身長156cmのインテリアエディターDが、おすすめのアイテムを実際に体験しながらレポートする本連載。今回は、前回に続きイタリアからの最新情報をお届けします。

みなさんは「ミラノサローネ」って聞いたことがありますか?ミラノサローネの正式名は、「サローネ・デル・モービレ・ミラノ」。世界最大規模の国際家具見本市で、ミラノ郊外にある東京ドーム11個分の広大な見本市会場「フィエラ・ミラノ」にて約1週間行われます。本連載でご紹介してきた多数のブランドの新作発表の場でもあり、週末には一般の方も入場可能です。

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2023年の「ミラノサローネ」ポスター。
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「ミラノサローネ」開催中に公的交通機関の使用を促すSDGsの取り組みも。街中を走るラッピングトラム。

また同時期に「フォーリサローネ」(=サローネの外)と総称される多数の展示が、ミラノ市内の各所で行われます。それらが開催される1週間は、「ミラノデザインウィーク」と呼ばれ、デザインやインテリア・家具などの分野で活躍する企業やデザイナーが世界中から集まります。 

コロナ禍による大きな暮らしの変化を経て、アフターコロナの今後どのようなライフスタイルやインテリアが時代の潮流になっていくのか、ブランドの垣根を越え見えてきた共通の提案と気になったアイテムを独自の視点でレポートします。

4年ぶりの「ミラノサローネ」も大盛況!現場で実感した時代のニーズや新たなライフスタイル

「ミラノサローネ」は毎年4月に行われていましたが、コロナの影響で通常開催は4年ぶりとなった今年。長引くウクライナ戦争の影響で高騰した航空運賃や航路の変更による長時間のフライトにもかかわらず、来場者数は、6日間で181か国から307,418人(前年比15%増)を記録。

バイヤーや業界関係者のうち国外からは65%、中国、ドイツ、フランス、米国、スペインと続き、ブラジルとインドが同数を記録しました。「ミラノサローネ」の最大の魅力は、圧倒的な量の質の高い情報が得られること。ブランドの垣根を跨いで、今後の暮らしの潮流を五感で感じとることができます。

「ミラノサローネ」の本会場「フィエラ・ミラノ」入口。
「ミラノサローネ」の本会場「フィエラ・ミラノ」入口にて。この日はルフトハンザや市中のバスのストで来場者は少なめでしたが、それでもたくさんの人が会場を訪れていました。

外出自粛を強いられた世界的なパンデミックをきっかけに、ここ2年間ほどインテリア業界はちょっとしたバブルのようになっていました。働き方の変化によるワークスペースアイテムの充実、気分転換を促すアウトドアファニチャーやグリーン、インテリアフレグランスの市場拡大、根本的な心地よさの見直しも進みソファやダイニングセットの買い替え需要増大…。

旅行がしやすくなって少しおさまってきたとはいえ、睡眠についての関心度も高まっておりAIを取り入れた異業種参入も活発に。デジタルアートを含めた現代アートの市場も拡大し、私たちの日常の風景は大きく変わりつつあります。そんななか、今回のミラノデザインウィークで印象に残った4つのトピックスをご紹介します。

■1:安心して集える空間を多彩に提案!史上最大の床面積で魅せた「ミノッティ」

世界中の人々が、出かけられない閉塞感や仲間と集まれない寂しさを経験しました。各国の規制が緩まる今、気の置けない友人と集まったり仕事仲間と顔を合わせて話し合ったりする喜びを再び取り戻したいという気運が高まっています。とはいえ、マスクを取る取らない問題のように、安心して集えるパーソナルスペースは人それぞれ。 

こういった背景も踏まえて、「ミラノサローネ」でも最大規模の床面積5000㎡の2階建てパビリオンを展開した創立75周年を迎えるイタリアのファミリーカンパニー「ミノッティ」の展示は、非常に機知に富んだものでした。 

多様なデザイナーを起用した新旧作をミックスして圧巻の量でコーディネート。人との距離や過ごし方を選択できるため、誰もが安心して集まれるコーナーづくりを、具体的な形で見せてくれました。 

自由に集える空間を演出!さまざまな方向から座れる、広めで低めのソファ『ディラン』 

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新作の『ディラン』(奥の白いソファと、右の茶色のソファ※日本での展示時期未定)と360度回転するラウンジチェア『センダイ』を合わせ、異なる高さの複数のテーブルをみんなで囲めるスタイル提案。

重鎮デザイナー、ロドルフォ・ドルドーニがデザインした新作『ディラン』は、奥行きやベースのデザインが異なる3タイプが存在する完成度の高いシーティングシステム。座面は低めで広め。あぐらをかけるような親しみやすい雰囲気を醸し出していました。

低めで幅広の背面クッションは、室内の視線を遮ることなく背面からもちょっと腰掛けることが可能。さまざまな過ごし方のできる優れたデザインで、日本での展示が待ち遠しいソファです。

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囲まれ感のある鋭角的な多角形をした『ディラン』では女子会が。低い背もたれに腰掛けているのが新鮮です。

どこに置いてもいいクッションで距離感を自由に調節できるソファ『ラファエル』

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緩やかなカーブでお互いの視線が合う新作ソファ『ラファエル』。※発売日未定

人気デザイナー、ガムフラテーシがデザインした『ラファエル』は、有機的なフォルムの一枚シートと、置く位置を自由に動かせるクッタリとした質感のクッションでリラックス感溢れるソファ。きりりと踏ん張るような形状のスチールの脚が空間の印象を引き締めていました。 

一人でソファの真ん中に座る女性と、寄り添うようにキュッと詰めて座る二人の女性。それぞれの距離感で、同じテーブルを囲む風景が新鮮です。クッションの置き方次第で距離を調整できるのがいいですよね!

■2:寛げるのは当たり前。緊張感のある構造美で存在感を放つアームチェア 

家の中で過ごす時間が増え、ダイニングコーナーは食事をするだけの場所ではなくなりました。それ伴い、これまで以上に多様なアイテムが提案されるように。同じ空間のソファに座る人と目線の高さが合うような低めの座面のアームチェアやエレガントなベンチ、360度回転するなど新しい機構を備えたダイニングチェアなど、こちらの連載でも数多くご紹介してきました。 

今回の「ミラノサローネ」で印象的だったのは、構造美と素材の使い方で空間に“映える”アイテム。人気ブランドの「モルテーニ」と「バクスター」から2点ご紹介します。 

無垢材とクッションの組み合わせでここまで斬新!「モルテーニ」の新作『ポルタ ヴォルタ』

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静謐な「モルテーニ」の空間でフォルムの存在感が際立つ『ポルタ ヴォルタ』。※発売日未定

「モルテーニ」の新作『ポルタ ヴォルタ』は、布張りの背面クッションがムニュッと無垢材を挟み込むように浮いている斬新なデザインのアーム付きダイニングチェア。静謐な「モルテーニ」の空間で素材としてはなじみながらも、フォルムが際立ち存在感がありました。 

デザインを手掛けたのは、表参道の「プラダ」や「ミュウミュウ」、銀座の「ユニクロ」などを設計したスイスの人気設計事務所、ヘルツォーク&ド・ムーロン。彼らの建築の特徴は、一般的な材料を用いながらも見たことない使い方や異質感を与えてくれる視覚的な要素と機能的で使いやすい内部空間という、驚きと心地よさを両立させる巧みさにあります。 

実際に座ってみると、平面的に見えていたアームの内側は、握り心地のよいふっくらとした断面をしてることに気付きました。そして囲まれ感のあるU字状のアームが片持ち梁のように浮いているため、腰部分に空間ができます。その形状と座クッションの膨らみ加減の効果で骨盤を立てて座るよう促され、ちょうどいい位置で背クッションが支えてくれるのです。 

リラックスしようと背もたれにもたれる際に後傾しがちな骨盤が正しいポジションにサポートされるので、長時間座っていても疲れない、真の意味で寛げるダイニングチェアに仕上がっていました。

空間に浮くボリューミーなクッションが極上のかけ心地!「バクスター」の『ソー ファー』

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『ソー ファー』とムラーノガラスの照明『ハイク』のスチールが空間を引き締めシックな印象に。※発売日未定

ラグジュアリーでヌケ感のあるデザインが魅力の「バクスター」からは、人気デザインデュオのスタジオ・ぺぺが手がけた新作『ソー ファー(so far)』をピックアップ。 

片持ち梁構造のクロム仕上げのスチールパイプにボリューム感のある革のクッションという取り合わせは、一見アンバランスで驚きがあり、空間に新鮮な印象を与えていました。鮮やかなターコイスブルーが、スタイリングテーマでもある70年代を彷彿とさせるハッピーな雰囲気を盛り上げます。 

座るとハンモック構造の特徴でもある浮遊感があり、上半身全体をしっとりとした皮のクッションで抱きしめられるような安心感が湧き上がってきました。

■3:テクノロジーとサイエンスとアートで日常をドラマティックに“誂える”「モーイ」の提案 

「フォーリサローネ」のなかでも毎年話題を呼ぶオランダのブランド「モーイ」。今回の大きなテーマは、“インテリアと香り”。過ごしたいインテリアシーンごとに香りを誂える提案が目を引きました。 

ロビーのような広い空間の真ん中には9つの質問に答えると49種類の香りからAIがその場で自分だけのルームフレグランスを調合してくれる美しい機械が置かれ、アーチで区切られたシーン別の小部屋にはそれそれに異なるインテリアフレグランスが家具と一緒に配置されていました。

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過ごしたいシーンごとに分かれた小部屋に、インテリアと香りをセットで提案。

参加型で情報をスピーディーに拡散!新作家具は撮影しやすく複数並べる展示に

夢のような世界観をそのまま実現したような「モーイ」のインテリアは、とにかく映えます。新作家具はストーリー機能に適した縦構図におさまるセットを複数展示、瞬く間に来場者によるSNS拡散を促しました。

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スロベニア出身の若手インテリアデザイナー、ニカ・ズパンクによる新作家具『ニッティラウンジ チェア』。※発売日未定

デジタルアートを楽しむためのインテリアに溶け込む家電の提案

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「モーイ」の代表でもあるデザイン界の貴公子、マルセル・ワンダースによる『キッスチェア』。※発売日未定

CGキャラクターが愛のポエムを読み上げ、最後にキスをすると唇がこのソファの形になるムービーがセットの『キッスチェア』。サルバドール・ダリのアイコニックな『メイ・ウェストの唇のソファ』にオマージュを捧げたインスタレーション展示です。韓国に本社を置く「LG」とコラボレーションした有機ELテレビは、騙し絵のようにインテリアに溶け込んでいました。

■4:攻めた展示や仕様変更による復刻で「名作家具」の魅力を再発見!

インテリアに興味をもってくれる層が厚くなったことで起きているのが、名作家具の人気急上昇という現象です。デザインされた当初には実現し得なかった作り方が昨今のデジタル技術の発展で制作可能になったり、サステイナブルの文脈で素材を変更したりと復刻が相次いでいるのは、「ニーズがあるから」という理由があります。 

名作『イ・マエストリコレクション』50周年を記念するアート寄りの展示で話題を呼んだ「カッシーナ」

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ドゥオモ近くの元銀行を赤い光で満たし、アーティスティックな展示が話題をよんだ「カッシーナ」。

「カッシーナ」は、市内2か所で展示を展開。自社のショールームでは新作を中心に発表し、別会場で行われた名作家具『イ・マエストリコレクション』の50周年を記念したアート寄りの展示が話題を呼びました。

展覧会のキュレーションはアートディレクターのパトリシア・ウルキオラとフェデリカ・サラが担当。長い文章で説明されるよりも、すっと感覚的にアイテムのアイデンティティが伝わってくる力量には、改めて感服した人も多かったはず。

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ジオ・ポンティがデザインし1957年に発表された『スーパーレジェーラ』。2階から投げても壊れない軽くて丈夫な特徴を表現。
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【ブランド】カッシーナ 【商品名】スーパーレジェーラ 【価格】¥330,000 【サイズ】幅405×奥行き450×高さ830 座面高455 (mm) 【材質】座面:籐 

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40年前の名作の追加モデル!よりリラックス感を追求した「フレックスフォルム」の『スーパー マックス ソファ』

「フレックスフォルム」で最も愛されているデザインのひとつ『マックス ソファ』は、今年で発売から40年。円筒形のツートンカラーの布張りバージョンの背クッションは、今なお新鮮! そんなデザインの特徴はそのままに、現代的な視点でよりゆったりとした『スーパー マックス ソファ』という名前の追加モデルが発表されました。

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【ブランド】フレックス フォルム 【商品名】スーパーマックス ソファ 【価格】未定 【サイズ】幅2340 ×奥行き1270×高さ690 座面高360 (mm) 【材質】座面:ポリウレタン フォーム、グースダウン 脚:スチール

インゲン豆の形をしたシートクッションのサイズはゆったりとした深く低い座面に再設計され、そこはかとなくアジア的な要素も感じさせるプロポーションに。現代の住宅において第二の床のような使われ方にも向いていそうです。カバー式というものうれしいですよね!

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ブレラ地区にオープンしたショールームでは1983年の発売当初の写真と展示。

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以上、ミラノからの最新レポートをお届けしました。個人的にアフターコロナ初の「ミラノデザインウィーク」は、例年以上に生活に取り入れやすい現実味のあるアイテムが多いように感じました。生活スタイルが変わったことに対して、少し未来の生活をよりよくする提案を丁寧に提示してくれているブランドが増えた結果なのではないでしょうか。

みんなで集まって再会できる喜びはこれまでと変わらず、集まり方が変化していることを意識して、インテリアの配置やアイテムを微調整してみてはいかがでしょう?

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この記事の執筆者
イデーに5年間(1997年~2002年)所属し、定番家具の開発や「東京デザイナーズブロック2001」の実行委員長、ロンドン・ミラノ・NYで発表されたブランド「SPUTNIK」の立ち上げに関わる。 2012年より「Design life with kids interior workshop」主宰。モンテッソーリ教育の視点を取り入れた、自身デザインの、“時計の読めない子が読みたくなる”アナログ時計『fun pun clock(ふんぷんクロック)』が、グッドデザイン賞2017を受賞。現在は、フリーランスのデザイナー・インテリアエディターとして「豊かな暮らし」について、プロダクトやコーディネート、ライティングを通して情報発信をしている。
公式サイト:YOKODOBASHI.COM