【Special Interview】その文章力はひとつの「才能」|女優、ときどき“ものかき”の感性
俳優という仕事のほかに、最近の保奈美さんの活躍には“ときどき、ものかき”というジャンルが加わっています。なぜ、ものを書き続けてきたのか。それによって得られたものとは? 少しゆっくりとお話をうかがいます。
保奈美さんの “ものかき” の最初の記憶は、小学校1年生の頃。毎週月曜日に作文の授業があり、気乗りのしない周囲を尻目に、意欲的に原稿用紙へと向かった。書きたいことが次々と頭に浮かんで、とにかく筆が乗ったのだそう。
「週末、誰とどこに行って何をしたか。そして夕ご飯に何を食べたか(笑)。そのディテールを書き起こしていただけですけどね。誰かに何かを吐露したいなんて気持ちはまだ芽生えていないから、備忘録のようなものだったと思います」
振り返れば、仕事への復帰は月刊誌でのエッセイ執筆だった。以降、さまざまな場で “ときどき、ものかき” として活躍。本誌でもファッションから旅まで、幅広いテーマでその才能を披露している。
「原稿に取りかかるのは締め切り1週間ほど前でしょうか。そろそろだなと思っていると、ふと『あ、書けそう』と感じる日があるので、それが手をつけるタイミング。やるべきことを片付けたのちにダイニングテーブルでパソコンを開く…そんな感じです。ネタをためておくこともあったけど、寝かせるうちに鮮度が薄れるように感じ、今はしていないですね」
保奈美さんの文章を読んでいると、俳優としてはもちろん、ひとりの人間として、地に足の着いた“生活者”の視点をしっかりもっている人だと感じる。
「小さな頃、母と妹とテレビを観ながらたわいもないことを話したりしたけれど、私の書くことはその延長線のようなもの。暮らしのつぶやきもあれば、ファッションへの渇望だったり、社会への問いかけだったりもする。世の中を見渡していると『ん? それってどうなの?』と、やや前のめりになってしまうこと(笑)、ありませんか。そういう感度のようなものは大切にしています」
加えて “ものかき” として大事にしているのは、文章のリズム。また同じ言葉を繰り返し使うことがないよう、いつも類語辞典をそばに置いているのだそう。
「何年か書き続けていると“言語化”することが重要だと感じるようになりました。自分の考えを見直すうちに渦巻く感情が整理されるんです」(保奈美さん)
「こうやって何年か書くことを続けるうちに “言語化” することがすごく重要なんだと感じるようになりました。人に言葉で伝えるためには、自分の考えを見直してまとめる必要がありますよね。すると頭の中でいろんなトライ&エラーが起こるのですが、その過程こそが真骨頂。これは伝えずにしまっておこうとか、ここはもっと噛み砕いたほうがいいとか…渦巻く感情が整理されるんです」
さらに、ものかき特有と思しきこの言語化という作業は、本業である俳優業にも大きな影響を及ぼしているとか。
「例えば台本を読んで、何か違和感を抱いたとき。自分はどこに何を感じたのか。そしてやりたい方向性は見えているのか、探っているけど見つからないのか、まったく道が見えないのか。そのグラデーションのどこに自分がいるのかを伝えれば、相手も返しやすい。これは文章を書き始めて、気が付いたことでした」
また、今この芝居で何を表現したいのかを言葉で自覚することで、演技の軸が固まり、再現性も高まるのだそう。
「演技へのいろんなアプローチがあるのは醍醐味でもあるけど、伝えたい軸がぶれてしまっては意味がない。言葉はお芝居の“道標”にもなってくれるのです」
だからといって、ものを書くことに対する執着のようなものは、ない。
「もちろん生きていくうえですごく役に立つし、楽しんで使えるツールだと思っています。でもそれがなければ、ピアノを弾くとか、絵を描くとか、ろくろを回すとか…何かほかのことを取り入れるのだと思う。人間にはそれぐらいのしなやかさは備わっている。そう思うのですよね」
そして軽やかな笑顔で、こう語った。
「ただせっかく “ものかき” の場をいただいているのだから、素敵な人や物から発せられるキラキラしたものはキャッチできる自分でいたい。その感性を健やかに育てていきたいと思っているんです」
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- PHOTO :
- 浅井佳代子、長山一樹(S-14)
- STYLIST :
- 犬走比佐乃
- HAIR MAKE :
- 福沢京子
- MODEL :
- 鈴木保奈美
- EDIT&WRITING :
- 兼信実加子、喜多容子(Precious)
- 取材・文 :
- 本庄真穂