ようこそ、縄文の森へ~縄文を愛してやまない、美術史家・山下裕二さんと俳優・井浦新さんが語りつくすその魅力~

縄文土器を前に語り合う美術史家・山下裕二さん(左)と俳優・井浦新さん(右)。
縄文土器を前に語り合う美術史家・山下裕二さん(左)と俳優・井浦新さん(右)。

2021年7月、「北海道・北東北の縄文遺跡群」がユネスコ世界遺産(文化遺産)に登録されて大きな話題となりました。北海道、青森県、岩手県、秋田県に所在する17の遺跡がまとめて「遺跡群」として世界遺産になったのです。

山があり、丘があり、平野がある、変化に富んだ地形。海があり、湾があり、川があり、湖がある豊かな漁場。そして、ブナやクリ、クルミの木などが生い繁る、恵み多き深い森に抱かれて、縄文人たちはゆっくりと、暮らしを営んでいきました。その始まりは、今から約1万5000年も前のこと。「縄文時代」はその後なんと、稲作が始まったとされる約3000年前までの、1万数千年間の長きにわたって続き、北海道・北東北のほか、日本各地で、多様な文化を育みます。

1万5000年〜3000年以上も前に、人が、その手を使って、これほどまでに個性的な造形物をせっせとつくり出していた…改めて考えると、それは驚くべきこと! 好奇心を刺激してやみません。今回は、そんな縄文をこよなく愛する美術史家・山下裕二さんと、俳優・井浦新さんが登場。

博物館や資料館でガラス越しに見る「縄文」ではなく、実際に各地の遺跡を訪れ、かつて縄文人たちが生きた土地の空気を吸って体感した「縄文」の、生き生きとした魅力をご紹介します。それは、まるで神秘の森の中を探索するような、知的な旅案内。さあ、一緒に縄文の森へ!

山下裕二さん
美術史家
(やました ゆうじ)日本美術応援団団長。岡本太郎に導かれて縄文の虜に。著書『未来の国宝・MY国宝』(小学館)、『日本美術の底力「縄文×弥生」で解き明かす』(NHK出版新書)などでも縄文の魅力を熱く伝える。これまでも「これは国宝に!」と推した絵画作品がその後国宝指定されるということが数回あり、今回の土器も実現が期待される。
井浦 新さん
俳優
(いうら あらた)日本美術応援団団員3号。現在放送中のドラマ『最愛』(TBS系)の告知インタビューでも「最愛のものは?」と尋ねられて「縄文です」と答えていたほどの、芸能界きっての縄文好き。フィールドワークを信条とし、全国各地の縄文スポットを巡る。縄文時代をテーマにしたフリーペーパー『縄文ZINE』にもたびたび登場している。

\山下さん&井浦さんがおすすめする 全国・縄文遺跡&スポット/
「縄文パワー」をチャージ!さあ、太古の美を実感する旅へ

趣味_1,和文化_1
美術史家・山下裕二さん(左)と俳優・井浦新さん(右)。

世界遺産に認定された「北海道・北東北の縄文遺跡群」17遺跡のうち特におすすめの遺跡と、対談でも話題にのぼったユニークな土器や土偶を見ることのできる、新潟県、山梨県、長野県の縄文スポットを厳選ピックアップ。

大きな遺跡の近隣には、たいてい博物館や考古館があり、出土品が展示されているので、縄文文化への理解もますます深まります。スマホひとつでいつでもどこでもヴァーチャルな旅ができる今だからこそ、場所だけでなく、1万年という時間も軽々と超えてしまう“縄文への旅”は、私たちにきっと大切な何かを思い出させてくれるはず。

■1:北東北を代表する大規模遺跡|三内丸山遺跡〈青森〉

三内丸山遺跡〈青森〉
三内丸山遺跡〈青森〉

発掘調査を基に復元された大型掘立柱建物と、長さ約32mの大型竪穴建物は圧巻! 出土品が段ボール箱4万箱分もあり、全国一を誇るという大規模な遺跡で、三内丸山遺跡センター内の「縄文時遊館」も展示が充実している。現代美術家・奈良美智(よしとも)による「あおもり犬」が展示されている青森県立美術館も徒歩10分圏内。

所在地:青森県青森市三内丸山305
TEL:017-766-8282(三内丸山遺跡センター)

重要文化財「縄文ポシェット」三内丸山遺跡出土(青森県青森市)
針葉樹の樹皮を縦横に編み上げたポシェットは、約5500年前のもの。中にはクルミの欠片も入っていた(三内丸山遺跡センター所蔵)。

■2:「未来の国宝」土器はココに!山梨県立考古博物館〈山梨〉

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山梨県曽根丘陵公園、銚子塚古墳と丸山塚古墳(写真提供/山梨県立考古博物館)

美術史家・山下裕二さんが「国宝に!」と推す殿林遺跡出土の「深鉢形土器」はここで見られる。博物館は縄文時代の遺跡のほか、古墳や、弥生時代の方形周溝墓群がある甲斐風土記の丘・曽根丘陵公園にあり、縄文土器も常設展示。自然あふれる環境のなかで、古代日本に思いを馳せてみて。

所在地:山梨県甲府市下曽根町923
TEL:055-266-3881

 

「水煙文土器」安道寺遺跡出土(山梨県甲州市)
こちらも山下さんが「ネクスト国宝に」と推す縄文土器。緻密でエレガントな4つの水煙把手が特徴的(山梨県立考古博物館所蔵)。

 

重要文化財「深鉢形土器」…殿林遺跡出土(山梨県甲州市)高さ72cmの大型土器「火焔型」に代表される縄文の激情ほとばしるタイプとは真逆の、エレガントで洗練された造形が美しい。縄文土器2番目の国宝にぜひ!(山梨県立考古博物館所蔵)

■3:心地いい高原の縄文ムラ|井戸尻考古館〈長野〉

趣味_3,和文化_3
井戸尻遺跡〈長野〉

井戸尻遺跡は、南アルプスを望む高原にある開放感のある遺跡。当時の人々も見ていたであろう景色を眺めることができる。考古館では近隣の遺跡から出土した多様な表現の土器を展示。縄文時代唯一とされる女性の出産を描いた土器もあり、豊かな文化があったことを今に伝えている。

所在地:長野県諏訪郡富士見町境7053
TEL:0266-64-2044

 

「水煙渦巻文深鉢」曽利遺跡出土(長野県諏訪郡)
八ヶ岳山麓の曽利遺跡から出土した縄文土器のなかでも、ひと際ドラマチックな造形が印象的(井戸尻考古館所蔵)。

■4:国宝「火焔型土器」が見られる!十日町市博物館〈新潟〉

笹山遺跡〈新潟〉
笹山遺跡〈新潟〉

十日町市にある笹山遺跡は縄文時代中〜後期(約5500〜4500年前)の住居跡。そこから出土した土器や石器のうち57点(附871点)が「新潟県笹山遺跡出土深鉢形土器」として国宝に指定されている。縄文土器としては初の国宝。近隣の十日町市博物館では、国宝土器の常設展示のほか、縄文関連の企画展を開催している。

所在地:新潟県十日町市西本町1-448-9
TEL:025-757-5531

 

国宝「火焔型土器」笹山遺跡出土(新潟県十日町市)
国宝指定品のうち火焔型土器は14点。上の「No.1」は「縄文土器の白眉」とされ世界的に有名(十日町市博物館所蔵)。

■5:是川石器時代遺跡〈青森〉

是川石器時代遺跡〈青森〉
是川石器時代遺跡〈青森〉

3遺跡からなる縄文前期から弥生前期までの集落跡。大正末期の中居遺跡の発掘調査では、縄文のイメージを変える、精巧な漆・木製品などが多数発見。「合掌土偶」はこの対岸で出土。「是川縄文館」で見ることができる。

所在地:青森県八戸市是川横山1
TEL:0178-38-9511(八戸市埋蔵文化財センター 是川縄文館)

 

国宝「合掌土偶」…風張1遺跡出土(青森県八戸市)体育座りのような姿勢で、祈るように胸の前で手を合わせた、珍しい姿の土偶。竪穴建物跡から発掘されたことでも貴重。(八戸市埋蔵文化財センター 是川縄文館)

■6:大湯環状列石〈秋田〉

大湯環状列石〈秋田〉
大湯環状列石〈秋田〉

いわゆるストーンサークルが2つ並んでいる珍しい遺跡。約8500個の川原石を運んできてつくり上げた、縄文時代後期のもの。あえて案内板などを設けていないので、縄文時代の空気感をそのままに感じることができる。

所在地:秋田県鹿角市十和田大湯字万座45
TEL:0186-37-3822(大湯ストーンサークル館)

■7:釈迦堂遺跡博物館〈山梨〉

釈迦堂遺跡〈山梨〉
釈迦堂遺跡〈山梨〉

釈迦堂遺跡は、井浦新さんイチオシの「水煙文土器」に代表される縄文土器の優品のほか、土偶が1116個体も出土していることでも知られる。一つひとつ表情の違う小さな土偶たちが、博物館で一堂に展示されている様は感動的。

所在地:山梨県笛吹市一宮町千米寺764
TEL:0553-47-3333

 

重要文化財「水煙文土器」…釈迦堂遺跡出土(山梨県笛吹市)水煙を連想させる把手のデザインから「水煙文」と呼ばれるタイプの土器。2対になった4つの水煙が渦のように回りながら変化する、計算された優美さが魅力。(釈迦堂遺跡博物館所蔵)

■8:茅野市尖石縄文考古館〈長野〉

尖石石器時代遺跡〈長野〉
尖石石器時代遺跡〈長野〉

「仮面の女神」と、土偶の国宝指定の皮切りとなった「縄文のビーナス」の、2体の国宝土偶が、館外貸し出し中を除けば常時展示されている贅沢な場所。隣接する尖石石器時代遺跡は史跡公園となっている。

所在地:長野県茅野市豊平4734-132
TEL:0266-76-2270

 

 国宝「土偶(仮面の女神)」…中ッ原遺跡出土(長野県茅野市)逆三角形の仮面を付けたような、特異な造形の土偶。高さ34cm、重さ2.7kgと大型。両手を広げ胸を反らせた姿勢とどっしりした足が、頼もしい女性を思わせる。(茅野市尖石縄文考古館所蔵)

※【前回】俳優・井浦新さんが語りつくす“縄文”の魅力!|美術史家・山下裕二さんとのスペシャル対談はこちらから!

PHOTO :
篠原宏明(人物)
HAIR MAKE :
NEMOTO
EDIT&WRITING :
剣持亜弥(HATSU)、喜多容子(Precious)
写真協力 :
JOMON ARCHIVES(三内丸山遺跡・是川石器時代遺跡・大湯環状列石=縄文遺跡群世界遺産保存活用協議会撮影、縄文ポシェット=青森県教育委員会撮影)
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