雑誌『Precious』では「My Action for SDGs 続ける未来のために、私がしていること」と題して、持続可能なよりよい世界を目指す人たちの活動に注目し、連載しています。

今回は、海獣学者、国立科学博物館 動物研究部 研究主幹 田島木綿子さんの活動をご紹介します。

田島木綿子さん
海獣学者、国立科学博物館 動物研究部 研究主幹
(たじま ゆうこ)海の哺乳類のストランディング個体の解剖調査や博物館の標本化作業で日本中を飛び回る。寄稿や監修、メディア出演のほか、『海獣学者、クジラを解剖する。海の哺乳類の死体が教えてくれること』などの著書も人気。

海岸に打ち上がったクジラたちから受け取ったメッセージを伝えたい

今年1月、大阪湾の淀川河口付近にマッコウクジラが迷い込んだことを覚えているだろうか。「淀ちゃん」と呼ばれ日本中が心配したが、田島さんもあのとき、研究者として現場にいた。「ストランディング」と呼ばれる、海洋生物が浅瀬で座礁したり、海岸に打ち上げられたりする現象。死体で漂着するケースも多いし、生きていたとしても大半は海に戻れずに命を落とす。淀ちゃんもそうだった。海の哺乳類を専門とする田島さんは、ストランディングに関わる死体を調査し、その死因や経緯を究明する仕事をしている。

「ストランディングの一報が入ると、すぐに大荷物を背負って全国どこへでも駆けつけます。個体の死をむだにしないためです。この活動を、私は20年以上続けてきました。のべ2000頭を超える個体を調査解剖してきたなかで、やはり近年、気になっているのは、海洋汚染、特に海洋プラスチック問題です。ストランディングした赤ちゃんクジラの胃の中から7センチほどのビニール片が見つかったこともありました。魚網が巻きついて身動きできず弱ってしまうケースもよく見られます」

プラスチック片に吸着し、残留する環境汚染物質「POPs」も脅威だ。体内に高濃度に蓄積されると、免疫力が低下してしまう。

「現場では、心にグサグサ刺さる事例をたくさん見ます。そのことを発信し、一般の人との認識のギャップを埋めるのも我々の役目。そもそもSDGsは、人間の視点。『人間とそれ以外の生物』という考え方ですよね。でも、本当は私たち人間も、地球で暮らす生物の一員。動物側、自然の立場に立って考えることが、本当の意味でのSDGsになると私は思います」

【SDGsの現場から】

●巨大な個体を現場ですばやく解剖、調査する

サステナブル_1,インタビュー_1
日本での海の哺乳類のストランディング報告は年300件以上。現場での調査は体力勝負!

●展示会を開催し一般の人たちに研究成果を紹介

インタビュー_2,サステナブル_2
国立科学博物館の特別展「海 ―生命のみなもと―」を監修。ナガスクジラの巨大標本も。

※POPsとは…環境汚染を引き起こす物質のなかでも「分解されにくい」「蓄積されやすい」「長距離移動性がある」「有害性がある」化学物質の総称。

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PHOTO :
望月みちか
EDIT :
正木 爽(HATSU)、喜多容子(Precious)
取材・文 :
剣持亜弥(HATSU)