〈識者インタビュー〉「ひとり」と向き合う女性たちの生き方研究

一個人としてどう生きるのか。そのことを考え抜いた女性はしなやかな強さ、そして優しさの両方をもち合わせているもの。「ひとり」の贅沢について、その真髄を知るふたりが、語り下ろします。

今回は、ファッションエディター・スタイリストの大草直子さんにお話しをうかがいました。

ファッションエディター・スタイリストの大草直子さん
 
大草直子さん
ファッションエディター、スタイリスト
おおくさ・なおこ●1972年生まれ、東京都出身。大学卒業後、現・ハースト婦人画報社へ入社。雑誌『ヴァンテーヌ』の編集に携わった後、独立。現在はファッション誌、新聞、カタログを中心にエディトリアルやスタイリングをこなすかたわら、トークイベントへの出演、執筆業にも精力的に取り組む。『飽きる勇気』(講談社)ほか著書多数。2019年にはメディア『AMARC(アマーク)』を立ち上げ、ファッション、ビューティ、生き方のレシピを届ける。2021、ʼ22年に『AMARC magazine』を発刊。

「家族と離れて“ひとり”暮らしをスタート。次のライフステージを見据えるために…」大草直子さん

海 女性 後ろ姿 
 

夫、長女、長男、次女、そして私。個性溢れるメンバー5人での暮らしにピリオドを打ち、この秋から新たにひとり暮らしを始めました。きっかけは長女と長男の留学。長男に同行する形で、夫と次女も日本を離れました。ではなぜ、私は「ひとり」東京に残ったのか。さまざまな事情が絡み合っているとはいえ、その理由をひと言でいうならば、“焦燥感”でした。

子供たちはまぶしいほどの成長を遂げる一方、「では、私は?」。そう問いかけたとき「このままでは枯渇する。さらなるインプットがないと私のキャリアは終わる」。そう思ったのです。私の使命は「伝えること」。ファッションプロとして、情感に訴えかけ、心情を掬すくい取ることはできても、そこにエビデンスが足りない…。そう感じ始めていました。もっと人と会い、学びを深めなければと考えるようになったのです。

そうしてひとり暮らしになった今、取材したかった人々に会いに行くことを始めています。新人編集者時代に戻ったようで、ちょっとドキドキ。でもあの頃と違うのは、伝えるスキルとノウハウ、そして自分のメディアをもっていること。“目からウロコ”の貴重な話をどう伝えていくのか。誰にも替えのきかない、唯一無二の仕事にするべく、心からワクワクしているところです。

家庭をもったことで諦めたこともあったし、正直にいえば、母親業に向いてないと荒れたことだってありました。それでも今、寂しさがワーッと押し寄せる時間があることも否定はしません。でもすべては、自分の意志で選んだこと。今は「ひとり」の贅沢を味わう蜜のような時間なのです。

ひとりでいると、子供の頃の「静かな私」が顔を出します。インドア派でひとりが好きで…。そこにひたるのは、まるで繭の中に閉じこもるような、そんな悦楽。オフィシャルでもなく、プライベートでもない、ただのピュアな私。年齢を重ねればこそ、その3つ目の私に光を当てることが大切ではないでしょうか。それこそが「ひとり」の贅沢。そんなふうに感じる今日この頃です。

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PHOTO :
Getty Images
EDIT :
兼信実加子、喜多容子(Precious)
取材・文 :
本庄真穂