2,500点の日本画や伝統工芸品が配されたミュージアムホテル「ホテル雅叙園東京」。東京都指定有形文化財「百段階段」では、部屋を巡りながら旅行を気分に浸れる展示「懐かしく新しい“レトロ”を旅する 古今東西ニッポンの風景」を開催中です。

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エレベーターを降りてすぐに「旅亭 雅楼」の入口が目に入ります

文化財「百段階段」を架空の旅館「旅亭 雅楼(りょてい みやびろう)」に見立て、7つの部屋にそれぞれ日本の風景を投影しているそう。「前身は江戸時代の旅籠『雅』。関東大震災で消失したが、1931年から再開業を目指し復興に至る。名物料理は鯉こくで、著名人も足繁く通う宿」という設定を聞くだけでワクワク感が高まります。

内覧会に参加したPrecious.jpライターが、展示の詳細をレポートします。

ホテル雅叙園東京 東京都指定有形文化財「百段階段」で開催!「懐かしく新しい“レトロ”を旅する 古今東西ニッポンの風景」体験レポート

■1:架空の旅館の客室を再現/十畝(じっぽ)の間

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至る所に撮影スポットがあり、さまざまなシーンを想像しながら楽しめます

まずは、架空の旅館「旅亭 雅楼」の客室を再現した「十畝(じっぽ)の間」から。

ほっと一息つける座卓スペースや階段箪笥の奥に机が置かれた書斎エリアなど、その場に佇むことで「旅亭 雅楼」の客人として、宿でのさまざまな過ごし方を体感できます。

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窓の外に広がる自然も旅行気分を高めてくれます

“謎スペース”と呼ばれる窓側のくつろぎエリアでの撮影も可能。椅子に腰かけて、“庭から部屋に入ってきた数匹の鯉”が空中遊泳している様子を鑑賞するのもおすすめです。

■2:架空の温泉街の祭りを訪れたような感覚に/漁樵(ぎょしょう)の間

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提灯の幻想的な灯りに照らされた通路を進み、漁樵の間へ

思わず声が出てしまうほど絢爛豪華な「漁樵(ぎょしょう)の間」のテーマは「お祭り」「祝祭」。空間自体を楽しめる華やかな展示が特徴です。

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華やかな「漁樵の間」

郷土玩具や木製のおもちゃ、お面が並ぶ「縁日」スペース。部屋の雰囲気も相まって、架空の温泉街のお祭りを体感できます。

また、「床の間エリア」には米俵を、「床脇エリア」には神事や祈祷などに使用される日本酒を、それぞれ配置しています。角樽の家紋は、この展示のためにデザインされた「旅亭 雅楼」のもの。細部に至るこだわりポイントも見どころのひとつです。

■3:さまざまなアプローチから、こけしの魅力を再発見できる/草丘(そうきゅう)の間

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小さくてかわいいこけしたちを載せたお盆も工人(こけしの作り手)によるもの。かつてはお盆やお椀を作る人がこけしを作ったという流れがありましたが、現在は両方を作れる人は限られているそうです

「草丘(そうきゅう)の間」に入ると、目に飛び込んでくるのは数々のこけしたち。その数に圧倒されます。

イラストレーターで郷土玩具蒐集家の佐々木一澄さんの著書『こけし図譜』(誠文堂新光社)とのコラボレーションで、東北6県11系統のこけしと佐々木さんの絵が展示されています。

こけしは産地によって形や構造などが異なります。同じ産地であっても工人によって作るこけしに違いがあり、さらには、工人の気分によって描く表情にも違いが見られるそうです。

その様子がよくわかるのが、現在と過去のこけしを比べたコーナーです。

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右側の茶色いこけしが戦前に作られたもので、左は現代のもの。心なしか、現代のこけしの方が柄がきっちり描かれているようにも感じます

佐々木さんのコレクションの一部である戦前に作られたこけしを今の工人に渡し、復刻してもらったのだそう。

「制限をかけることで、逆に作り手のセンスがにじみ出てきている」と佐々木さん。戦前のものと同じように作っているものもあれば、大きさが変わっているものもあり、こけしはひとつとして同じものがないのだと改めて実感します。

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右側のカゴに人形が入る仕組みになっている「えじこ」。佐々木さんの双子のお子さんに、土湯系こけしの工人・西山敏彦さんがプレゼントしてくれたものだそうです

部屋の奥には、工人が手がけた郷土玩具を展示するコーナーも。ネジをまったく使わず仕組みを生かして動かすおもちゃやネジを使って動かすおもちゃなど、構造ひとつをとっても工人の個性が表れていて、見飽きません。

このほか、こけしとつながりが深いと言われる江戸時代のおもちゃやさまざま産地のこけしたちがずらりと並ぶコーナーなど、さまざまな角度からこけしの魅力を再発見できます。

■4:レトロポップな世界に没入できる/静水(せいすい)の間

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レトロでかわいい世界観が描かれています

続いては、イラストレーターの中村杏子(きょうこ)さんとコラボレーションした「静水の間」へ。

中村さんの作品集『郷愁的商店街図集』『家内幸福』のデジタルイラストを大型パネルにして展示しています。想像上の薬局やタバコ屋が描かれていたり、ドールハウスのような空間にかわいい動物やレトロなアイテムが配置され、中村さんが理想とする空間が描かれていたり……。

一つひとつのモチーフが魅力的で、細部までじっくり眺めてしまいます。

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右側の椅子に座って撮影ができます

部屋の奥へ進むと、中村さんの作品に登場する動物キャラクターと一緒に撮影できるフォトスポットも。イラストの登場人物になったような気分に浸れそうですね。

■5:アートとネオンの融合を体感/星光(せいこう)の間

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はらわたちゅん子さんと青いネオンさんの作品

温泉街の夜の雰囲気が漂う「星光(せいこう)の間」。

アーティストのはらわたちゅん子さんが実際の温泉地の名前を用いてネオンを描いたシリーズ「ゆのまちネオン」の作品が展示されています。はらわたさんの作品をアクリルパネルに転写してバックライトを当てたものや、ネオン画をガラス管で表現したものもあり、どこか懐かしさも感じられる展示です。

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アクリルパネルに転写されたネオン画が、ほの暗い部屋の中で消えたり、光ったりを繰り返す様子は幻想的です

ガラス管は、老舗企業の「アオイネオン」によるものです。職人が手作業でガラス管をあぶり、その中にガスを注入して通電させることで発光しているそう。じっと眺めているうちに、ネオン特有の揺らぎに心地よさを感じるように。

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アオイネオンさんから教えてもらったネオンの撮影方法。ななめから撮ることで、ネオンの厚みや揺らぎがよくわかります

現在、ネオンはほぼLEDに代わってしまい、職人さんの数も減っているといいます。希少な技術となりつつあるネオンの魅力をアート作品を通して知ることができます。

■6:ホテル雅叙園東京の前身・目黒雅叙園の歴史に触れられる/清方(きよかた)の間

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目黒雅叙園の創業者、細川力造氏の写真も

日本画の大家・鏑木清方(かぶらぎきよかた)による美人画が施された「清方(きよかた)の間」では、「旧目黒雅叙園への旅」と称された展示を鑑賞できます。

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婚礼パンフレット。刺身の有無など予算によって料理の内容が異なります

新聞広告や1955年ごろの婚礼パンフレットなど、貴重な資料を閲覧できます。中には、1932年に目黒雅叙園で行われた叔父の結婚式に出席した女性が寄贈した風呂敷も。その歴史をしっかりと感じることができます。

■7:地元に根付いたパンの袋がずらり/頂上の間

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さまざまな地域のパンの袋が展示されています

99段の階段を上り、「頂上の間」に到着。文筆家の甲斐みのりさんが全国を旅している中で出会った地域に根付いたパン「地元パン(R)」を収録した著書『日本全国 地元パン』(エクスナレッジ)とのコラボレーションです。

ガラスケースには、甲斐さんが収集したたくさんのパンの袋が。とてもきれいな状態で保存しているところからも、甲斐さんの「地元パン(R)」愛が伝わります。

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フォトスポットでは、たくさんのパンの袋を背景に撮影できます

パッケージのフォントやイラストなどから懐かしさや温かみを感じられます。「中に入っているのはどんなパンなんだろう?」と想像して、甲斐さんの本で答え合わせするのも楽しそうですね。


本展示のチケットは、受付またはオンラインで購入可能です。なお、オンライン限定でホテル雅叙園東京のレストランのランチとセットになったプランもあるので、詳しくはホームページをご確認ください。

文化財「百段階段」は1935年に建てられた木造建築のため、訪れる際は暖かい服装や厚手の靴下の着用がおすすめです。

問い合わせ先

  • ホテル雅叙園東京 
  • 開催期間/〜2023年12月24日(日)、2024年1月1日(祝)〜2024年1月14日(日)
  • 開催時間/11:00〜18:00(最終入館17:30)
  • 休館日/2023年12月25日(月)〜2023年12月31日(日)
  • 料金/大人 ¥1,500、小学生〜大学生 ¥800、
  • TEL:03-5434-3140(10:00〜18:00)
  • 住所/東京都目黒区下目黒1-8-1

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この記事の執筆者
フリーランスのライター。企業の採用サイトやパンフレット、女性向けの転職サイト、親向けの性教育サイトなどで取材記事を執筆。好きなもの:中村一義、津村記久子、小川洋子、マンガ、古いもの、靴下など
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EDIT :
小林麻美