昨春イタリアで新型コロナウイルスが爆発的に感染拡大し始めた際、世界で最も最初にロックダウンに突入したのがミラノだったことはまだ記憶に新しい。ロックダウン期間中、ミラノ市内の病院に無償で料理を提供していた徳吉シェフは、毎日医療従事者用に要していたランチボックス=「BENTO」が持つ可能性について考え始めたという。
イタリアをめぐる徳吉洋二シェフのBENTO TOUR
5月には第一波も一段落してレストラン営業再開が再開したものの、徳吉シェフは従来のファインダイニング「TOKUYOSHI」ではなく、あくまでもデリバリーとテイクアウトに特化した「BENTOTECA」として営業を再開。しかしイタリアでは日本同様、夏頃にはコロナも終息したかに見えたが秋になると第二波が襲い、感染者数が減少したかと思えばまた増加する、という繰り返し。その度にイタリア全土のレストランは営業禁止と再開を繰り返す、という全く先が見えない状況がずっと続いていたのだ。
昨年11月に発表された2021年度版イタリア・ミシュランでは徳吉シェフは、それまで5年間維持していた1つ星を失ったのだが、それは業態変更ということで掲載対象外とされためだ。それでも徳吉シェフは再度立ち上がり、今度はミラノからイタリア全土へと「BENTO」を届ける「BENTOTECA TOUR」を始めた。
いまやイタリアにおいても「UMAMI」「SAKE」「MISO」「KATSUOBUSHI」など和食にまつわる料理用語もごく日常的に使われるようになったが「BENTO」という言葉はまだまだ一般には知られていなかった。このプロジェクトを発展させ、いまやイタリア人にも「BENTO」という言葉を定着させた徳吉シェフの功績は非常に大きい。
昨秋始めたツアーでは、これまでにトリノ 、ベルガモ、ボローニャ、ブレーシア、モデナ、ジェノヴァ、コモ&ヴァレーゼ、パルマ&レッジョ・エミリアなど北イタリアの10都市を回り、日本初の「BENTO」を待つイタリア人たちの元へと届けた。第1回目はトリノ市内限定で事前に注文を受け、ミラノからそれぞれの自宅まで届けたがこれはさすがに超ハード。
セコンドシェフのアンドレアとともに1日10時間車を運転することになったという。そこで現在は方向転換し、各都市にある食のセレクトショップEATALYと提携してPOP-UP BENTOTECAとも呼べる引き取り専用カウンターを1日限定で設置。予約した人はEATALYまで受け取りに行くというスタイルが定着してからというもの、各都市でBENTO TOURは大いにウケているのだ。
イタリア国内で「BENTO」という言葉を定着させた徳吉シェフ
2021年1月30日(日)16:00には、初めてアペニン山脈を越えてフィレンツェのEATALYに登場。これまで毎回200食を販売しているという好調さはフィレンツェでも顕著で、わずか2時間の受け取り時間の間に、次から次へとイタリア人が現れた。
今回注文してみたのは「SUZUKI ABURI BENTO(スズキ炙り弁当)」と「TEMAKI TARTARE(手巻きタルタル)」前者は軽く火を入れたスズキの切り身、ズッキーニ、錦糸卵など見た目も綺麗な弁当のスタイル。下にはご飯が敷き詰められており、酢やほのかなごま油の香りなど、生に近い魚が苦手なイタリア人でも受け入れられやすい味付けになっていた。
後者はファッソーネ牛を細かく刻み、見た目はマグロのようなタルタルでトッピングはボッタルガ。下に敷き詰められたご飯を海苔で巻いて食べるのは日本の手巻きすしのスタイルで、卵黄とポン酢で作った専用ソースもセットに含まれている。とろみがあるソースは醤油よりも牛肉やご飯によく絡み、しかも風味や食感はマグロを思わせる。いずれも徳吉シェフがつねに標榜する日本とイタリアの融合、というコンセプトをハイレベルで表現したものだ。その背後にはイタリアの食材、料理に対する深い知識とフレキシブルな発想力が伺える。
2月以降もBENTO TOURは2021年2月3日ピアツェンツァ、トリノ、ノヴァラ&マジェンタ、ヴェネツィア、フィレンツェとイタリア各地を巡るツアーは冬の間もまだまだ続く。また、東京にあるAlterego(アルテレーゴ)は徳吉シェフがオーナーを務める「TOKUYOSHI」2号店だが、こちらも現在は業態を変更してよりカジュアルなポップアップ「BENTO」メニューを展開。
自然派ワインとともにイタリアで人気のBENTOメニューを楽しめるスタイルとなっており、今はまだミラノに行けないが、徳吉料理を試してみたいという人にはまたとないチャンスとなるはずだ。
問い合わせ先
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Alterego(アルテレーゴ) TEL:03-6380-9390
Alterego(アルテレーゴ)Facebook - 住所/東京都千代田区神田神保町2丁目2−32
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- TEXT :
- 池田匡克 フォトジャーナリスト