【ART】初期の代表作から最新作までを一堂に|草間彌生の変幻する色彩の世界に迷い込む

前衛芸術家・草間彌生。その表現への情熱は、今、この瞬間も沸き上がっています。’17年に草間自身が設立した「草間彌生美術館」で現在開催中の展覧会では、70年以上にわたり生み出されてきた草間ワールドに圧倒されっぱなし!

エディター・ライターとして活動中の中村志保さんに、見どころについてナビゲートいただきました。

中村志保さん
エディター・ライター
慶應義塾大学文学部美学美術史学専攻卒。ロンドン大学ゴールドスミス校でファインアートを専攻後、メディア学修士修了。『美術手帖』『ARTnews JAPAN』編集部を経て、エディター・ライターとして活動中。

草間彌生《残夢》

展覧会_1,東京_1
1949年 岩彩・紙 136.5×151.7cm (C) YAYOI KUSAMA

暗澹たる雰囲気を醸す初期の代表作で、シュルレアリスムを想起させる。色彩の強いコントラストは既に顕著だが、描かれたモチーフは具象的でもある。この後、時を経るごとに作品の抽象度が増し、1957年の渡米後は、単色で網目などの抽象的なパターンを大画面いっぱいに描く作風へと変化していく。

草間彌生《毎日愛について祈っている》

展覧会_2,東京_2
2023年 アクリル・マーカーペン・キャンバス 53×65.2cm (C) YAYOI KUSAMA

’21年から制作を続ける最新の絵画シリーズのひとつ。これまで2色のみを用いることが主だった網や水玉の絵画において、本シリーズからは、速やかな描画を可能にするマーカーペンも多用しながら、さらに異なる色を使って描くことが顕著に。作家の内面世界のうごめきをより強く感じることができる。


黄色に黒の水玉カボチャ。水玉ワンピースを纏ったおかっぱヘア。さてこれは誰?…なんとも簡単ですね、正解は草間彌生さんです。常に世界の注目を集め、ポップで可愛い作品に、グッズもたくさん。まさにアート界のアイコン!ですが、そんな可愛さとは裏腹に、作家は幼少期に体験した幻覚や幻聴から逃れるために描き始め、増殖していくような水玉模様の原点もここにあるといいます。

草間彌生美術館で開催中の「幻の色」に並ぶのは、初期から最新作までの代表作。独特な色彩に溢れ、94歳になった今も新たな色を探求しながら新作を生み出し続けるパワーに圧倒されます。しかし、『毎日愛について祈っている』と題された近年のシリーズには、生命を賛美するかのような明るい色彩とは対照的に、滲み出る強い哀愁を感じます。一粒一粒の水玉の筆致は、哀情を刻みながら癒していく、祈りにも似た涙の跡にも思えてきます。そしてふと目が止まった、彼女が20歳の頃に描いた作品には、“ああ、これもまた草間彌生さんなのか”と不思議な気持ちに。題名は『残夢』。赤い血のような大地に、食肉らしき植物が咲いたか枯れたかわからぬまま乱れ、地平線に隔てられた空は憂鬱な哀色。目覚めても心に残る夢。見果てることのない夢。

人は誰しも心に哀しみを秘めているものですが、その哀しみを自分の内にどう持ち続けるか。持ち続けることで優しさに変えることはできるのか。20歳の草間さん、現在の草間さん、どちらの彼女からも大きな問いをもらったように思うのです。(文・中村志保)


【Information】『幻の色』現在、開催中〜2024年3月24(日)まで

※入場は日時指定の完全予約・定員制。チケットは美術館ウェブサイトのみで販売。

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EDIT :
剣持亜弥
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