〈識者インタビュー〉「ひとり」と向き合う女性たちの生き方研究

一個人としてどう生きるのか。そのことを考え抜いた女性はしなやかな強さ、そして優しさの両方をもち合わせているもの。「ひとり」の贅沢について、その真髄を知るふたりが、語り下ろします。

今回は、作家・エッセイストの下重暁子さんにお話しをうかがいました。

作家・エッセイストの下重暁子さん
撮影/中西裕人
下重暁子さん
作家・エッセイスト
(しもじゅう・あきこ)●1936年生まれ、栃木県出身。1959年、早稲田大学教育学部国語国文学科を卒業し、NHKに入局。アナウンサーとして活躍後、フリーとなり民放キャスターを経て、文筆活動に入る。ジャンルはエッセイ、評論、ノンフィクション、小説と多岐にわたる。公益財団法人JKA(旧:日本自転車振興会)会長、日本ペンクラブ副会長などを歴任。現在、日本旅行作家協会会長。『家族という病』(幻冬舎新書)はベストセラーに。『孤独を抱きしめて 下重暁子の言葉』(宝島社)が好評発売中。最新刊は『老人をなめるな』(幻冬舎新書)。

「孤独の “孤” は個性の “個”。“ひとり”を慈しんでこそ自分らしい人生を歩めるのです」下重暁子さん

朝日 女性 後ろ姿 窓辺
 

「自分のことは自分で養って生きていく」。そう心に決めたのは、9歳の頃でした。8歳で結核に罹かかり、奈良の信貴山に疎開。山頂にある旅館の離れで、結核のため一部屋に隔離されていました。さらにそこに届いたのが、敗戦の知らせ。大人たちの態度は豹変し、エリート軍人だった父親は公職追放に。時代の犠牲になった末、画家になる夢すら諦めてしまった父の背中を見て、「こうはなるまい」と、幼心に誓ったのです。

大学卒業後、NHK、民放のキャスターを経て、熱望していた物書きの道へ。86歳になる今までずっと、自分は自分で食べさせてきました。つれあいはいますが、独立採算制。「できれば他人のまま、水臭い夫婦でいよう」と思っています。

自分以外の個に期待するのは、相手を縛ることにほかなりません。期待どおりにならないと落胆し、愚痴や不満だらけになるなんて私は嫌。ましてや誰かを頼り、養ってもらうことで、人に従う人生を送るなどまっぴらごめんです。私は、やりたいことは必ずやり通す「自分にわがまま」な人間。人と自分は別の人間だから、違うのはあたり前。違うことは個性です。ならば違いを大切にしないと、個性を失ってしまうでしょう? 孤独の “孤” は、個性の “個”。私はその “個” を伸ばすべく、「ひとり」を大切にしてきたのです。

それを守り続けてもたらされたもの。それは大きな自由です。そこにはもちろんしんどさが伴います。でもラクして手に入れた小さな自由など、なんとつまらないことか。私は力士が語る「一日一番」という言葉が大好き。毎日毎日、しんどくても目の前の仕事に孤高に取り組む。そのことでしか、自由の楽しさは得られないのですから。

私ね、すごくナルシストなんです。この年齢になっても、今後自分が何を成し遂げるのか、すごく楽しみ。人より少しおめでたいのかもしれません(笑)。自分を見失いそうになったら、「ひとり」を慈しんでみて。なぜならこの世にあなたは、たった「ひとり」しか存在しないのですから。

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PHOTO :
Getty Images
EDIT :
兼信実加子、喜多容子(Precious)
取材・文 :
本庄真穂