EUの行政トップを担う、欧州委員会初の女性委員長!
![2023年11月、ガザ地区で開催された国際人道会議でのウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長。](https://precious.ismcdn.jp/mwimgs/9/e/720mw/img_9ec58799c334dc8596de5845d22d5105927007.jpg)
アメリカの経済誌『フォーブス』が、2023年末に19回目となる「世界で最も影響力のある女性100人」のランキングを発表した。
1位に輝いたのは、欧州連合(EU)の執行機関、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長だ。2位には欧州中央銀行のクリスティーヌ・ラガルド総裁、3位にはアメリカのカマラ・ハリス副大統領が入った。
2位のクリスティーヌ・ラガルドは、小物やアクセサリー使いが抜群に上手で、センスよくキャリアルックを着こなし、働く女性のアイコン的存在だ。
現在65歳のウルズラ・フォン・デア・ライエンは、2019年から委員長に選出されており、欧州連合の役職では最も強力な権限をもつ。ファッション面で注目されることはラガルド氏ほどではないが、フェミニンさを漂わせる清潔なキャリアルックが特徴的だ。
![2019年12月3日、欧州委員会本部で行われた正式引継ぎ式典でのウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長(左)とジャン=クロード・ユンケル元欧州委員長(右)。](https://precious.ismcdn.jp/mwimgs/7/1/720mw/img_71ebe0e1b9258b5dfc06b598ed4bbacc963323.jpg)
だが、欧州委員会初の女性委員長であるウルズラが一般的なニュースで一躍有名になったのは、皮肉にも「ソファゲート」事件であった。
あからさまな性差別が示された「ソファゲート」事件とは?
それは、2021年にトルコとEU間で生じた緊張関係を打破するために、トルコ・アンカラの大統領府で開催された首脳会談の席での出来事だ。欧州委員長ウルズラと、欧州理事会議長シャルル・ミシェル、そしてホスト側がエルドアン大統領という顔ぶれだったが、なんと最も格上のウルズラの席が用意されていなかったのだ。
3人のリーダーが膝詰めで会談する場所で、用意された椅子は2つだけ。エルドアン、ミシェル両氏は、それぞれトルコ国旗とEU旗を背にして、隣り合う金の刺繍の椅子に着席(のちにミシェルは批判され謝罪)。椅子がないウルズラは、驚いて立ち尽くし「エヘム」という咳払いで不快感を明らかにした映像がある。椅子なしで放置されたウルズラは、仕方なく、かなり離れたソファに座り、会談が始められた。
明らかに露骨な性差別。その証拠に2017年にブリュッセルで行われた会談では、エルドアン大統領と、欧州委員会と理事会を率いる2人の男性には快適な椅子が用意され、大統領を囲む形で座っている。同じく2015年にも、トルコでの首脳会談で当時のEU首脳の男性と共に3人が座って並ぶ写真が残されている。女性というだけで、ウルズラが軽んじられたのではないか?
![2021年4月26日、4月6日に起きた「ソファゲート事件」に関する欧州議会に出席するウルズラ委員長。](https://precious.ismcdn.jp/mwimgs/3/1/720mw/img_31ca893ca02a0dac396300488f98728e817624.jpg)
事前のプロトコールのチェックも、トルコ側が拒否したと言われている。この出来事は、女性の権利や地位向上、名誉に関わることとして大きな関心を呼び、メディアでも問題視され、EU各国首脳が遺憾の意を発表した。また、トルコのエルドアン大統領が、女性への暴力防止を目的とするヨーロッパ条約からトルコを離脱させてから1か月も経たないうちに起こったため、エルドアン大統領の方針を顕示することともなった。
トルコもミシェル氏も非難された(トルコはEUを非難)が、ウルズラは公には非難していない。ただウルズラは、自分が異なる扱いを受けるべき理由が見つからない、『女性として、ヨーロッパ人として」「傷つき・ひとりぼっちになった」と感じたことを認めた。
そしてこう言った。「これは椅子の配置や儀礼に関するものではない。私たちが誰であるかという核心に触れるもの。女性が平等に扱われるまで、まだどれだけのことをしなければいけないかを示しています」と。
医師免許をもち、7人の子を育てながら政治家としてキャリアを積んだ真の才媛
ドイツ人であるウルズラの正式の名前は、ウルズラ・ゲルトルート・フォン・デア・ライエン。一時期はアンゲラ・メルケル元ドイツ首相の後継者と目された時期もある。父親や叔父は、実業家、政治家、音楽指揮者など、恵まれた環境で育ち、本人も経済学から、医学博士号まで数々の資格号を持つエリートだ。「フォン」と言う敬称は、男爵家出身の貴族の血筋を表している。医学教授で実業家である夫との間に7人の子供がいる(全て実子)。
地方の政界入りから始め、順調にキャリアを築き、第1次メルケル内閣から家族、高齢者、女性、青少年相として入閣している。労働、社会相、国防大臣などを歴任して、現在の地位に選出された。
![2005年11月、ドイツ初の女性首相となったアンゲラ・メルケル首相(右端)による新内閣のメンバーに任命されたウルズラ(左から2人め)。](https://precious.ismcdn.jp/mwimgs/6/b/720mw/img_6bf9d497d6001a31fc9154367e3ef1441018133.jpg)
ガラスの天井を突き破り、待望の初の女性欧州委員会委員長が受けた時代錯誤のこの仕打ち。女性だけではなく、全世界を怒らせた。ウルズラの名前を一般的に知らしめ、女性の人権に対する関心を一気に高めたという意味では、ネガティブな事件ではあったが、逆に世論をかき立てる引き金となった。
日々のファッションに表れる、意志ある信念の強さ
ウルズラは、野心的と目されることも多いが、女性「性」を誇示するような着こなしはほとんどしない。だが、常に女性であることを示す記号のように、淡いピンクや赤などのノーカラーや糸瓜(へちま)襟のジャケットや、スカラップ使い、柔らかな印象のカーディガンジャケットなどを愛用している。エルドアン大統領との会談の際も赤いノーカラージャケットであった。
![2022年6月、ドイツで行われたG7サミットにて、英国のボリス・ジョンソン首相とウルズラ委員長。](https://precious.ismcdn.jp/mwimgs/7/b/720mw/img_7b36bef281b6d18bb249c96debf5bf8a727787.jpg)
![2023年5月、ドイツのフランクフルトで行われた欧州中央銀行創立25周年記念式典にて、同銀行総裁のクリスティーヌ・ラガルドとウルズラ委員長。](https://precious.ismcdn.jp/mwimgs/1/d/720mw/img_1d71437c45894eb8a8e7ae8b8892584a864153.jpg)
だが、フェミニンさはそこまで。ほとんどの場合黒のパンツを合わせ、甘辛のコントラストでシャープに決めている。白黒や、ベージュ、グレーに白いシャツを合わせることも多く、カラフルな柄の着こなしは数えるほどだ。
![2023年11月ウクライナのキエフにて、ウォロディミル・ゼレンスキーとウルズラ委員長。](https://precious.ismcdn.jp/mwimgs/9/6/720mw/img_96dd368695599da63dff16fb340d3440888672.jpg)
![2021年12月、ドイツのデュッセルドルフでのウルズラ委員長。](https://precious.ismcdn.jp/mwimgs/4/c/720mw/img_4ca4633932c399a01a504ff07a8ec56a880771.jpg)
![2022年6月オーストリアのウィーンでのウルズラ委員長。](https://precious.ismcdn.jp/mwimgs/d/6/720mw/img_d6671a30a8b0a68b5bc9a00d92c370b9785074.jpg)
アクセサリーや、スカーフ使いなども多くなく、ジャケット一本勝負。多忙な女性に多いスーツスタイルではなく、必ずジャケットとシャツをローテーションのようにコーディネートしているのが、ウルズラの特徴である。乱れないヘアスタイルと共に、自分のなかで「これが、私の戦闘服」と決め、日々の着こなしに煩わされないというのが、信念なのだろう。これはこれで、意志を貫いた着こなしである。
![2023年6月、ベルギーのブリュッセルで開催されて欧州理事会サミットでのウルズラ委員長。](https://precious.ismcdn.jp/mwimgs/f/1/720mw/img_f1b91d20b50c46254d8aeb5d5f39b5e6749204.jpg)
![2023年4月、パリでフランスのエマニュエル・マクロン大統領とウルズラ委員長。](https://precious.ismcdn.jp/mwimgs/9/7/720mw/img_972b79884bedf9af2f3a4ada6b6e05e71013793.jpg)
![2020年12月、ベルギーのブリュッセルにて英国のEU離脱交渉について声明を発表するウルズラ委員長。](https://precious.ismcdn.jp/mwimgs/7/4/720mw/img_746f6b2d56775dee50ae0d28de60d8cf766764.jpg)
だが、そこで合理的でドイツ的とするのは早計だ。夫と共に登場するイブニングドレスの華やかでセクシーなこと。アクセサリーや髪型もパーフェクトでゴージャスだ。
![2006年7月、ドイツのバイロイトで開催されたワーグナー音楽祭に夫のハイコ・フォン・デア・ライエンと出席するウルズラ。同じドレスは2018年にも着用。](https://precious.ismcdn.jp/mwimgs/3/7/720mw/img_379f61dac8c1ced812eb6b5d60f3e8061184862.jpg)
![2011年11月、ドイツのベルリンで開催された連邦プレスボールに夫と参加するウルズラ委員長。](https://precious.ismcdn.jp/mwimgs/c/c/720mw/img_cc52547a466421f433e55b2b7b2b30b5658678.jpg)
豊かなライフスタイルを感じさせる、振り幅の広さが背景にあってこそ生まれるユニフォーム的な仕事着なのだろう。
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![](https://precious.ismcdn.jp/mwimgs/e/3/-/img_e340502bed17043c3cd52ba25277ed996760.jpg)
- TEXT :
- 藤岡篤子さん ファッションジャーナリスト
- PHOTO :
- Getty Images
- EDIT&WRITING :
- 谷 花生(Precious.jp)