星を獲得、久しぶりの明るいニュースがイタリアを駆け抜けた。
日本人、岩井武士シェフは新店「Aalto(アアルト)」開店1年目で見事に1つ星を獲得。久しぶりの明るいニュースがイタリアを駆け抜けた。

1つ星店の紹介前には、締め切りまでに再開のめどが立たなかった、あるいは回答が無かった10店に関しては星を保留するということが発表された。これはコロナ禍でいかに多くのレストランが困難な状況にあったか、という現実を表している。そんな困難な状況にありながらも2021年の1つ星レストランは新規昇格26店を含む323店。中でも注目はミラノに今年オープンした「Aalto(アアルト)」岩井武士シェフの1つ星獲得だった。

ミラノ郊外にある農園レストラン「Cascina Guzzafame(カッシーナ・グッツァファーメ)」時代から岩井シェフの存在は知られていたが「アアルト」に活躍の場を移してすぐの1つ星獲得は快挙としかいいようがない。

イタリアにおける日本人シェフとして名高い徳吉洋二シェフだが、今年は星を失うという残念な結果となった。ロックダウンが開けたあとの復活に期待したい。
イタリアにおける日本人シェフとして名高い徳吉洋二シェフだが、今年は星を失うという残念な結果となった。ロックダウンが開けたあとの復活に期待したい。

ちなみに「アアルト」オーナーは、同じ1つ星「IYO(イヨ)」オーナーであるクラウディオ・リウだ。1つ星323店の詳細はミシュラン・イタリア公式サイトをみていただきたいが、他の日本人シェフの店では能田耕太郎シェフのローマ「ビストロ64」は無事1つ星を維持。いっぽうミラノ徳吉洋二シェフの「TOKUYOSHI」はリストから名前が消えた。

今年の4月に電話インタビューした時、おそらく今年一杯はコロナの影響が続くことからファイン・ダイニングである「TOKUYOSHI」の再開は難しいだろう、と話していたのだが、今現在も「TOKUYOSHI」は再開していない。その代わり現在はテイクアウト&デリバリーを中心とした「Bentoteca(ベントーテカ)」にエネルギーを注いでいる。

決してミシュランの星が全てではないが、「Osteria Francescana(オステリア・フランチェスカーナ)」時代を経て独立。以来「TOKUYOSHI」1年目で1つ星、東京に開いた「Alterego(アルテレーゴ)」も同様に即1つ星獲得と、順風満帆に来ていたのは事実だが、イタリアにおいて稀有な才能を持つ日本人シェフだけに「TOKUYOSHI」の復活を強く期待したい。

リモート中継中にも関わらず号泣し始めたシェフもいた。多くのイタリア人がロックダウンの苦しさに共感し、また喜びも分かち合った。
リモート中継中にも関わらず号泣し始めたシェフもいた。多くのイタリア人がロックダウンの苦しさに共感し、また喜びも分かち合った。

さて、2021年は新規3つ星昇格が無かっただけに、代わりに主役となったのが新規2つ星昇格3件を含む37件の2つ星店。2星昇格という吉報にリモート中継中にも関わらず号泣してしまったのはトリエステ「Harry’s Piccolo(ハリーズ・ピッコロ)」シェフ、マッテオ・メトゥッリオだ。

「今年は本当に苦しかった、それでもなんとか頑張って来て家族や仲間がみんなで支えてくれて本当に嬉しい。でも本当に苦しかった」

泣きながらそう話すその姿に胸が熱くなったのはわたしだけではないはずだ。マッテオのコメントはある意味今年のイタリア料理界の現状を象徴している。苦しい、本当に苦しい。ロックダウン、段階的営業再開、希望が見え始めたと持ったら再びロックダウンと全く先が見えない状況が続く中、心底信頼できる仲間と家族ともに希望を捨てずに生きて来た結果、予想外の朗報にこらえきれず人目をはばからず号泣する。

本当は彼のようにありたい、彼のように泣きたいと思っているシェフは何百、何千といるはずだ。それでもマッテオの姿に勇気付けられ、新たに希望を抱き始めたシェフもやはり同じくらいたくさんいるはずだと思いたい。

イタリアを代表するシェフの一人としてバリラの広告はじめTV出演も多いダヴィデ・シェフもようやく2つ星に昇格。これも明るいニュースだ。

ミシュラン2021年発表を締めくくる主役は、スタジオに唯一登場したダヴィデ・オルダーニだ。先ほど既に緑の星を受賞したダヴィデは、マルケージ直弟子でカルロ・クラッコ、エンリコ・クリッパらと並ぶマルケジーニの一人。知名度も高く、メディア露出も多いダヴィデだが評価に関しては彼ら2人に遅れを取っていたことも事実である。

自らのイニシャルを冠した「D.O.」のオープン以来17年。1つ星は瞬く間に獲得したがそれからが長かった。期待の若手料理人はいつの間にかベテラン料理人の領域に足を踏み入れつつあっただけに、喜びもひとしおのはずだ。

高級ではない地元の日常の食材を使い高度なテクニックでいかにハイエンドかつリーズナブルな料理に仕上げるか、という彼のコンセプト=クチーナ・ポップは困難な時代だからこそ多くの人に受け入れられるのではないだろうか。そうした意味では緑の星の受賞は目指す方向こそ違うものの同じく緑の星を受賞した3つ星シェフ、ボットゥーラやニーダーコフラーと肩を並べる当然の結果である。セレモニーの最後にダヴィデはこうコメントした。

「料理人という仕事は本当にきつくて辛い。いろいろなことを犠牲にしないと続けられない、しかしそれでもやりがいがある。料理人を志す若者たちが今後も希望を持ってこの仕事に就き、長く続けられるよう私たちの世代は努力しないといけない。なぜならば料理人という仕事は素晴らしいものだから」

口には出さなかったものの、2020年という1年はダヴィデにとっても相当きつかったはずだ。しかしそれでも「料理人とは犠牲を伴うけれど素晴らしい職業」という彼の姿勢には本当に頭が下がる。

今年新たな3つ星店は誕生しなかったけれど、ダヴィデには近い将来さらに一段階上へと上りつめてほしい。それはイタリアが誇るクチーナ・ポーヴェラがガストロノミーへと昇華できるという事実を改めて広く世界に発信することにもつながるからだ。ダヴィデ・オルダーニの快挙を心から祝福したい。

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この記事の執筆者
1998年よりフィレンツェ在住、イタリア国立ジャーナリスト協会会員。旅、料理、ワインの取材、撮影を多く手がけ「シチリア美食の王国へ」「ローマ美食散歩」「フィレンツェ美食散歩」など著書多数。イタリアで行われた「ジロトンノ」「クスクスフェスタ」などの国際イタリア料理コンテストで日本人として初めて審査員を務める。2017年5月、日本におけるイタリア食文化発展に貢献した「レポーター・デル・グスト賞」受賞。イタリアを味わうWEBマガジン「サポリタ」主宰。2017年11月には「世界一のレストラン、オステリア・フランチェスカーナ」を刊行。